子供会

★帝歴2501年 3月21日 首都メデス ティア


 私は、お城に着くとすぐにお父さんたちと別れ、お付き役のムンドーじいじと一緒に子供会場へ入ると、「ワーワーキャーキャー」と歓声が上がっている。会場には、すでに子供だけで2・30人はいた。子供達のお付の人を入れるとその倍近い人数だ。

 広い部屋が狭く感じる。



 今日の私は、いつもの大人相手のワイン販売促進活動とは違い、純粋に同年代や子供達との親睦を深める集まりを楽しむつもりだ。


 だって、一週間もパーティーだらけだったのに、私が楽しめなかったんだもん。

 思いっきり美味しい物を食べて、お友達を作らないと。


 部屋の中をぐるりと見渡すと、子供達のグループがいくつかできている。

 どうやら親の所属する派閥関係が、ここにもあるようだ。


 ああいうのは、なるべく避けて、同じぐらいの女の子と仲良くしたいなあ、どっかにいないかなあ……あっ!

 部屋の中心辺りに、見たことのあるガキ……じゃない、ウルリヒ王子様が同年代ぐらいの男の子達数人と一緒に、何かのボードゲームで遊んでいらした。


 どうやら将来の王様候補の周りには、次世代の人材がついているようですね。でもね、その将来の王様は、レディに対して失礼でちょっとアレなお子様ですよ。



 あそことは、関り合いになりたくないので、私は、特徴的な黒髪を隠すようにスカーフを使って頭を隠し、端っこの方でお菓子や料理をいただく事にする。


 料理には見たことのない、魚料理が置いてある。海にいるエイのような変な怪魚だ。

 私はちょっと食べる気が起きないので、手を付けなかったが、結局最後まで誰も手をつけなかった。もったいない。


 ご飯よりも、お菓子だ、ぜひ王様のとこで食べられるお菓子を堪能しないといけない。


 壁際に立っているメイドさんのお皿から、お菓子をもらう。

 この世界のお菓子を初めて食べたけれども、砂糖はまぶしてあるが、基本的には果実を干して濃縮させた甘さだった。

 確か、中世に十字軍が中東から砂糖を持ち帰ったヨーロッパでは、貴族がその富の象徴としてゴテゴテの甘さにして、自分の力を見せつけるために使っていた物だったはず。

 となると、この世界でもサトウキビのような南方で育つ作物がどこかで作られているのかな?

 少なくとも、うちのヒューパは寒くてサトウキビは無理だね。ちょっと残念。


 まあ、それはそれとして、私としては、この優しい味の方が大変美味しいと思うのだけれども、王家主催の園遊会でも砂糖が抑えられて使われているのをみると、やはり砂糖が貴重品で、贅沢な使い方ができないのだと分かった。



 私がおみやげ用にお菓子をせっせとポケットに詰め込んでいると、すぐ近くに同じぐらいの年の女の子がいた。

 なんとなく目が会い、お互いにニッコリ微笑む。


 ……なんて事でしょう、か、可愛い。


 少し巻き髪のブロンドヘアーで緑の瞳。肌の色は日本人の黄色人種系かもしれないがそれでも白い。まるでお人形さんみたいな可愛さの女の子が、周りの喧騒の輪に入れない感じで1人チョコンと座っている。


 決めた、この子と最初にお友達になりましょう。


 両手に持っていたお菓子をポケットにギュウギュウに押し込み、女の子の前まで行く。


「こんにちわ、私、開拓領ヒューパ男爵家のティアともうします。もしよろしければ一緒にお話しませんか」


「はい、喜んで」


 女の子がハニカミながらニッコリと微笑んでくれた。


 ……なにこの子、お人形さんみたい、超かわいい。


「私、ボン伯爵家のエリシュカと言います。エリーと呼んでくださいね」


 首都メデスに来てから初めて、ワイバーン殺しやワイン以外のお話ができる。

 服の事とか、ボンの街はどんな街なのとか色々お話しを聞いて、私は代わりにムンドーじいじに聞いた森の中の精霊の話しや、山の景色の話しをする。



 お互いに気があったのかすごく楽しくお話しをしていたら、何だか周りが騒がしい。


「おい、……お前だ、呼んでいるだろうが」


 ん? 何。


 顔を上げるとウルリヒ王子アイツと取り巻きの男の子達が立っている。

 目立った覚えはないのに、この王子はなかなか目ざといようだ。


「お前が精霊ワインの力を借りて竜殺しをしたヒューパのティアだな、覚えておるぞ、そなたがティアであろう。前の時は、私を良くも謀ってくれたな、覚えておろうが」


 んー? ワザワザ『覚えておるぞ』とか言っちゃってるのに、名前を確認しなおしているって事は……さては、私の顔覚えてないな。髪の毛隠す程度で分からないとは……


「ウルリヒ王子様、人違いでございます。そのティア様なら先ほど外に出て帰って行きましたよ、まだ追いかければ追いつくと思います」


「むっ、なんと、それは失礼した。者共いくぞ、ついてまいれ」


 お供の男の子達を引き連れて、外に走って飛び出していった。


……二回も引っかかるんだ…この国の将来危ないな。

 まっいっか。


「それでね、エリーちゃん」


 アレな王子とかほっといて、私はせっかく仲が良くなったエリーちゃんともっとお話しを続けたい。

 でもエリーちゃんの顔がとても困っている。


「あ、あの、良いんですか? あの方はウルリヒ王子様ですよね、よろしいのですか 」


「……うん、大丈夫、大丈夫。それよりエリーちゃんのその髪飾りとても素敵ね、どこで手に入れたの?」


(エリシュカの心の声)今一瞬の間があったのは、何だったんだろう……

「え、ええ、この髪飾りはお父様がベリバトス共和国に行った時に手に入れた……」


 二人の話しはとても楽しかったが、二人と一緒にいたお付のムンドーじいじと、エリーちゃんのお付の女の人は、非常に微妙な顔になったまま、その日の園遊会は終わりを告げた。

 

……


 その日の夜、アルマ商会さんの主催で食事会を開いてもらった。

 席上で私のワインの売上が順調で、最初の注文だけでもう1000本近くが売れているそうだ。


 ウハウハだなと思っていたら、アルマ商会さんが。


「ティア様、ただ問題もあるのです。何件かの貴族の方々には納品をしたのですが、代金をお支払い頂けてない貴族もおります、お気をつけください」


 ぎゃー、貴族相手でも、支払いしないケチンボはいるんだ。それは想定外だ。


 すぐに要注意リストを作らせ、次には納品をさせないようにアルマ商会さんに告げて、お父さんから手紙を送ってもらう事にする。

 この場合、ある意味ヒューパに対して借金をしているような物なので、これを利用するようにお父さんに言ったら、ニヤーっと悪い顔で『すまんな』と言っている。


 ……もしかしてお父さんが貴族の取り込み工作で使っていたのかな?

 それならまあいいか、うちにとって味方を作る工作は、死活問題だから使ってもらおう。


 とりあえず、今手に入っている現金を、アルマ商会さんの手数料を引いた分をもらおうとしたら、またお父さんに全額取られそうになったので、ヒューパに帰ってから必要な物を作るための資金、金貨20枚だけは確保しておいた。

 今回は非常事態なのでしょうがないが、私の初期投資分のワイバーンの牙販売代金は最終的に取り返さないといけない。


 このお金で白金を手に入れようとアルマ商会さんに頼んでみた。

 白金……私達の世界では別名をプラチナと呼ぶ。希少な金属って意味でも使われる物質だ。

 これから私が予定している実験で触媒として使う。この白金を触媒に使うことで、飛躍的に安定的に作れる化学物質が増える。


 アルマ商会さんが言うには、扱っている量がとにかく少なくて金よりずっと高い、金の約20倍近い価格だ。

 金のように錆びることがないので指輪等の装飾品に使われているのだけれど、鉱脈の中でもごく少量しか取れない上に、私が作ったような超高温炉で温度を上げないと取れないので、魔力と燃料を大量に食うそうだ。

 

 私はそれでも良いと頼み、金貨二枚分の小さな指輪を買い、おみやげとして持ち帰ることにした。



 次の日朝早くに、私達3人・・はメデスを発った。

 帰りのルートは、途中でホラを通るのは襲撃の恐れがあるとお父さんがどこかから情報を得ていたらしく、身軽に移動ができるよう、ヒューパから持ってきた馬車をすべて売り払い、馬だけでヒューパの北側の山越えルートで帰ることになる。

 通る他領は、うちと同じ反教皇庁派閥の領内だ。


 そして、帰り道のメンバーは、お母さんと私と、ムンドーじいじの3人。

 お父さんは、メデスに残って、アルマ商会さんで売れるワイン資金を使って、引き続き中立貴族の引き込み工作を引き続き行うことになった。



 ヒューパへの帰り道、特に何もなく、行きより2日ほど多めに時間をかけて、無事ヒューパ城まで戻ることができた。

 私達は、家で首都に残ったお父さんの工作結果を待つことになる。


 ベック少年には、お土産のお菓子をあげたら、私の事を神であるかのように崇めてきたが、宿題をやっていなかったので、ソロバンをしておいた。

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