ワイン作りと資金作り
★帝歴2500年初冬 ヒューパ ティア
朝起きると頭が痛い。まるで二日酔いのようだ。
昨日のりんごを手に入れるミッションに失敗した私は、ベック少年に、ファベル村の避難所にしていた坑道から、りんごをくすねてくるよう指示を出し、村へと送り出した。
そして私は、ムンドーじいじにお願いして、城の外に出て昨日少し気になっていた事を確認するために、オークの木が生えている場所まで連れて行ってもらう。
ついた場所で、じいじに抱っこしてもらい、木の皮を黒のナイフで少し削る。
「やった、ちゃんと有るんだ」
私が必要としていた物が見つかったので、上手く行けば利用ができると今後に期待が高まる。
オークの木は、森のなかに多く生えているが、その名前がかつて世界を滅ぼした魔王に由来するので忌み嫌われていて、利用されずに大量に残っているそうだ。
それも超ラッキー、資源が無尽蔵に残ってるだなんて。
★
森から帰ってきて、アルマ商会さんと会うため城の門の近くをウロウロしていたら、早い時間からアルマ商会さんがやってきたので、時間はあるか尋ねると、私と会うために時間を早めてやってきたので大丈夫ですと言われる。
彼は、できるビジネスマンだ。
アルマ商会さんを、私の作戦司令室物置小屋へと通す。
「あいにく今は、部下が出かけて不在ですのでお茶の用意はできませんが、どうぞそこに腰掛けてください」
私は、作戦司令室の壁に貼り付けた地図をバックに、椅子の上に立ってプレゼンを始めた。
魔石ランプの照明を下からスポットライトのように当てる演出付きだ。
「昨日は失礼しました、今日こちらに来て頂いた理由ですが、単刀直入に申し上げます、アルマ商会さんにご融資をしていただけないでしょうか、と言うお願いです。担保としましては、このワイバーンの牙を用意しています」
私は、自分の部屋のベッドの上に立てかけていたワイバーンの牙を持ってきてて、テーブルの上に置く。
正直ここ数日で臭ってきていて、部屋に置いておきたくない。
何ならここで売り飛ばしても良いぐらいだ。
交渉の前からいらないって態度だと足元を見られる、ここはポーカーフェイスだね。
アルマ商会さんが返事をする。
「そうですね、昨日も言いましたが、ワインの中に蜂蜜を入れるのは、今のヒューパのワインには向いた味にはなりませんし、その値段に合った金額では売れず、利益が出せないので大赤字になると予想します。なので反対します」
昨日聞いたのと内容は変わらない。私も蜂蜜購入は諦めることにしていた。
「赤字と聞いては、何のために赤ワインの樽を父上から頂いたのか分かりませんしね。実は昨日ワイン工房に行って視察をしたのですが、あの工房では良いワインはできません、ですので違う場所で作りたいと考えております」
アルマ商会さんがアレって顔をしている。
「まるでティア様はワインの作り方を知っているようですが、どこでその知識を得たのでしょうか?」
あ、これはマズイかも、日本時代の記憶があるのを知られてしまうと面倒くさい事になる。
下手に知られると、ちっこい私をちゃちゃっと攫って持って行かれるかもしれない。
個人情報のセキュリティ大事。
えーっと、そうだ!
「それはですね、私、どうやら魔法の才能があるらしく、精霊が見えるのです。ワイン工房に行った際、精霊の動きを見て今のままでは、ワインが上手にできないと教えられました、もっといい場所へ移らないとダメなのです」
アルマ商会さんの目が物凄く胡散臭いものを見る目になっている。
…くっ、ここで負けてはいけない、一度ついた嘘は突き通さねば。
「何ですか? アルマ商会さんは精霊の動きが掴めないのですか?」
「いえ、私も少し精霊魔法を使いますので見えますが、それほどまでには見ることができません」
アルマ商会さんが私から目をそらして、下を向く。
何か呟いているなと思ったら、緑色の精霊が部屋にすーっと入ってきた。
私が目でその動きを追っているのを、アルマ商会さんは見ていたようだ。
どうやら私を試したのか。
「アルマ商会さん、あまり良くない趣味ですね、人を試すような事をすると信用を失いますよ」
ガツッと釘を刺しておく。
「い、いえ、そのようなつもりではなく、はい」
アルマ商会さんの顔が少し焦ったように見えるが、すぐに平静に戻った。
さすが商人だね。
「いいでしょう、それで、この牙でのご融資ですがいくらまでなら出していただけるのでしょうか?」
「はい、まずこのワイバーンの牙をセリ市場で売った場合ですが、金貨で50枚からのスタートになります。この前売った時は金貨60枚でセリ落ちました。ですので、お嬢様がどれだけの資金を必要とされているのか分かりませんが、最低でもそれだけはご融資できます」
意外とそんなものなのね。
金貨の価値が分からないけれど幾らぐらいなのかな?
「すいませんが、この場合の金の重さは何グラムなのですか?」
「はい、金貨一枚で20gと決められています。混ぜ物等をする不届き者がいてもちゃんと調べる事ができるので、すぐ捕まりますね」
へえ、混ぜ物を見破れるのは面白いな。
それから日本で今の金相場は分からないけれど、ニュースでグラム五千円行ってた事があるからだいたい、金貨一枚で10万円ぐらいか、となると、この牙で500万から600万円ぐらいの価値があるのね。
工場を建てたりするのには、少なすぎるぐらいだなあ。
うーん、どうしようか、自分がやりたい事を優先して他の方法で資金を作って足らない分を補うか、それとも今手に入れられる金額を元にして計画を立てるか。
……この場合は後者だな、下手な方法で資金を失うよりも、最初の目的は強力な化学物質を作り出すことを優先したい。
となると、やらなくてはいけない事が2つ。
化学物質の開発費用を継続的に得られるようにするのと、ホラが戦争をふっかけてくる前に作り出す必要の2つ。
この2つを同時におこないつつ。今は時間優先でいかないといけない。
目の前の資金で科学物質を作るのを優先しながら、ワイン作りに移ろう。
一応ワインを発酵させるための条件にあった場所には心当たりがある。資金は少なくても大丈夫だろう。
「分かりました、牙を担保にした借り入れではなく、このワイバーンの牙を売却したいと思います。その牙の売却金である物を仕入れてきて貰いたいのですが、お願いできますか」
昨日思いついていて一つ考えていた案を使いたいので、アルマ商会さんにある物を大量に発注する。
私が絵を書いてその物の説明をすると、この世界でもそれはあるようで、私がワインに使う事を説明すると、いくつか問題点を指摘されたが、私はそのまま注文をお願いした。
うちの街でも作れる職人がいるのか聞いてみたが、作れる職人はいるだろうが、材料がこの辺りでは安く作れないので、専門で作っている所の物を勝ったほうが安くつくと言われた。
一応は職人はいるのねと、頭のメモに書き込んで、アルマ商会さんとその日は別れた。
夕方、ベック少年が半べそをかきながら、ヒューパの街に帰ってきた。
一人で夕暮れが近づく山道を歩くのがかなり辛かったらしく、明るい内に着いてホッとしているようだ。
とにかくこれで、材料が手に入ったので、ベック少年を褒めながら次の日朝から仕事をやるので出てくるように言いつけ、私は明日の準備を城に戻ってやっている。
城中のガラス瓶をかき集めて、お母さんに一週間ぐらい借してとお願いした。
何に使うのかを聞かれたので、『ヒューパを救うためです、姫君』と騎士物語のセリフを宝塚風にアクション付きで言ったら、お母さんに『あら、ティアは男の子に生まれていたらモテモテだったのにねえ』と褒められた……とポジティブに捉えておこう。
作業の続きは明日だ。
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