誰が殺したクックロビン
私の証言から、ワイバーンのお尻の穴の中を確認する事になったが、尻尾とか邪魔でこのままでは確認のしようがない。
グデーとなっているワイバーンの死体を皆んなでひっくり返して、一人の若い近衛騎士がお尻の中を確認する。
お尻バッチいよねえ、ゴメンなさい。
私が心の中で謝っていると、騎士は黒のナイフを探し当てたようだ。
「ございました、ナイフです……中も縦に切り裂かれていますっと……黒い…これはもしかして黒の武器……魔剣かっ!?」
中から引き出された魔剣を前に、この場にいた全員の騎士がまた騒めく。
ここで初めてうちのお父さんが口を開いて発言をした。
「その黒の武器は、ヒューパ家の家宝であり、当家の紋章が掘られているはずです、ご確認くださいませ」
エウレカ王がこれに答える。
「ふむ、その黒の武器をこれにもて、我が目で確認しよう」
エウレカ王の元に黒のナイフが運ばれる。黒い刃に汚れは一切付いていないが、一昨日から放置していたせいか、ナイフの持ち手に血が黒く固まって異臭がしている。
少しバッチいね。
「騎士団長、これへ。この紋章をどう見る」
「はっ、本にセトの若葉の紋章、ヒューパ家の物と見受けられます」
隣で首を長くしながら覗き込んでいたホラの男爵がグヌヌとなっている。
「嘘だ、こんな小娘が…ありえない」
ギラギラした目で私を睨みつけてくる。
私は騎士団長さんに、騎士はプライドの生き物だと教えてもらった事を思い出す。
あー、これは、間違いなく恨み買ったよね?
つい嫌味を言い返しちゃったし、でも先に喧嘩売ってきたのはあっちだし、それはそれとしてまあいいか。
ヒューパ家にとっては、自家のプライドを守った形になるのは良いとして、今後どうなるんだろう? 元々揉めていた気配があるから結果としては、ザマーミロだけでなんて単純な結果に終わりそうにもない。
私があれこれ考えている間に、王様が動く。
「して、ヒューパ、ホラの両人よ、この始末はどうつけるつもりだ」
また私の頭越しに話が始まった。私はさりげなく両手を振って存在感をアピールしてたら、王様が右手だけで私にシッシってしてるし。
グヌヌヌ
しょうがないので、ちょっと離れてワイバーンの前で死体を眺めている。
ついこの前、私はこいつに殺されかけたんだなと思ったのに、じっと見ているととても美しい生き物だ。
無駄に飛び出たツノや鋭い牙、空力効率なんて無視しきった体型や、ゴツゴツした鱗も、日本時代に密かに育てた我が厨二魂を激しくくすぐる。
美しい……むしろカッコ良いと言うべきだな、はー、魔法使いたい。チートじゃなくてもいいから、創作呪文で派手なのをバババンと使いたいのに、何一つ分かんないよお。
チートじゃなくても良いと言いながらも、派手な魔法が使いたいティアであった。
私は周りを見渡してみると、少し離れた場所にムンドーじいじと、アルマ商会さんがいるのを見つけた。
ちょっと手を振るとじいじはにっこりしてくたので、私がやった事は間違ってなかったんだと思う。
じいじの隣で立っているアルマ商会さんは、目を合わせてくれない。私がホラの街でこれだけヘイト集めてるのを見たら、今頃ノコノコ着いてきた事を呪っている事だろう。
キランッ! 私はちっこくて弱いので、一人でも多く巻き込んでリスク分散しよう……うふふふふふ。
黒ティアである。
しばらくすると、お父さんや王様達の話し合いは終わったようだ。私の名前がお父さんに呼ばれて手招きされる。
わーい
さっきみたいな証人の身分じゃもうないから良いだろう。
私は、喜びを全面に押し出して、お父さんに抱っこしてもらおうと飛びつこうとしたら、おデコをピシッとされた。
なぜだ!
「これっ、まだ話しは終わってない」
王様に怒られた。
でもさっき解放した喜びを邪魔されて、私の中のティア5歳が少々おかんむりになってる。思わず口から出たのが。
「
外の寒さで真っ赤になってた頰っぺたをいっぱいに膨らませて、横にプイッと向いてしまった。
ああ、やってしまった、頑張って貴族していたのに、最後でこれだ。この体は29歳の私であるけど、5歳のティアでもある、まだ全てが私ではないのか。
29歳の私が焦っていると、王様が私の前でしゃがむ。
いきなり私のブンむくれ頰っぺを両手で押しつぶして、空気が口からブーっと漏れた。
29歳と5歳の私が目を真ん丸にして驚く。と、突然両わきに手を差し込んでこちょこちょってされた。
私は驚いたのやら、こそばいのやらで、さっきまでの怒りはどっかに行って『ウヒャゲラゲラゲラ』と大笑いしていた。
なっ何をするですかこの方は。
「うむ、やはり中身は子供だな」
えー、確認作業だったのですかー。
「これ、ティアよ、お主にお願いがあるのだ、聞いてくれるか」
私は何が何だか分からないままうなずく。
「あそこに転がっているワイバーンだがな、ワシにくれ」
え?
突然なにを。
「そこにいる怖い顔をした大人達がな、自分達の欲ばかり言いよってワシの言う事をぜんぜん聞かないのだ。このワイバーンはお主が倒した物だ。なので本来ならお主の物だ、お主の物だが、お主が持っていても大して役にたたんし、小さな子供が相手であろうが妬むヤカラもおる」
私は口を開けたままうなずくしかない。
「なのでワシにくれ」
王様は私の目の奥を真っ直ぐ覗き込む。
私にだって欲望はある、欲望はあるけど、今は目の前にいる男の人に感動している。政治ってこれかと。
私に集まったヘイトを見事に和らげてなおかつ、ヒューパとホラの対立の種を一つ潰した。
……そして何より、その上で自分の懐を膨らませた。
自分だけ儲けてズルいとか言ってる話しじゃない。自分の権威を周りに再確認させる効果と素材の利益を手に入れる代わりに、そこにくっ付いた関係者の怨みをも一緒に引き受ける行為だ。
昔何かで読んだ事がある、王の存在は、全ての栄華を手にする代わりに、全ての怨念も背負う者だと。
私は、王様に『うん』と頷いていた。
王様は満足気に立ち上がると、周りを見わたし宣言する。
「このワイバーンは、狩り獲った本人よりワシが譲り受けた。異を唱える者が有らば、この場にて申し出よ」
その場の全員が顔を伏せる。
「ならばこの時より、このワイバーンは余のものとなる」
大騒ぎは終わって、近衛騎士団達の手でワイバーンの解体作業が始まる。
私は王様に手招きされて、何か褒美は要らないかと聞かれたので、ちょっと考えて胸元にある物を思い出す。
「もし宜しければ、牙か爪を頂けないでしょうか」
王様は怪訝な顔をして私に尋ねる。
「そんな物、何に使うのだ?」
私は胸元に入れていたネックレスを取り出して王様に見せた。
「なんでも開拓民は、自分で倒した強い魔獣の爪か牙をこの様にネックレスにするそうです。これは雪オオカミの牙ですが、ここに来る前、私が倒したらしく、出会ったドワーフのおじさんに作ってもらった物です。因みに魔石もありますよ」
ポケットをゴソゴソして取り出し、ニッコリ見せる
「と、言うわけなので、ワイバーンの牙か爪も記念品に取っておこうかと思いまして」
あれ? なぜ皆さんこっちを見て固まってるの?
どうやら私はまたやらかしてしまったようだ。
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