首都メデス

★帝歴2501年3月14日 エウレカ公国内街道 ティア


 こんにちわ、ティア5歳です。放心状態です。


 現在わたくしは、春の麗らかな陽気の中、ヒューパの小さな馬車に乗って、ガタゴトと放心状態で揺れられております。

 先日、ワイバーンの牙の競売代金をアルマ商会さんから受け取って、ウハウハと調子に乗っておりましたが、残念ながらお父さんに巻き上げられました。


 『そんな大金、子供が持つものじゃない、全部出しなさい』と言われたので徹底抗戦の構えでいたら、お母さんに『今度の社交界ではヒューパの未来が決まります、そのためにお金がどうしても必要なの、ね解って、テイア』と、お母さんは、私を怒らないで諭すように言ったのでした。


 しょうがないので、全額お父さんに渡しましたとも、ええ全額をね。


 そうしてお父さんにお金を渡した後、あることを二人の前で言うのも忘れませんでした。


「お父さん、そのお金はヒューパのためにお渡しします……が、一つちゃんとしておかないといけない事があります」


 お父さんとお母さんがキョトンとしていた。


「この前、ワインを売るための作業をしていた時に分かったのですが、ワイン樽が一本消えていました……心当たりがありますね? お父さん」


 お父さんの目が泳ぐ。


「実はあの後、台所を覗きに行ったら、なんと消えたワイン樽が置いてあるのが見えました……と言うわけで、この金貨2枚はワイン代です。格安ですよ、お父さん」


 私は、お父さんの目の前に置いた、ワイバーンの牙代の金貨の山から、2枚をさっと奪って、確保しておいた。


 だが、それでも金貨30枚、日本円換算で約300万円が私の手の中から消えた。

そりゃショックで放心もしますとも、ええ。


ガラガラガラ…ポクポク…ガラガラガラ……ポクポク……

 私達の馬車の横には、騎士装備をつけたお父さんが警備をしています。

 盗賊団でも騎士を相手に襲うなんて命知らずはいません、騎士の持つ戦闘力は圧倒的に高い、そしてお父さんは強い。

 その後ろからはアルマ商会さんが、馬車の数を増やして、私の赤ワインボトル6000本を積んで付いてきています。

 中身の入ったワインボトルは、ヒューパに来る時よりも重くなっていて、荷馬車を増やす必要があった。


 つまり余分に経費がかかっているのですよ……お金無いのに。

 うわー、ワイン売れなかったらどうしよう。



 幼児の肉体と飽きっぽい精神とが融合したこの私です。放心状態もそう長くは続かず、珍しい光景があれば、そっちが気になります。

 川沿いの街道を、切り立った崖や、周りの森が迫る景色を楽しみながら馬車は進む。

 今は、街道の整備が追いついていないようだけれども、石畳の道には、4本の溝が掘ってあり、上下線2本づつの馬車用レールになっている。

 これは、過去の旧帝国が作り上げた土木技術の高さがよく分かる光景だ。昔の帝国の歴史本でお勉強した内容では、この溝に謎魔導技術を組み合わせて、馬車が揺れずに大量の荷物が運ばれたとあった。


 旧帝国凄いねえ。今の馬車だとお尻痛いよー。


 同じ間隔の溝が延々と続いて、その上を馬車が進んでいく。



 途中で、ヒューパとホラの境界近くの村に泊り、朝早くに移動を開始する。


 街道を進み、ホラの街の近くを通過するとき、街から門兵が私達一行の隊列の元にやってきた。

 私達の隊列の中にお父さんが居るのが報告されると、ホラ男爵が城から出てきた。


「これは、これは、ヒューパ殿ではございませんか、ご家族でどちらへ? っと言っても首都メデスの社交界ですな。わたくしも後から行きますが、あちらでご一緒できるのを楽しみにしておりますぞ」


「ははは、それは楽しみですな」


 お互いに目が全く笑ってない。


「さて、ヒューパ殿、それはそうとして、わが街を通過するには税が必要なのは、先日のエウレカ公との話し合いの席上、お互い合意の上で取り決めをした通りでございまするな。その後ろの荷物の中身は何でございましょうか? ヒューパ特産の魔石武器ならば、税として半数を収めて貰わねばなりませんが」


「魔石武器は、事故・・で生産が止まっておりますから無いですな。

これは全部赤ワインですよ」


「ム、それはお気の毒・・・・に、それにしても赤ワイン…ですか…あれは税にしても受け取るのはこちらからお断りですな……それにしてもヒューパ殿は物好きですな、そのような不味くて酢のようなワインをまだ販売する気とは、拙者は二度と口にするのもごめんですが」


「ホラ殿には、我がヒューパの高尚なワインの味が伝わりませんでしたか、ははははは」


 二人共おかしな目つきで睨み合っている。

 私はそれより、自分のワインを馬鹿にされたことが引っかかった。


 なな、なんだとおおおおお、私の努力の結晶のワインをゴミ扱いする気か。

 うーー、言い返したい。私のワインは生まれ変わって美味しくなったんだと言い返したい……だが、言い返しちゃうと、折角通行税無くなりそうなのに取られちゃうううう……ぐぬぬ。


 私が我慢をしていた時、お父さんは無表情のまま。


「そうですか、ならば、このまま失礼いたす。それではまたメデスでおあいしましょう」


「はっはははは、盗賊にお気をつけて進みなされい」


 私達は、くだらない挑発と脅しを無視してそのままホラの街を通過して行った。


 二人のやり取りでようやく分かったのは、私達のヒューパから首都のメデスまで続く街道の途中に、ホラの街があるので、ホラに強制的に税金を取られるようできているようだね。


 ……邪魔。


 ヒューパから首都の間で自動的に、色々な物品に税がかかり、値段が一気に値上がりするようになっていたんだ。

 以前、ジョフ親方が作っていた魔石武器が、首都で桁が一つ増えて売られていた理由がこれか。


 こんな事をされていたらヒューパはずっと貧乏なままだ。

 ううう。



 私達は先を急いでホラの街には泊まらず、途中のエウレカ公直轄地の街に泊り、翌日、首都メデスへと到着した。



★帝歴2501年3月17日 エウレカ公国首都メデス ティア


 初めて見たメデスの街は、大きくて綺麗な街だった。

 私達は、門の中からアルマ商会さんの倉庫へと続く街の光景を眺めていると、ここで暮らす人種は雑多で、人族の比率が一番多いみたい。

 でもよく見ると、獣人が次に多く、次いでドワーフや巨人族の亜人がいる。他にもよく観察していると耳の尖った人もいて、ムンドーじいじとは、肌の色が白く違うので普通のエルフだろうかな?

 ムンドーじいじに聞いてみると、あれは人の血が入ったハーフエルフだそうだ。


 へー初エルフ。


 以前行ったホラの街もかなり大きな街だったが、あの時ホラの街にほとんど人影がなくて寂しげだったのに、ここメデスでは、人が大勢行き交っていて活気がある。


 私達は街の中に入ると一度アルマ商会さんの倉庫にワインを預け、私達親子の宿へと急ぐ。

 着替えたらアルマ商会さんも連れて、親書を送ってきたエウレカ公への挨拶に向かわないといけないからだ。


 アルマ商会さんとは、ワインについて今後の販売をどうするかの話し合いはしてある。

 現状では、ワイン瓶一本で銀貨10枚、日本円で1万円のそこそこの高級ワインのお値段になってしまうが、その値段で売らないと、ここまでの手間賃が出ない計算だ。

 できるならこの倍、二万円の値付にしたいが、去年売ったワインの悪評がそのまま残っていて、厳しいことになると予想されている。


 私には一応の目算があった。ワインの味に関して自信がある。

 一度口にさえしてくれれば、その味を気に入ってもらえるはずだ、なぜなら倉庫から樽をこっそりとお父さんが持って帰るほどの味だから。


 今回の旅の目的の一つとして、このワインを貴族との交流の席で広めようと私は考えていた。


……


 私達は、宿で服を着替えると、エウレカ公への挨拶のため、城へとやってきた。

 私達親子と、アルマ商会さんが中に通されると、控えの間のような部屋で待機する。他所の貴族も集まってきて挨拶しているので順番待ちみたい。


 私は、ちょこんと背の高い椅子に座り、両足をプランプランさせながら王様に呼ばれるのを待っていた。



 バンッ!

 しばらくして、突然部屋の扉が乱暴に開いた。

 私達を呼びに来たのかなと振り返ると、アレ?


「幼女の身でワイバーンを倒したと言うのは貴様かっ!」


 扉を開けたのは、私より少し背の大きい生意気そうな糞ガキ……じゃない、豪華な服装をしたどっかの偉い貴族のご子息がノックもせずに入ってきて、私を指差していた。

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