再生の姫君

 私は無事ワイバーンの牙を王様からもらぶん盗ったのは良いが、その大きさに戸惑っている。



 正直タケノコより大きくて、私では持て余す。これをネックレスにするの無理。

 そりゃ王様が文句も言わず、ニヤニヤしながら牙を取ってくるように言ったはずだよ、私には大きすぎる。お父さんと一緒にきてた2mのトートさんでもネックレスには大き過ぎるぐらいだ。


 お家持って帰ったら、私の部屋のどこに飾ろうかなあ。



 色々と考えていたら、王様が部屋の用意を指示してくれて、私とお父さんの二人を案内してくれた。

 一緒に警備としてついてきてくれたのは、さっきワイバーンのお尻の穴に手を入れて黒のナイフを探してた若い近衛騎士さんだ。


 ドアをあけて二人を中に入れてくれる。


「今夜はここにお泊まり下さい。私共が警備をいたします」



 部屋に入ると私は、さっきまでの我慢を全部捨ててお父さんに甘えた。

 お父さんもさっきまでの厳しい顔が破顔して、私を抱きしめる。


「お父さんお父さんお父さんお父さん……」


 お父さんを連呼しながら私は泣いていた。


「うんうん」


 お父さんは、ぎゅーってしてくれる。


「てひゃは私怖かった、怖かったよーわいだふぁsふぇらえwらf」


 私は、怖かった事を一生懸命に伝えようといっぱい喋ってるぽいが、言葉になってない。


「そうか、頑張ったな、ティア、うんうん」


 私は、五歳のティアに気持ちを全部渡して、お父さんに抱きしめられる感覚に浸る。

 抱きしめられながら昔の事を思い出していた。



★21年前、日本 宝樹若葉


「ゴホッゴホッ」


 私は、熱を持った煙で咳き込みながら起きる。


 今日は日曜日、午前中に空手教室へ通って疲れていた私は、部屋で昼寝していたはずなのに、煙の匂いと、大きな音に起こされてドアを見ると、隙間からは赤々とした光と、黒い煙が私の寝ていた部屋に流れ込んでいる。


 火事?


 ドアに近づこうとしたら熱が凄い、逃げたくてもここはベランダが無い集合住宅の5階の角部屋だ。

 窓を開けて下を見たら、人が集まりだしている。私は助けを求めて叫ぶが、消防車もはしご車もまだ来ない。


 どうしよう。そうだ、隣に移れば。

 だが隣の窓を見るとすでに炎が吹き出している。


 8歳の私は、逃げ場を失っていた。


 私はようやくどこにも逃げ場が無い状態になっている事に気がついた。

 飛び降りる? そんな怖い事できやしない。


「いやー、助けて、お願いします。助けてください」


 下にいる人達は何もできない、騒いでるだけだ。


 あああ、まずいまずいまずい、どうしようどうしよう。


 完全にパニックになっていた私のいる部屋のドアが突然開いて、誰かが飛び込んできた。

 火だるまの姿の人は、体に巻きつけていた布団を投げ捨てる。燃えているように見えたのは布団だった。


 そして布団の下から現れたのはお父さん。

 その顔と頭は真っ黒に煤けていてひどい火傷をしている。


「お父さんっ」


「若葉、大丈夫か? いや、お父さんがきたからもう大丈夫だ」


 物凄い火傷をしている癖に、パニックになっていた私を安心させようと嘘ばっかり。


 私はお父さんに飛びついた、どうする事もできない事ぐらい周りを見れば分かる。部屋までその体を守ってくれた布団はもう使い物にならない、どうやって逃げ出せばいいのか。


 お父さんが飛び込んできたドアからは、既に炎が部屋の中に入り、私を庇っているお父さんの背中を焼きだしている。


「ひどい火傷、お父さんこそ大丈夫じゃないじゃない」


 もうすでに、お父さんの身体は、動かす事も辛そうだ。

 部屋の中の温度はぐんぐんと上がり、息をするのも厳しい。

 それなのに、抱きしめていた私の顔と窓を見て何かを決断する。


「いいかい若葉、よく聞きなさい、絶対に諦めるな、最後の瞬間まで信じるんだ、いき・・なさい」


 私を安心させようとしたのか、お父さんはその顔を微笑ませて、上まで炎が出始めた窓まで私を抱えて外に乗り出す。


「お願いしますお願いしますおねが……」


 お父さんは、泣きながら私を下に放り投げた。



 私は忘れられない、あの時のお父さんの笑顔を、泣き顔を。

 あの日から私の中に問いがあり続ける。

 あの時、私はどうすれば良かったのだろう? 最初に一人で飛び降りる勇気さえあれば良かったのか? そしてお父さんの最後の言葉も……何時も考えていた。



 私は、答えの無い答えをずっと探していた。



★帝歴2500年初冬 お父さんの膝 ティア


 お父さんは、ティアの身体を膝に寝かせ片手で背中をポンポンしている、もう片手は優しく私の髪を撫でる。


「良かった、ティアが生きていてくれて良かった……」


 私の手の甲に何かが落ちてきて濡れている。


 ああそうだ、あの時お父さんが最後に言ったのは、そういう事だったんだ。


 うん、生きるよ、私生きる。


 ありがとう


 大きな安心感に包まれながら、私の意識が静かに溶けていく。



 宝樹若葉とティアでちぐはぐだった・・は、ようやく一体になって『私』になった。

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