オマケ 外伝:管理神と上司神のフラグ設置作業

オマケです。話の裏側なので飛ばして読んでもらっても大丈夫です。


★ 転生神を封印した直後 管理神と上司神


「ふう、まったくいい大人がみっともない、あれほど取り乱すとは思ってもみなかったな」


「はい、想像以上でした」


「ところで、あの女の子だが、どうするつもりだ?」 


「そこなんですが、予定のストーリーラインからは外れてしまいました。彼女が落下時に粘ったお陰で、落下地点は予定のホラの地から、ヒューパ領内の山奥に落ちました」


「え、だって予定では、ホラの村の敷きワラの上に落ちて、不良冒険者に見つかり、そのまま奴隷として売られた先…海の見える豊かなペリバトス共和国の農村から、知識チートで成り上がる予定だっただろ。準備もしてたし、どうするのそれ?」


「ええ、ペリバトスの学園に留学に来ていた貴公子と出会って、恋に落ちてもらうルートだったのですが、困りましたね。一応、落下後に助けが入るように、近くにいたドワーフへ彼女の存在を気づかせてはいるのですが……」


「うわー、何だよそれ、今の神威値じゃしばらくあの世界には勇者を送れないし大きな介入はむりだぞ。当面の間は様子見するしかないのか」


「そのようです」


「じゃあ、少し様子を見ながら近くに丁度よさそうなキャラクターがいないか探してみてくれる?  女主人公なら王子様さえ用意しとけばいいだろ、今はアレだろ、ちょっと小生意気なワイルド系王子様みたいなの有ればホイホイ飛びつくだろ、なんならピンク色の物でもあてがっときゃ良い。難しかったら僕も手伝うから、いいね、じゃ頼んだよ」


 上司神が部屋から出て行く。

 1人残った管理神はため息をつきつつ、ティアの様子をモニタリングしつつ、キャラクターを探していた。



 それから現地時間で数ヶ月が経ち、上司神を呼び出した。


「やあ、管理神ちゃん、どう、進捗してる? 進捗」


「はい、良い候補を見つけました。エウレカ公国第一王子のウルリヒと言うのがおります」


「へえ、それってどうなの?上手くいきそう?」


「進捗状況ですが、今、ティア達はエウレカ公の城に着いたようです。彼女をエウレカ公国内の社交界に誘い込み、エウレカ国王の後継者問題を利用して、王子のウルリヒとティアとの婚約話しへ誘導しております。上手くいけば国王とヒューパ男爵との間で婚約までいけそうです」


「何それ、貧乏貴族のヒューパ家と、王家の第一王子とが、いきなり婚約なんて無理じゃないの?」


「大丈夫です、国内の貴族同士の派閥争いで、第一王子の母親は謀殺されており、後ろ盾が無くなっています。新しい妃との間に生まれた第二王子の派閥が強くなっており、王も第一王子を廃嫡するつもりですね」


「えっ、それってまずいじゃないの」


「はい、ここから逆転させますので、何とかなるかと。なので今回は、親同士での婚約に持っていきます」


「いや、それならいいけどさあ、進捗状況ってまだそこまでなの……うーん、じゃあさ、ウルリヒ君と直接対面させちゃおうよ、できれば……そうだな、劇的な出会いなんてどうだろう、最初に印象的な出会いをさせて、でっかいフラグを立てよう、うん、それがいい、そうしなさい」


……


「…はい……では、ウルリヒ王子に婚約話しが聞こえるように誘導して、ショックを与えてみます、その上で王子をティアのいる部屋へと誘導するのはどうでしょうか?」


「うん、イイねイイね。そうだよ、それ、やってみて」



 管理神は、シクシク痛む胃を抑えて計画の変更作業についた。



★帝歴2501年3月17日 エウレカ公城 ウルリヒ第一王子


 偶然通りかかった部屋で、父上と宰相との会話を聞いてしまったウルリヒ王子は、お付の者と一緒に城の廊下を早歩きで進んでいく。

 彼が目指すのは、辺境からきたヒューパ男爵の待つ控えの間。


 なんとふざけた事に、このエウレカ公国の第一王子たる自分と、田舎男爵の娘とを婚約させようとしているのが、小耳に入ってきたのだ。

 最近、私の周りでの雰囲気がおかしくなっている。ここは、自分の存在感を示さなけれればいけない。


「しかし、何を馬鹿なことを、私が辺境から来たような娘と婚約だと、しかも小さな娘なのにワイバーンを退治したとか聞いたぞ、馬鹿なことを皆言っている、私よりも幼いのに、優秀で竜殺しの腕を持つ少女など居るはずがない」


 勢いよくズンズンと廊下を歩きながら勇ましそうな独り言が漏れているものの、王子本人は、自分より年下の者が竜殺しをしたと聞いて嫉妬心と、竜殺しをするほどの女とは火炎熊のような女なのかと、自分の婚約者がそんな怖い女である想像にかられ、不安で不安で、確かめたくてしょうがなかったのだ。


「ヒューパ男爵とその娘のいる部屋はこの部屋かっ!」


 扉の前に立ち、後ろを歩いて付いてきたお付の者に問いかける。


「は、この部屋で間違いないかと、ウルリヒ王子、なにとぞレディの前では礼儀をお忘れなく、相手は小さくとも女性なのですぞ」


「うるさい、分かっておるわ」


 とは言ったものの、8歳のウルリヒ王子は、熊のような女が待っているかと思うと怖くてしょうがない。以前、騎士達が討伐して持ち帰った、5mを超える巨大な火炎熊を見た時の恐怖が蘇る。

 

 お付の者に自分が恐怖心を持っているのを悟られたくないのと、中にいる女に舐められるわけにはいかない。

 そう決心したウルリヒ王子は、目の前にそびえるドアの前に立ち、中に入ろうとしたが、やっぱり怖いのでドアの周りをウロウロするばかり。

 見かねたお付の者が声をかける。


「ウルリヒ王子様、今日はこの辺でお部屋に戻ってはどうでしょうか? また次の時にでもお話をすればよいのです」


「うう、そ、そうか、ではまた次にでも……」


 ……って駄目だ、今ここで逃げては、やがて国を統べる王となる私の沽券に関わる。


「い、いや、やっぱり入るぞ、お前はここで待て」


 ふううう、怖い、怖いが勇気を振り絞ってドアを叩くように開けた。


 ガタンッ!

 ドアから飛び込み、中を見渡すと貴族夫妻とその隣に椅子から両足をプランプランさせている、小さな少女を見つけた。


 あ、こいつか、全然火炎熊じゃないじゃないか、良かった。

 ホッとしながらも強気で少女に尋ねる


「幼女の身でワイバーンを倒したのと言うのは貴様かっ!」


「違います、部屋を間違えましたね、別の部屋の女の子ですよ」


 え??  しっしまった、私は部屋を間違えたのか。


 羞恥心で見る見る王子の顔が紅潮していく。

 一刻も早くこの場から逃げ出したい。


「な、何だとー、しまった、失礼した」

バンッ


 慌てて部屋から飛び出すと、丁度、父上が私を探していると迎えの者が呼びに来ていた。


 クソっ、ティアめどこにいるのだ…ちょっと怖いけど、父上に呼ばれて助かったな……私が。



★ 現地モニタリング中の白い部屋 管理神と上司神



 ……


「ナニコレ」


「え……あれれ、おかしいな」


「瞬殺だったね、瞬殺でフラグ折られちゃったじゃないか、なにこれ、この王子バカなの? なんであんなので騙されるのか分からない」


「は、はい、まだ小さい男の子なのでしょうがないかと……えーっと、まだチャンスはあります、この後の予定を見ると園遊会の時、子供達だけでの集まりがありますので、その時にもう一本のフラグを立てましょう、次こそは大丈夫です」



 それから数日後、もう一度管理神は上司神を呼び出し、ウルリヒ王子とティアとの間にフラグを立てるべく奔走をしていた。


「んー、管理神ちゃん、どうなの進捗、進捗状況はどうなってる?」


「はい、今度はウルリヒ王子の周りにお供の者を付けてフォーメーションを組ませています。今度こそ大丈夫です。おまかせ下さい」


「うーん、頼んだよー、管理神ちゃん、早くこの世界を復活させて神威値を創りださないと大変なんだからね、君のこと押して前任者を首にしたんだから、ノルマ、守ってよ」 


「はい…」


 神の世界もノルマがある……厳しいな。


 かつて平成日本時代、銀行で勤めていた経験のある管理神は深くため息をついた。



★帝歴2501年3月21日 エウレカ公国園遊会 子供会場 ウルリヒ王子



「皆の者よいか、ヒューパ男爵家のティアじゃ、今宵の園遊会では、子供会場に現れるはず。この者を取り囲み逃さぬようにせよ。私は彼女と話しをつけねばならぬのだ」


「はい」「御意」「はっ」……


 王家領内で第一王子派閥に属する内政や騎士団等の重職の子弟たちだ。8歳になるウルリヒ王子とだいたい年格好が似ているこの子供達は、次世代の政務を担うべく、学友として各名門氏族の中から選ばれた精鋭である。


 第一王子を押す名門氏子弟によって集められた精鋭男子によって、万全の体制で組まれたフォーメーションは、早くから会場入りをして、完璧な形でティアの来場を待ち構えていた。


 約1時間後


「おーい、こっちこっち、このお菓子美味いぞ」「えー、王子こっちのも美味いですよー」「見てください、この木でできたパズル」「うっわすげー」「俺にもやらせろよー」


 万全の体制であったはずのフォーメーションは、楽しそうな物をいっぱい置いていたパーティー会場の誘惑にもろくも負けていた。


 当然のことなのだが、男子なのでそうそう長く緊張感など続く訳がなく、面白そうな物があると、あっちへフラフラ、こっちへフラフラすることになる。


「おい、これを見ろ、最新の貴族ライフゲームだ」「えー、本当ですか王子」「うわ、スゲエ、俺まだやった事ないやつだ」「早くやりましょう王子」


 部屋の片隅に余興用のボードゲームが有るのを王子は見つけた。貴族ライフゲームとは、かつて異世界から召喚された勇者によって開発されたボードゲームである。政治、経済、政略婚、軍事等、あらゆる貴族としての人生を戦略的に学ぶことのできるボードゲームで、貴族の嗜みとされていた。

 このボードゲームによって、勇者は、貴族ライフゲームを時代の流行りに合わせ次々と新しいバージョンを発売し、巨万の富を得たと伝えられる。


 王子自ら最初の目的をすっかり忘れて、学友たちと一緒に興じることになっていた頃、ティアが会場に入ってくる。

 当然の事ながら全くティアには気づかず、時が流れていき少年たちの幸せな時間が過ぎようとしていた。


 が、突然王子のいる場所に異変が起きる。


 ガンッ!

 なんと、ゲームに集中していた王子の頭の上に、料理用の小ぶりなタライが落ちてきたのだ。


「ふぁっ、な、何奴」


 慌てた王子と周りの学友たちが、急いで不敬を働いた不届き者を探す。


「ぬううううう、痛い、誰がやったのだ、探せっ」


 学友たちが不届き者を探している中、王子は部屋の隅っこに見たことのあるような気がする少女を見つけた。


 ……あれ? 見たことのあるような無いような……あっ、あれはティア……かな?

 一度人違いと騙されたので、もし今回間違えたなら大変だ、特徴的な黒髪を隠しているので分からない。ここは慎重にいかねば。


 周りの学友の内の一人が、王子の視線の先に気がつく

 ……もしかしてあれがティア?


 残念ながら学友たちはティアの特徴を聞いていただけで、誰も顔を知らなかったのだ。


「王子、ティアを見つけたのですな、皆の者いくぞ、王子がティアを見つけられた」


 気の効いた学友だ。だが王子は焦っていた、確信がないのに周りの雰囲気に流されて壁際にいる少女の元へと行く羽目になった。



★現地モニタリング中 管理神と上司神


 ……


「おい、おいってば、管理神、どうなってるのこれ、人数集めてみたらボンクラしかいないじゃん」


 ……


「男子…だからですよねえ……」


「いや、男子だからって……ダメでしょそれ。私が貴重な神威値使って王子の頭の上にタライを生成して落として気づかせたけど、大丈夫なのこれ? ちゃんとフラグ立てられるの?」


「ちゃんと王子達は、ティアの元へと向かっております、これで出会いからのフラグは確実かと」


「ほんとーなの、期待してるよ」


 管理神は胃に穴が空きそうな思いでモニターを覗き込んだ。



★帝歴2501年3月21日 エウレカ公国園遊会 子供会場 ウルリヒ王子


 ウルリヒ王子は迷っていた、周りの学友たちの手前、この少女に声をかけなければならない、でも確信がもてない、本当にこの少女はティアなのか?


 うー、声かけるの辞めようかなあ……


「おい、お前だ、ウルリヒ王子様が用事があるのだ、こっちを向け」


 王子がモタモタしていたら、気の利いた学友が勝手に声をかけているじゃないですか、王子は焦った、いや、ちょっと待ってよ、もう少し違うアプローチもあるでしょうに。

 だが、彼女は学友に声をかけられたことに気がついていない。一緒にいた別の貴族の女の子との会話に夢中になっていた。


 もうここまで来たなら、腹をくくるしかない、覚悟を決めたウルリヒ王子は、壁際で会話を続ける少女へと声をかける。


「ティア、ティアであろう、貴様……おい、おいってば」


 全く自分の方に反応を示さない少女に、ますます人違いでなかったのかと不安が募る。


「おい、呼んでいるであろうが、聞こえぬのか? お前だ、呼んでるだろうが」


 やっと呼びかけ声に反応した少女がこちらを向く。


 ドキッ!

 か、可愛い……ドキッとするほど意思の強い視線で正面から射すくめられると、王子は心臓の鼓動が早くなり、自分の変化に戸惑う

 ……そしてその反応を攻撃されたと勘違いする男子特有の反応へと変換させ、目の前の少女に負けまいと……いや、気を引きたくて傲慢な態度を取らせた。


「お前が精霊ワインの力を借りて竜殺しをしたヒューパのティアだな、覚えておるぞ、そなたがティアであろう。前の時は、私を良くも謀ってくれたな、覚えておろうが」


 正直自信がないが、心臓がドキドキしながら確かめようとする。

 少しの間があって、目の前の少女が答えた。


「ウルリヒ王子様、人違いでございます。そのティア様なら先ほど外に出て帰って行きましたよ、まだ追いかければ追いつくと思います」


 ひー、やってしまったー、人違いだ。目の前の少女の顔を見つめるとどうしてもドキドキして正常な判断がつかない、一刻も早くこの場を離れたい。


「むっ、なんと、それは失礼した。者共いくぞ、ついてまいれ」


「え、王子いいのですか、ちゃんと確かめなくても」


「よい、急げ」


 外に向かって学友達と共に飛び出して行き、当然ながらティアには出会えず、さっきの少女の前にまた戻るのも辛くて、帰ってしまった。


 時にウルリヒ王子8歳の春である。



★現地モニタリング中 管理神と上司神


 ……

 ……


「…えーっと、フラグ全折れだね」


「…はあ」


「はあ、じゃないよ、どうするのこれ? 彼女へのフォローできないじゃん。王族と婚約して無双パターンじゃなかったの?」


「どうやら違うみたいですね……」


 ……


「まあ、いいよ、まだ幼女なんだしもう少し様子を見るから進捗状況は教えてね」



 それから管理神は色々と試してみた、彼女の近くにいたパッとしないキャラクターのドワーフの少年、彼の枕元に夜な夜な立って操ろうとしてみたが上手くいかない。他にも色々やってみたのだが、なかなか上手く行かない内に彼女が化学物質を作ろうとしていて、慌てた。


 だって、魔法文明の土地に化学の力でニトログリセリンを作ろうとしてて、マズイでしょそれ。


 上司神もすっ飛んできて、化学実験を止めに入ろうとしたら、爆発事故になってしまい、ぱっとしないキャラクターのドワーフの少年が、瀕死の重症になってしまった。

 大変な事をしてしまったと、管理神と上司神の二人がワタワタしていたら、ティアが3回しかないチート魔法を使って少年を癒やしてしまう。

 二人は驚いた。だって、世界を救う勇者の最大能力が回数制限なのに、それを使って他人を直してしまうなんてあり得ない事が起きたのだし。


 この事故をきっかけに、二人の神はティアの管理方法を見直す事になる。


「まあ、しょうがないね、ここまで自分の意思で動き回られると、成り行きを見守っていくしかないね、これは」


「はい、チャンスがあれば、フラグをねじ込もうとは思うのですが……」


「もう良いよ、何かあったら連絡して、一応進捗状況は定期的に送ってよ」


「はい、分かりました」


 ……

 こうしてティアの勇者としての管理方法が見直され、管理神の胃に穴が一つ増えたのだった。


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