お父さんの昔 ★お父さんはカッコいい

★避難所 ティア


 私達が坑道に着くと、大勢のドワーフ達が避難していた。


 途中の道でジョフ親方と会って、坑道に避難所を作っていたので、ドワーフの多くは無事だと聞かされたので、ホッとする。

 案内された坑道の入り口付近では、大勢の大人のドワーフがいて、その中にベック少年がツルハシを持って、門番をしていた。


 お、ベック少年やるねえ、カッコいいよ。


 私の隣では、ジョフ親方や大人の村人とムンドーじいじの情報交換が行われている。

 そして後ろでは、生き残っていた冒険者が馬から下され、村人達の手で森の中へと連れて行かれる所だ。「楽に死ねると思うなよ」大変物騒な言葉で森の奥へと連れて行かれた後、森の奥から悲鳴が聞こえてくる。

 確かにムンドーじいじは、彼を殺さなかったようだ。


 それにしても……こわひ



 私は、そのまま坑道の中に入って、女の人達と一緒に固まって、その晩は寝ることになった。


 夜、私は昼間の興奮が残っていてなかなか寝付けない、人と命のやり取りをしたのだ、神経がささくれ立っていて眠れないのも当たり前かもしれない。

 周りにも寝付けない人が大勢居る。

 近くに私より少し小さな女の子が1人でいた。その子も震えながらすすり泣いている。

 私は、その子を抱き寄せ、背中をゆっくりさすっていたら、その子は眠ってしまい、いつの間にか私も眠っていた。



 翌朝起きるとムンドーじいじに呼ばれた。

 じいじの横には、ジョフ親方もいる。


「姫様、家までの護衛ですが、ここから先はこのジョフにお願いしました。私はこれからホラに戻って、父上に危険が迫っている事を伝えなければなりません」


 えー、じいじ行っちゃうの。確かにこの先は危険が少ないかもしれないけれど、大丈夫なのかな?


 親方達は、昨日の内に一度村に帰っていたようで、使えそうな荷物を取りに行ってたのだと言う。

 親方の家は、完全に燃やされていて(じいじが尋問の時に激しく燃やした家だった)使えそうな物は何も残ってなく、うちには帰れないので、私と一緒にヒューパの城まで行き、しばらくあっちでいるそうだ。


 ちょっと責任感じますね。


「僕も行きますよ」


 お、ベック少年も来るのね。



 ムンド-じいじは、私達より先にホラの街へと馬で出て行っていた。

 私達も昨日の冒険者が乗っていた馬2頭で、ヒューパの城を目指す。

 一つ山を越えて降りた所で、村があり、その村の先にある川に渡し船があるのでその船を利用することになる。

 ファベル村を出る時、私はポケットに残っていた魔石を、全部その場に残った村の代表に渡し、ヒューパからの救援を約束して村を離れた。


 私は、親方の前にちょこんと乗ってる、そして私達の馬の後ろには、紐で連結された馬に乗ってプルプルしているベック少年。

 ベック少年は最初、馬に舐められて落とされていたが、1時間も乗ると乗馬のコツが掴めたようだ。


 男の子は乗り物が上手だな。


 移動中、気になっていた事を尋ねた。


「ジョフ親方、もしかしてムンドーじいじと仲がいいんですか? なんだか喋り方がとても仲良さそうに見えたので」


 ジョフ親方がニコリとしながら答える。


「そうですよ、お嬢さん。冒険者をしていた頃に色々な知識を分けていただきました、精霊魔法の知識もですし、冶金技術の知識など、どれも素晴らしい知識です」


 へー、じいじの知恵を分けてもらってたんだ。


「冒険者を引退して、以前住んでいた街で親友と一緒に開いた鍛冶屋をやってた頃、同じ街で住んでいたご縁で、姫様の父上の剣も打ったことがありますよ」


「え、お父さんのも?」


「はい、今から10年以上前の話しです」


 うわー、お父さんの昔の事も知っているんだ。


「その頃のお父さんは、どうだったの? カッコよかった?」


 ジョフ親方は笑いながら答える。


「ええ、そうですよ、大層おモテになってましたよ、色々なお嬢さん方の憧れの的でした。その中でも最も輝いてお父様を射止めたのが、お母様のマリア様ですよ」


 へー、お父さんモテてたんだー、そうだよねえ、カッコいいもん。


「うん、うん、そうだね、お父さんカッコいいからね。ところで、その頃はお父さん達は、別の街でいたってことなの? うちはずっとここじゃなかったんだねえ」


 私は何気なく疑問を口にした。

 すると親方は少し困ったような顔をして、私達とベックを交互に見る。そして何かを決めた顔になった。


「そうですね、こんな事になったし……ええ、知ってもらっても良いでしょうか……そうだ、ベックお前も聞いておきなさい」


「親方?」ベック少年が困ったような顔で親方を見る。


「以前、私達がお父様にして頂いたご恩のお話をしましょう」


 あれ?何気なく聞いた疑問が変な方向にきちゃったぞ。

 お父さんとお母さんが以前出会った街の事を聞いたつもりだったのに。


「それは今から10年ほど前の話になります」


 私は、黙ってその話を聴きいた。


「以前、私達は神聖ピタゴラ帝国の一地方都市ダイスに住んでいました。その頃帝国ではまだ同じ街の中に、人族、獣人、亜人が一緒に住んでいました。まあ、多少の亜人獣人への風当たりはありましたが、私達ドワーフも普通にピタゴラ帝国内の街で、人族に混じって鍛冶屋の腕を振るっていました」


 なんだか嫌な予感がする出だしだな。


「お嬢さん、少し長くなりますが……省略」



 ……長い、ややこしいし物凄く長いので要約すると。


「つまり教皇庁って悪者がいて、宗教弾圧に巻き込まれた皆んなを、お父さんの大活躍で助けて、このエウレカ公国にやって来たのですね」


 ……


「お嬢さん、要約し過ぎです」


 ジョフ親方は、私に要約され過ぎた昔の記憶を思い返していた。

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