鉱山からの帰り道
★帝歴2500年初冬 鉱山からの帰り道 ティア
ドワーフ師弟の二人が降りてきた道を辿ってファベルの村へと帰る。
ちっこい私は、文字通り足手まといになったので、親方の小脇に抱えられての移動だ。
途中、坂道に鉱石を満載にした
快適快適。
帰りの道すがら、この世界の疑問点を聞いてみる事にした。
「親方さん、さっきの事なんですが、魔石って珍しい物なんですか?」
「ああ、そうだ。魔石は貴重な物だよ。俺たちは魔力を持つ獣の事を魔獣と呼んで恐れているんだが、魔獣は普通の獣より力が強く、防御力が高い、その上魔法が使えるものまでいる。そして魔物と呼ばれる獣とは似つかない生き物もいる。奴らは魔力で動いているんだ。強い魔獣や魔物ほど大きな魔石が取れる。ドワーフ族も、お嬢さん達人族も皆魔力を持っているんだが、俺たちは魔物ではないぞ」
へー、これは本格的なファンタジー世界要素だな。
「なるほど、親方にも魔力が有るんですね」
「ああそうだ、人型種族にも魔力はそなわっている。この魔力には、二種類の魔力が有って、マーヤ魔力とプラーナ魔力と呼ばれている、この二つは同じ魔力でも使われる用途が違う。マーヤは魔法に使われ、プラーナは肉体を守り強化する」
ふむ、マーヤ=MP、プラーナ=HP って事かな。
「同じ魔力でも違うんですか、なるほど」
「
ゲーム世界っぽいな、
「
やったね、やっぱり魔法あるんだ。かっこいい魔法を使いたい。
「魔石単体でも動く魔道具もあるが、
へー魔石にはそんな使い方が有るんだな。武器に装着するとどんな武器になるんだろ?
「この魔石でどんな武器ができるのですか?」
「うーん、そうだな、雪オオカミの魔石だと水の精霊特性があり、水魔法に近い攻撃力を生み出す。相性がいい相手だと、普通はプラーナ魔力防御壁で傷を負わせる事ができない攻撃力でも、プラーナ魔力防御壁を切り裂いて傷つける事もできるんだ」
おお、魔石武器を使うと
「この雪オオカミの魔石の場合は水の精霊特性があるので、特に水の精霊の加護がある者が使うと、より強い力が生まれるので、自分に合った魔石を埋め込んだ武器は重宝される。ま、残念なのは、黒の武器と呼ばれる古いにしえの魔剣と違って、魔石の魔力が尽きたらお終いの使い捨てなとこなんだけれどもな。黒の武器はとてもじゃないが手に入らない貴重品なので、普通の魔石武器と比べるのが間違ってるかもしれないが」
……もしかしてマリア母さんに渡されてたあの黒いナイフって……私やってしまったかもしれない、超貴重品じゃないですか。
そうだ、弁償、この魔石をどれぐらい手にれたら弁償できるだろう?
「親方さん、私の持っている魔石のお値段って、幾らぐらいで取引されているんですか?」
「昔、冒険者をやっていた頃は、国によって買取ってくれる値段はバラバラだったからなあ、それでも大体はその大きさ一つなら一ヶ月は生活できていた、なので価値はかなりあるはず。だが今このエウレカ公国内で売るとなったら俺にはちょっと……うーん、今住んでいるエウレカ公国では、売った事が無いんだ。自分達で手に入れた魔石は、武器に埋め込んでしまうし、小さな物は魔石ランプで使ってしまうので、ここでの買取値はわからない」
そうか、価値はあるけど魔石の売買値段は、国でバラバラなのね。
「俺たちドワーフ族は、正直あまり金勘定が得意じゃない。だから出入りの商会に任せている。俺が作った武器が街ではゼロ1個以上高い値段で売られてたりするようだし」
「え? それって良いんですか?」
「ファベル村のドワーフは、まあそれでも良いと思っている。出入りの商会主は、美味い酒とちゃんとした飯を不作の年でも無理してでも運んできてくれるからな。色々あるが、マトモに生きていける今は、結構幸せなんだんだぜ」
思わぬ所で複雑そうな職人事情を聞いてしまった。
それにしても、仕入れの10倍以上の値段で売られるなんて、この世界の仕組みどうなってるんだろう? そんなに高くなるのは、商人がぼったくってるだけでは説明し難い。
商店同士の競争もあるだろうし、そんな値段維持は無理だ。考えられるのは流通の途中で強制的な中抜きが酷いか……バカみたいな税金がかかっているのかな、もしかしたら流通の安全性が確保されてないからロス率が酷いのかもしれない。色んな理由が考えられる。
私が考えている間にも親方の話しは続く。
「魔石も大事だけれども、この魔石になる前の段階の魔力を吸い込むと、
えっ、それってファンタジー世界の成り上り要素じゃないんですかね。私も最強になれるのですか! 私、超頑張れる、モチベーションアップですよ。
「魔獣は死にそうになると、プラーナとマーヤの魔力は一見使い切ったように見えるが、肉体その物を維持するために攻撃や防御壁に使える量と同量の魔力が残っていて、命を守るため末端の手足を捨ててでも中央へと魔力を集めるとされている。そのまま死んでしまうと、魔力が冷えて周りの肉体を取り込みながら固まっていく、これが魔石なんだ。だから雪オオカミの胸にあんな穴が空いていたわけだ」
なるほど、魔石はそうやってできるんですな。
「親方さん、凄い物知りですね」
「いやなに、これは古い友人からの受け売りだよ、わしの力ではない。魔力の話にはまだ続きがある」
「はい」
「この魔石になる前の固まってない魔力へ倒した本人が手をかざすと、自分の手の中に魔力が飛び込んで来るんだ。俺たちはこれをダルマと呼んでいる」
あれだ、ワイバーンから光が飛び込んで来たやつだ。
「攻撃が、魔法か身体を使った攻撃かでダルマの質も変化して、プラーナ魔力かマーヤ魔力が育つんだ。これは不思議な事に、複数の攻撃者がいると、当てた攻撃の強さに比例してダルマが入ってくるようなんだ。どうも攻撃者の魔力が混じって最後の魔力の塊に影響があるらしい」
うっひゃー、キタコレ。オレツエーもらった。
ダルマは経験値の事だ! 間違いない。
ワイバーンから落っこちた時に光ったあれって、経験値の魔力だったんだね。
もしかして私、魔法使えるようになったかな? 趣味の創作呪文作りが捗る。
「だからと言って経験値で強くなれるのも限界はあるんだよ。マーヤ魔力とは別の、プラーナ魔力が経験値で増えて肉体が強化されるんだが、いくら強化されるとは言っても、骨格や肉体その物の限界があるからな。魔法だって完璧じゃないしな」
……
あっ、そうなんだ。オレツエーできないのね。
「それから、魔法のマーヤや防御に使うプラーナを使い切っても、同じ量の魔力が肉体維持のために残っていて、それが生命維持のために中央にあつまる事は話したな」
「はい」
「この魔力の移動には時間がかかる、なので、実力差がある弱い魔獣を一撃で倒すと、生きてる内に魔力が集まりきる暇がないので、魔石も
稼ぎプレーするには、なかなか厳しい世界ですね。
ん?あれ、もしかしてジョフ親方、魔法使えるのかな?魔法の知識詳しいし。
「親方、もしかして魔法使えるんですか?」
「そう!親方はすげーんだぜ!」
「ひゃっ」
それまで後ろで黙っていたベック少年が突然大きな声を出して驚く。
大きな声に後ろを振り向くと、ベック少年がキラキラした目で私を見ながら、自分の親方自慢を始めた。
「親方はな、四大精霊魔法の内、火の精霊、土の精霊、なんと二つも使えるんだ。精霊魔法を使って刀鍛冶をすると、ものすげえ刃物が生まれるんだぞ。俺もいつか精霊の加護をもらって、親方のようなすげー鍛冶屋になるのが夢なんだ、どうだ!」
ベック少年のキラキラした瞳が、真っ直ぐ私の目を見る。
やだー、お姉さんキュンキュンしちゃうじゃない。小僧、頭から丸齧りしてやろうか。
29歳児の欲望が止まらない。
「くぅおらー、ベック、お嬢さんに失礼じゃないか、ちゃんと謝れ!」
「あわわわ、しまった、お嬢様ごめんなさい、本当ごめんなさい」
「うふふ、いいんですよ、いいんですよ、謝罪を受け入れます」
「お嬢様申し訳ないです。こいつ貴族様への口の利き方が分かってなくて、後でちゃんと言って聞かせます。こんなこと言ってますが、本当は潰しの効かねえ武器鍛冶より、もっと多くの人の生活を支える細かい仕事を覚えてもらいたいんですがねえ。どうすりゃいいもんやら」
ジョフ親方は、ベック少年を大事にしてるんだね。
「っと、そろそろ村が見えてきました、魔力の話しの続きはまた後ででしましょう、今夜はうちに泊まってください、明日ヒューパまでお届けします。早く帰ってさっきの雪オオカミの肉でスープでも作りましょう」
親方の口の利き方もたいがいなんだけど、職人さんはこうなんだろうね。
今晩はジョフ親方の家に泊めてもらって、明日ヒューパの家まで送ってくれる約束をした。
親方の家でご馳走してくれるレバー入りのスープ楽しみ。すっかりお腹ペコペコだよ。
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