お父さんの昔 ★宗教戦争
★帝暦2490年 神聖ピタゴラ帝国 ダイスの街 ジョフ
「うう、外は寒いな、ベッグス、昼飯買って戻ってきたぞー、お前の分ここ置いておくからな」
「おう、ジョフすまないな、飯にするか」
この頃俺は、冒険者としてコンビを組んでいた同じドワーフのベッグスと一緒に、武器屋『ジョフベッグスの剣店』を開店していた。
俺達は、以前冒険中に知り合って、交友を結んだダークエルフのムンドーさんに教えてもらった冶金技術で、切っ先は鋭くよく切れるのに、剣としては、しなやかで折れにくい鋼の作り方と組み合わせ方を学んだ。
そしてベッグスの得意とする土精霊魔法を更に効率よく使う術を学び、2人で質の高い魔石武器を作り出す。
俺達コンビの作る武器は、多くの冒険者や騎士達からの評判を得て、街でも人気の店になりつつあった。
当時の俺は、近所にできたドワーフが経営する飯屋の看板娘ターナの気を引こうと、毎日昼飯を買いに行ってたんだ。
「今日はどうだった?」
ベッグスが俺に尋ねる。
「ああ、全然相手にしてくれねえ、どうにか振り向いてもらいたいんだがなあ」
「そうか、しょうがないな、もっと良い子がいるさ」
今考えると、この頃からこいつら2人は付き合っていたんだろう。
飯屋のターナとベッグスの2人は、この時から2年後に産まれるベックの両親だ。
「それより、今月は大量の武器の注文が入っている。どうやら近い内に
「やっぱり、あそこか?」
俺はベッグスに相づちを打ちながら、思い当たる国を頭の地図に書き出す。
指を指したのは、帝国の北西に位置する、獣・亜人連合国フェズだ。
獣・亜人連合国フェズは、今から30年以上前(2450年代頃)に、西にあるヘウメス平原諸国で起きた宗教弾圧を逃れた民が作った国だ。
彼らは最初、弾圧を逃れて東方のロゴス盆地へ移動し、盆地内最大国家の帝国内に集まる事になる。帝国から開拓地を与えられ、やがて彼らは独立を果たす事となった。
彼らの宗教派閥は新教派と呼ばれていて、現在でも教皇庁から目の敵にされている背景がある。
当時、元から帝国の国籍を持っていた俺達、亜人族や獣人族からすれば、彼らが流れ込んでくるのは、迷惑な話しでしかなかった。
急に入ってきた難民は仕事もなく、街の治安を悪くすると言われて、元から住んでいた亜人族や獣人族までもが白眼視されるようになり、人族との間では、今でもギクシャクした空気が残っている。
神聖ピタゴラ帝国は初めの頃、技術者や学者をしている者を喜んで受け入れいたが、それに続いて続々と大量に入ってきた難民に手を焼き、開拓地開発と言う名前で放逐する。
棄民というやつだ。
あの頃、彼らの多くが開拓地に移されたのは、正直ホッとしたのを思い出す。
だが過酷な開拓地に放逐された難民達は、粘り強く大地と格闘した。その結果、困難な土地の開拓に成功して、自分達の土地を手に入れることになり、帝暦2471年独立を果たす。
現在では、俺たちの暮らすこの神聖ピタゴラ帝国にも、こいつらの新教派教義が入り込んできていて、その理念に賛同する獣人や亜人も増えてきていたが、俺はあまり興味がなかった。
俺にはドワーフのゴブニュ神があるし、セト教は形だけの信仰心だったので、セト教徒同士の争いには興味がない。
それより
ガチャ
店のドアが開く、外からまた客がやって来たようだ。
「いらっしゃい」
俺達は、工房から店の入口に立つ人の顔を見る。見覚えのある人だ。
帝国ダイス領騎士団のアルベルト(後のヒューパ男爵)様だ。
アルベルト様は、俺達が冒険者時代、野盗討伐の任務に参加させてもらった時、討伐軍内で武器の手入れをやっていたのが目にかかり、店を開くのを進められて以来、ご贔屓にさせていただいている。
最近では、俺達の店も商工ギルド内での地位が上がってきて、街の名士が呼ばれる催しにも参加できるようになった頃、時々参加したパーティーで、アルベルト様の周りに、大勢のご婦人方が集まっているのを目にしていた。
大変羨ましい。
若くして武勇に優れているのに、勉学もできるので、街の若手騎士の中で最も出世するだろうと期待を集まる、将来が楽しみな御仁であった。
「修理を頼んでいた物はできているか?」
アルベルト様から頼まれていた物は、黒のナイフ……つまり魔剣だ。魔剣を握る柄の部分の修理を請け負っていた。
以前持ち込まれた時は、初めて見る魔剣に武器鍛冶職人としての震えが止まらなかった。魔剣は伝説だけの物ではなかったんだと感動した。
持ち込まれた魔剣を確認すると、硬いオークの木で作られていた持ち手の肢の部分は、真っ二つに砕けている。
いったいどんな使い方をすれば、こうなるのか……
この時は粘土で型を取り、アルベルト様の使いやすい大きさに作ろうとしたが、女性でも持てるように細くしてくれと頼まれた。
アルベルト様の紋章を彫り込み、細めの握りにした肢を黒の魔剣に装着させる。紋章の反対側には、黒の武器の魔力を活かした魔除けの魔法陣を刻み込んだ。目釘を撃ち込むとピタッと決まり、自分でも会心の仕事ができた。
「アルベルト様、こちらでございます。お確かめください」
「うん、いい出来だ、これで俺が不在でもあの人を守れるだろう」
アルベルト様は、嬉しそうに笑って、ナイフを手に取った。彼の言葉の後半は少し聞き取れなかったが、誰かに渡すつもりなのか?
疑問は置いておいて、とにかく、俺は自分達の仕事が褒められて嬉しかった。
「ありがとうございます、またのお越しをお待ちしております」
「ああ、お前達もこれから忙しくなるぞ、しっかり儲けろよ」
そうだ、俺には
俺には関係ない、この頃は俺もそう思っていた。
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