ティアは宣言する

★帝歴2501年10月17日 ホラ郊外 ティア


 私達ホラ占領軍は、丘に留まって難民たちへの食料の配布と、毛布やテントを渡していた。


 この日、うちのお父さんからは、すでにホラ近隣の有力土豪の豪農や富裕層たちへ、占領後の協力を募って使者が送られており、早ければ今日の夕方にはここにやって来て会談を持つことになっている。


 私が、ホラ男爵が戦場に残していった納税台帳や色々な書類を見ると、ホラ男爵は彼らからの借金が残ってるし、今年の税を収めらておらず、どうやらホラ男爵は自領の運営にかなり頭を悩ませていたフシがある。

 会談をする私達も気を引き締めないと、今後の領地運営に支障が出そうだった。



「「姫様、なにとぞ相手を怒らせたり、逆に侮られたりなどしないよう、余計な口は謹んで、交渉その物は私達にお任せください。よろしいですね?」」


 ムンドーじいじがホラの豪族を呼びに出発する前、ヒューパの街からやって来た商工ギルドや色々な役職を持つ大人達と一緒に、私の荒ぶる暴走魂にグギを差してきた。


 いやいや、皆さん、私は良い子ですよ。

 子供相手だと思ってるオジサマ相手に腹を立てて暴れる私って未来を予想しているんでしょうが、私だってちゃんと考えている。多分大丈夫、我慢ができる良い子です。


 冗談じゃなく、今後を考えれば、彼らホラの有力者たちの協力はかかせない。計算高く慎重にやらないと危険だ。

 占領政策の大体は、お父さんと決めて私がやりたい事も盛り込んだ。後は大人達に任せればいい。


 その後、役職を持った大人達は、私の後をゾロゾロと付いてきた。

 どうやら、この前、狼族獣人のゲネス相手に、独断で勝負タイマンしたせいで、大勢で私の監視をしているらしい。


 しょうが無いね、テヘッ。



「ふんふふーんふふー♪ あれ?」


 土豪達が来るまでの間、大人達を引き連れ、鼻歌を歌いながら難民に食料を配っているのを見回っていると、離れた場所に食料を受け取っていない集団が有った。

 その集団には、小さい子供達も混ざってるし、皆顔や体に包帯を巻いている。

 何故かその場所には、誰も食料を持って行こうとしなかった。


「え? 何で? あ、ベックちょうどいい所にいた、なんであそこにご飯持っていかないのよ」


 近くで食料配布の手伝いをしていたベック少年と、トラビス少年に何故かを聞いてみる。


「良く分からないのですが、大人の人からあそこへは持って行くなと言われていまして」


 後ろに立っていた大人達が、困った顔をしてオロオロしている。

 1人が代表して私に説明をしてきた。


「あ、あの姫様、アレには事情が有りまして持って行かなくても……」


……


「はあ? ちょ、何言ってるのよ。小さい子供達も居るじゃない、ほんと何言ってるの?……ベック、こいつらの言ってる事無視しろ、私が本気で怒る前に走って持っていけ、な、走れっ」


 指を指されたベック少年とトラビス少年の2人は、慌てて食料を持って走って行く。

 後ろに立っていた大人達は、変な顔をしてお互いを見合わせていた。


 いい大人達が集まって何言ってるんだろ。小さい子供もいるし包帯巻いてる怪我人じゃない、真っ先に助けないでどうするのよ、全く。


 プンプンしてたらちょっと離れた場所にいた、例の狼族獣人のゲネスが微妙な顔で私の方を見てるのに気付いた。


 何よ、私の顔に何か付いてるの? 失礼しちゃうわ。


 ゲネスを無視してその集団へと歩いて行った。



 近くまでくると、ベック少年やトラビスから差し出される食料を、断ろうとしている包帯まみれの少女がいた。

 声がまだ幼い感じなので、多分少女なのだろう。


「い、いえ、ありがとうございます。お気持ちだけで十分でございます。わたくしどもは、不浄のカチクでございますから、教会からの施し物か皆様の残飯で十分なのです」


 包帯の少女が、断ろうとしているが、後ろにいる小さな子ども達のお腹はグーグー鳴っている。


「何をグダグダ言っているの、私が食べろって言っているのだから何も問題は無いでしょ、その子達に食べさせてあげないさい」


 私の言葉を聞いて、後ろの子ども達が少女へと一斉に問いかける。


「チュニカ姉さん、食べてもいいの? ね、本当にいいの?」

「えっ……で、でも……」


 包帯の下から見える怯えた少女の目が、私の後ろの方を見ていた。


 ……ん、後ろ?


 私が後ろを振り返えると、1人の男が立っている……町人風の人族の中年男性。

 見慣れない顔だ、多分、ホラの街の人間だ。

 その男が口を開いた。


「へへへ、ヒューパの旦那様方達、失礼しやす」


 私が訝しんでいると、男はそのまま子ども達の方へと歩いてきて、チュニカと呼ばれた少女の前に立つ。


「おい、姫様が食べろと言ってるのに、お前たちが食べないから姫様が困ってらっしゃるじゃないか、不浄のカチクの癖に巫山戯ふざけたやつらだ、全員またバツをもらわないと解らないのか」


 男がチュニカの頭を握って振り回そうとした。


ドスッ


 私は、ついカッとなって、後ろから男の股間を思いっきり蹴りあげたが、男はそのまま悶絶して倒れてしまったので、男の安否なぞ知らん。

 急いで振り回されたチュニカの元へと駆け寄る。


「大丈夫か、怪我はなかったか、えっと、チュニカ」


 彼女の名前を呼び、怪我がないかを確かめる。

 私は、倒れたチュニカを抱き起こすと、彼女の顔を包んでいた包帯が外れ、その顔が露わになっていた。


 それを見た私は、言葉を失う。


 …その……顔の真ん中にあるはずの物が無い。


 眉毛の上から酷い傷跡があり、頭髪の方まで続いて、ケロイドのようになっていた。


 素顔を晒した少女は、慌てて自分の手で顔を隠し、地面に頭を擦り付けて土下座をした。


「申し訳ありません、申し訳ありません、姫様にこのような物を見せるつもりはございませんでした、何卒この子達への罰はお許し下さい、どうかご慈悲を、ご慈悲をっ」


……


 私は言葉を失う。

 一瞬見えた彼女の顔で最初に考えたのは、ハンセン病患者への迫害だ。過去の日本にも、いや、つい最近の平成に入った世になってもまだあった酷い差別の歴史。

 その歴史は、中世の時代ならさらに酷い差別があり、彼らの行き場は地上には殆どなく、彼らは海に捨てられ海賊になっていた記録がある。

 海賊のトレードマークの片目眼帯に片足や、片手フック等、ハンセン病が進んだ患者の症状を面白おかしく物語に残したものだ。


 ……だが、目の前にいる少女の顔の傷は違う、犬族系の彼女の顔には鼻がなかったが、まるで刃物で切り落としたような跡だし、額から頭の傷は皮を剥がしたような傷。


 人為的に付けられた傷だ。


 下で悶絶をしていた男に尋ねる。


「どう言うことだ、答えよ」


「……そっその者達は、異端です……フェズから伝わった異端派、新教派の子供達でございます」


 新教派……確かお父さんが昔関わった宗教対立の一方の呼名だ。


「新教派は、教皇庁から異端認定がされていて、捕まえて殺さなければなりません。でも子供達には慈悲がかけられ、生かされているのです」


「それと、この傷の関係が分からない、どう言う理由だ」


「そ、それは、男の子供は奴隷として農作業や鉱山へと送られるか……お貴族様や土豪の皆様のダルマ経験値になります……ヒヒヒ、女は逃げた先で娼婦になって逃げ延びられないよう、幼い内に鼻を削ぎ皮を剥ぐのです」


 男の顔が下卑た笑い顔になり私を見る。


「その娘達も城の兵士や、これから来ると言っていた土豪の皆さんが可愛がってやっていますので何も心配はいりませんよ、まあ姫様は幼いのでよくは分からないでしょうがね、ヒヒヒ」


 男の言葉に、チュニカの後ろにいる他の少女たちの身体が震えている。

 私は、後ろを振り返りヒューパの大人達を見ると、彼女たちへのさげずんだ目と、しょうがない事だと首を振る諦めの顔が並んでいる。

 騒いでいる私達を見ていたホラの難民も同じだ。

 ちょっと向こうには、さっきからずっと微妙な顔のままのゲネスがこちらを見てた。


 ……何だ? 一体何なのだこれは?


 私は、フラフラとした足取りで、顔を土に擦りつけているチュニカの元まで行き、その顔を抱きよせる。


「すまない、すまない、私が知らないばかりに、本当にすまない……どうか子ども達に腹いっぱい食べてもらえないか、辛い思いをさせてしまって本当にすまない」


「うわあああんうえええええ」


  自分の中の感情をどう制御すればいいのか分からない。混乱した私の後ろで突然大声で泣き出した奴がいる。


「ううええうぐすっうう、酷いよ、そんなの酷すぎるよ。僕たちだって人間なのに、何で、何でそんな可哀想な事ができるの、うえええええ」


 ベック少年だ。


 ハハ、先に泣かれると困ってしまうな。うーん、確かあいつの両親も……

 ふう。

 こんなに大勢がいるのに誰もまともな奴居なくて、私だけがおかしいのかと思っちゃったじゃない、まともな奴が近くにいてくれて助かるわ。


「ペッ」


 私が少し気持ちを軽くして彼女の頭を撫でていると、さっきの男が唾を吐き捨てながら、私達に聞こえるように呟くのが聞こえた。


「ふん、ガキ同士で抱きつきやがって、公衆の面前で不浄の者に抱きつくとか正気か? ヒューパのお貴族様は、何を考えているのやら」


 っ!


 私の血が沸騰するかと思ったその時、突然周りが日陰になる。上を見ると騎士のトードさんが立っている。

 その大きな手が伸びると、下衆な笑いをしている男の首根っこを掴む。


「ひ、姫様を侮辱する者は、ゆ、許さん」


「え? え? え?」


 男をそのまま、ブンッと投げられ、丘の下の方まで飛んで行った。

 トードさんは、ハンカチを取り出すと私に渡して、周りの視線から私を遮る。


「ひ、姫様顔を拭け、き、貴族らしい顔になるまで、お、俺がここで守る」


 トードさんは、私が抱きしめていた女の子にも声をかける。


「お、お前、こ、子ども達に、め、飯を」


 お腹を空かせていた子供達が一斉にご飯を食べだす。

 トードさんはデッカイ身体をしてるのにとても優しい。

 私は、多分ひどい顔をしていたのだろう。


 泣いてたつもりないのにおかしいな、えへへ。



 少しずつ落ち着いてくると、気になる事を済ませる事にした。

 ムンドーじいじは、地元の実力者達を迎えに行っているので今は居ないが、荒事を相談できそうな相手がいるので呼ぶ。


「ゲネス、ちょっと来い、見てたんだろう、走れっ」


 ゲネスが微妙な顔のまま飛んできた。


「何でしょうか、姫様」


「んー、ちょっと用意してた物を使う事にした。兵士として武装できそうなのは何人ぐらいいる?」


「え、姫様やる気ですか? ええ、まあ貧民街の生き残りを集めりゃ100ぐらいなら何とか」


 おや? こいつさっきと目が違う。


「100か……いいわ、ホロをかけた馬車の中にヒューパで捕まえた傭兵達から剥ぎとった装備が入ってあるから、中の物をそいつらに配って装備しなさい。装備できたら、私の合図があるまで上の森の中に待機、良いわね」


「分かりましたが、どこまでやります? 最後まで……良いんですかい」


 ……何よ、ゲネスのやつ微妙な顔から嬉しいそうな顔に変わって来てるじゃない。


「……どっちに転ぶかまだ分からないけど、準備はするわ。それと、私から仕掛けるのは禁じられているけど、不可抗力ならしょうがないでしょ。合図しなきゃなんなくなったら最後までやるわよ」



 ゲネスはそのまま元の仲間たちを集めて、馬車の中から装備を装着させて、上の森まで移動していった。

 私も忙しかった。

 周りを着いてきていた大人達には、もしホラの有力者達に襲われた時の保険だと、言いくるめて、ゲネス達の武装を認めさせるのに一苦労した。

 ベック少年とトラビスに命じて、丘の上部の少し平らになった部分にいた避難民を移動させ、下に行かせた。戦闘になると危ないと言うと、皆素直に応じてくれるので助かる。



 しばらく待つと、ムンドーじいじの案内で、ホラの有力者達が集まって丘の上へとやってきた。

 彼らの警護の兵を数えると100ぐらいだ。今うちが連れて来ている兵力は、兵士約20と騎士のトードさん。

 最初に連れてきていた他の兵士と、騎士のカインさんは、他のホラ領内を回ってもらっている。

 今ここにいるヒューパの兵数は少ないが、普通常識のある者なら騎士相手には喧嘩は売らない、いきなり襲われる事はないだろう。


 私がわざと、丘の上側を開けておいたら、占領されたはずのホラの有力者達はヌケヌケと、私たちがいる場所よりも高いその場所に陣取っている。

 普通は、私達の下に場所を確保する物だが、この行動で彼らの真意は見えた様なものだ。ウフフフ。



「よくぞ参られた、これよりホラの今後についての会談を開きます。ホラの有力者の皆さん。わたくしが、ヒューパ男爵の名代としてやってきたティアです。」


 ヒューパ男爵の名代である私が最初に挨拶をして、会談の開会をする。


「おお、これが噂の竜殺しの姫か、どれどれ、顔をよくみせろ」「思ったより小さいな」「ふむ、大きくなれば美しくなりそうだな、早めに可愛がってやりたいものだわ」


 どいつもこいつも、礼儀がなってないな。

 私の挨拶が済んだので、ムンドーじいじに後を頼む。


「それでは、地元実力者の皆様と、ホラの地の統治について話しあおうではありませんか」


「うん、うん、そうだな、ところでヒューパ男爵のご令嬢、我々の総意から伝えようではないか、このホラの地は我々で治める。なのでヒューパ殿にはこのままお帰り願いたい」


 いきなりだな。隣からじいじが小声で、「これは交渉術です、最初に呑めない内容から出してくるのです」と言ってくる。

 うん、まあ私にも分かるけど、それって上の立場の者がやる事よね。


 ……ふう…


 私は、ムンドーじいじが口を開くより前に、じいじに手で合図して静止すると、自分から言葉を出した。


「ほう、面白いな、そなた達、どのような権利をもってホラの地の統治を主張する? 是非この幼い私に教えてくれ」


「は? それは見れば分かるでしょうが、ヒューパ殿が連れてきた兵数はたったの20がいいところ、そちらの騎士殿はお強そうですが、地の利は我々にありますぞ。ヒューパ殿は言わば簒奪者、力こそが全てではございませんかな」


「ふむふむ、それ程の実力があるなら何故、ここにいる避難民を助けようとしなかったのか?」


「ははは、このような小物共の生死など、高貴な方の構う事ではございませんぞ、もちろん、我々この地の実力者にとってもでございます」


「ほほー、では、あそこにいる、包帯を巻いた者どものような事も放置したまま統治なさるおつもりか?」


「ん? ああ、あっははっはは、これはこれは姫様、姫様も我々に可愛がってもらいたいのですかな? もう少し大きくならねば可愛がり用もございませんがな、ははっはは」


 フフフフ

 私の顔から表情が綺麗に抜けていく。

 やっちゃおうかなー。


「姫様いけません、あの者達、地元の実力者を利用し、ホラの地を治めるのです」


 他の大人の人達も、慌てている。


「ゴメン、皆んなちょっと黙っててくれるかな。私この世界の流儀に従うってお父さんにも言っちゃったけど、やっぱアレ嘘……これが、この子達への仕打ちが、この世界の流儀・常識だと言うのなら……」


「いけません姫様、それ以上言ってはいけません、交渉が失敗すればホラの統治はより困難な道のりなります」


 ムンドーじいじだけじゃなく、周りの大人達が一斉に私に詰め寄り、幼い私の暴走を止めようとし始めた。


「姫様っ」「ご自重くだされ」「あの子供達の有り様もこの世界の道理にございます」「統治の為にはあの様な者も必要なのです、ご自重くだされ」「姫様は、お1人で立っている訳ではないのですぞ」「お助けする我々と同じ味方を作るのです、不浄の者などお捨てください」「何を考えておられる」「我らをないがしろにするのもいい加減にしろ」……


 ……あ

 グラッ


 一瞬眩暈がする。まるで崖の上から底の見えない暗闇を覗き込んだような気分だ。

 たった1人、この世界とは違う常識、道理をもつ私。

 私を支えてくれる……私の足場になってくれてる立場の人達から、この世界の常識や道理を選択しろと懇願されている。

 計算力がほんの少しあれば分かる事だ『冷徹さを保て』私の中からも声が聞こえる。


 突然、崖の上で、足場が崩れそうになる恐怖が湧き上がり、さっき思いつきで産まれたちっぽけな決心なんか、簡単に掻き消えそうになっている。


 崖の先を見ると手の届きそうな場所に光が見えているのに、その光を掴むにはこの手は小さ過ぎる……


「……わ、私……」


 グラつく。


「駄目だーっ!!」


 ……突然、後ろから叫び声がした。


「姫様ダメだ! こんなのおかしいよ、絶対おかしいっ! 姫様が諦めたら誰がこの世界を救ってくれるの? お願いです姫さ……」


「こらっ黙れ」「邪魔をするな」「つまみ出せ」……


 途中から大人たちに取り押えられて、地面に顔を押し付けられ、それでも叫んでいるベック少年がいた。


「フウウワアガアアア、ひ、姫様ー」


 あー、うん、アイツ普段ズルばっかしてるくせに良いところ有るじゃない。

 ウフフ


 私は、顔を上げホラの有力者たちに向き直す。

 隣にいたムンドーじいじは、私の顔を見ると溜め息を吐き、小声で『後始末はお任せ下さい、思いっきってどうぞ』の声。後ろでじいじが、他の大人達が騒いでいるのを黙らせる。



 スー……

 息を大きく吸い込み、丹田へ気を降ろす。

 萎れかけていた瞳に力が篭る。


「これが……これが世界の道理……ことわりだと言うのならば、私はこの世界のことわりを変えるわ。ただ統治する人間が変わるってだけじゃない、私がこの世界を変える。生まれ変わらせる・・・・・・・・っ!」


「何を行っているのだ、小娘」「はあ?」「姫様、な、何を」……


 対峙しているホラの実力者達、そして周りの大人達もざわつき出した。

 ホラの実力者の内、代表者っぽい男が怒鳴り声を上げる。


「はあ、小娘の分際で大人に向かって生意気な。こちらの人数は少なそうに見えるがホラの街を襲っていた傭兵を我々が雇ったのと、街から出てきた職業兵士を連れているのだぞ、ヒューパの市民兵なぞ物の数ではないわ、実力差を知れ」


 私は、目の前の太った男達じゃなく、私の後ろにいる者達に向かって言葉を放つ。


「聞いたわねホラの民よ、こいつら、ホラの街の人々を守る気なぞ毛頭なく、しかも街を襲った傭兵を雇い、さらに街から逃げ出した兵士を罰せようともせずに雇う。そして幼気いたいけな幼子の皮を剥ぎ鼻を削ぐ非道……こやつらこそが奸賊」


 突然の奸賊呼ばわりに、ホラの実力者達は呆気にとられている。

 ヒューパの大人達も、慌てていた。

 私は、その様子を見て一呼吸置くと、私の奥から吹き上がる物を世界に叩きつける。


「聞け、この地に住まう民よ、我が意をこの地で宣言する。私は、このような古き者共を駆逐し、新しき世を作る。私が作る新しき世に夢見るならば、この私について来い。飯なら私が食わせてやる」


 ドオオオオオ

 後ろで歓声が上がる。どうやら最後の飯なら私が食わせてやるって部分に反応したようだね……いいや。


 上にいたホラの有力者達が、私達に襲いかかる号令を発した。


「何を痴れ者が、小娘の分際でふざけた事を抜かすなっ。者共、痴れ者を殺せっ」


 これで私にも大義名分ができた、こいつらを殲滅する。


「ゲネス、やれっ」


 私達に襲いかかろうとしたホラの有力者達の軍勢が動き出すタイミングで、その後ろの森の中からゲネス達が襲いかかる。

 騎士のトードさんの猛追と、ゲネス達。金床に叩きつけられる鉄槌の如く、挟撃で叩き潰した。



 私の足元には、残った有力者達が並べられて命乞いをしている。


「みんな安心して、あなた達の土地や資産は、私が全部きっちり使うからね」


 そのまま後ろにいた避難民の中に放り投げると、怒り狂っていた避難達のガス抜きとして有効利用ができたようだ。



 こうして、ホラの土地をまっ平らにして手に入れる事ができた。

 色々問題もあるけど、これはこれで良いところもある。

 後は、お家に帰ってお父さんに何て言い訳をしようか考えている。


 あ、その前に騒いでたこいつらに言わなきゃ。


「あーあー。みなさん聞いてちょうだい。あのね、この包帯巻いたこの娘達なんだけど、今から私の家来として私の庇護下に入れたから。文句あるやつちょっと前に出てきてみなさい……いないようね、彼女たちを下げずんだりしたら私を下げずんだのと同じと思ってね」


 皆の前で私は、首の下を親指で横に滑らせて、文句あるやつはこうなるぞって教えておいた。


 うーん、この子たちも特訓に参加させて走らせたりしなきゃダメかしら。私の家来なんだし……




 ……周りを見渡すと、私の子分にした奴らが後片付けをしている。ここに来て突然私の家来が増えた。ここまで良く来たものだわ。


 私は、まだまだクソみたいなハードモードな世界にいる。でも生きてる。まだ世界から除隊するつもりはないわ。




※フルメタルポケットの章終了

 一回おまけの外伝を挟んで、次章:大人社会の逆襲

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