ライフ イズ ビューティフル
脱出
「ティア、ティア、起きなさい、ティア」
気持ちよく寝ていた私を、揺すって起こそうとしている人がいる。
意識が覚醒する。
涙が頬に伝って落ちた。
さっきまで、とても幸せで、とても悲しい夢を観ていた気がする。
そして大切な何かに気がついたのに、何も覚えてない。ただ何かの手応え……いや、強固な決意のような物が、塊になってゴロンと心の中に転がっている。
目を開けると私の肩を揺すっていたのは、お父さんだ。
私は、目をこすって涙を拭きながら起きた。
お父さんの横には、近衛騎士団の若い騎士さんがいる。
「ようやく起きましたか、急いでください、外の様子がおかしいと報告がまいりました、一度騎士団長殿がいる部屋まで移動してもらいます」
お父さんの目付きが鋭くなっている。
部屋の外に出ると、ヒューパ家のトートさんとカインさんがいた。私たちは足早に隣室へ入る。中には騎士団長さんと何人かの近衛騎士団の人がいて、みな緊張した顔で待機している。
最初に騎士団長さんが口を開いて、うちのお父さんに話す。
「アルベルト、久々の再会で積もる話もあるが、今回は無しだ、外の街の様子がおかしい。我々王家への反乱ではなさそうなのだが、そこのティアの名前を出して、魔女を狩れと扇動している者がいるようだ」
……え?
はいー? ちょっちょお、この世界魔法があるくせに、魔女狩りとか有るんですか? 一発で目が覚めましたよ。
ちょっとばかし恨みを買った私には、心当たりがあり過ぎる。まあ、常識で考えたらホラの男爵様一味ですかね……それだわ、どう考えても。
せっかく王様に取りなしてもらったのにシツコイわね。
「調べてみると、最初に門でティアを襲撃したホラの騎士らしい。王がホラ男爵に問い詰めると、自分の指示ではないと言っているが確信が持てない」
アイツだ、腹の出た騎士。
そっちの恨みかー。
それにしても魔女狩りといえば、中世の定番、火あぶりじゃないですか、冗談じゃない、炎は懲り懲りだ、あんなデタラメな奴らに殺されてたまりますかっての。
「本来なら、ヒューパ家の家臣達と一緒に帰れは良い、だがまだ話し合いは終わっていない。ヒューパ男爵アルベルトには、もう少しここに残ってもらわなければならない。なので、先にティアを脱出させる為に策を考えた。アルマ商会こちらに来い」
あ、部屋の隅っこにアルマ商会さんがいた。
王様との話しが終わったあの後、ワイバーンをどうやって持って帰るか話してたので、私は手を上げて王様にアルマ商会さんを指差し、
アルマ商会さんは、昨日の私の推薦通り、王様からワイバーンの首都までの運輸と販売を任される運びとなった。
あの時アルマ商会さんは、ビックリした顔をした後、悪そうな笑顔で私を見てお礼をしてたな。勿論私は、幼女スマイルで返事を返したが。
アルマ商会さんが呼ばれて前に出てくる。彼は、私たちの前で片膝を着いた。
「ティア様、どうかわたくしにお任せください。街から脱出をさせてみせます」
私の脱出の基本計画は、まず先ほど解体をしていたワイバーンを詰めた木箱の一個を空箱にしておいたので、その中に私を入れて街の外まで運ぶ。
そして隊列には、中央近衛騎士団の二人を入れておき、街を出たところで、馬車の一つをそのまま一人の騎士の方が連れて消えてしまう。
この街では、騎士が勝手気ままな行動をするのが当たり前なので、誰も騎士がやる事に口を出す者はいないだろう、街の暴徒からは安全に逃れる事ができますとの事。
そして我が家の騎士たちへの監視は厳しいので、騎士ではないムンドーじいじをアルマ商会さんの人夫へ紛れ込ませておく。
近衛騎士が私を下ろしたら、後はヒューパまでムンドーじいじに任される作戦だ。
アルマ商会さんの丁稚達の一部はファベル村での仕事を終え、ホラに戻ってきている。
人数の足らない分は、冒険者ギルドから護衛を兼ねて多めに雇ったそうだ。
「大丈夫です、最近のホラは景気が悪く、仕事にあぶれた冒険者がすぐに集まりました。ただ、一つ気になる情報が……今朝早く、私達が人を集める直前ぐらいに、中級の腕を持つ冒険者5名が、この街の騎士に連れられてどこかへ移動したそうです」
報告を聞く限りでは、すでに街道には待ち伏せがあると考えられ、これを避けるための会議が行われる。
会議の中でムンドーじいじが作戦案を出す。
街道を少し行った先に
山道を通ってファベルの村へ出て、村で一泊する。
その後翌朝、ファベル村から裏道でヒューパ城に戻るルートが一番安全だろうと、普段狩猟番で、近くの山を知り尽くしているムンドーじいじの意見が採用された。
山道を通るなら時間がない、日が暮れると山には魔獣が出る。ムンドーじいじ一人でなら平気だそうだが、私がいるので明るいうちにファベルに着いておきたいそうだ。
私達は、早速脱出の作戦を開始した。
……
「…え、ちょっとこれ狭いんですけど大丈夫ですか?」
わたくし、箱の中への詰め込み作業をされていますが、私ちっこいのにそれでも入りにくいです。
門の所で検問されても大丈夫なように、空気穴は開けておくけど、二重底にして私の上にワイバーンのお肉を置くそうです。
昔映画で見たクスリや密輸品の悪徳商人の手口ですね。
さっきからニッコリ具合が深くなってるアルマ商会さん、この手のお仕事に手馴れてる様子ですがもしかして……
命が懸かっているので、文句を言うのは御門違いかもしれませんが、アルマさん、巻き込まれた事へ何か思う事がございませんか? 私狭いの辛いです。
実際に移動を開始してみると、隊商には、エウレカ公国の王家の旗が立てられているし、近衛騎士が二人も付いていたので、街中でも、門の前でも全く誰も近づいても来ませんでした。
私は身動きできないのに、さっきからゴツゴツと箱に頭が当たって痛いです。
この苦労に意味はあんまりなかったとは……
まあ、良いでしょう、街を出てしばらくすると、突然頭の上の暗闇が開けて空と若い騎士の方が見えます。
「ティア様、お気分は如何ですか」
私に問いかけてくれるのは嬉しいが、実際お肉の匂いとゴツゴツ頭叩かれて馬車酔いしています。
「はい、大丈夫です」
私はやせ我慢を選択しました。
ダメだって言ったとしても、今すぐ移動しないと命に関わるので、文句言う暇はありません。
「ではすぐにこちらへ」
騎士の手に掴まって、ムンドーじいじの馬に乗ります。
「ここまでの道のり、わたくしの為に危険な任務、誠にありがとうございます。」
若い騎士の手を両手で握って、目を見つめながらお礼を言うと、若い騎士は顔を赤くなってしどろもどろになっていた。
……ベック少年ほどではないな。
私は、ニッコリと笑って手を振り、別れた。
あの若い騎士は木の陰で見えなくなるまで手を振ってくれてた。
良い人なんだろうな…
さあ、脱出行だ、お家に帰る。最初、雪の斜面で私一人、どうにかしなくっちゃって思ってた時に比べれば、全然ヘッチャラだ。
今はムンドーじいじがいるし、馬のタオスが運んでくれる。
何とかなるさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます