私は、宝樹若葉・ティア

魔石採取

★帝歴2500年初冬 谷の下 ティア


「ひゃあっ、さ、寒い」


 パンツの中が大変な事になっていた私ティア5歳児は、雪崩の治まった雪原で、下半分ズボン他ブーツまで脱いでます。


 どこか物陰で処理しましょうかと思ったのだけれど、雪の上を歩こうとすると、ズボッと胸まで沈んでしまい歩きにくい。隠れられそうな場所がある木陰まで、雪をかき分けて歩くのが猛烈に大変そうだったので、この雪原で自分の体が自由になるスペースだけ確保して作業に勤しんでおります。


 埋まりながらさっさと済ませることにしよう。

 こんな場所誰も見てないだろうしね。



 実際脱いでみるとこれが猛烈に寒い! ダメだ、下にズボン無いだけでこんなに寒いとは。

 このままだと確実に死ねる! 凍死だ。

 ついさっき、人生でも一、二位を争う最悪級の命の危機を乗り越えたばかりなのに、ここで凍死とかまっぴらごめんですよ。


 衣服の大切さを思い知って、さっさと股引とズボンとブーツをハキハキする幼女である。



「どれ、洗いますかね、雪でどうにかなるかなあ?」


 残ったカボチャパンツ片手に、雪以外で、布の汚れを落とすのに都合の良さそうな物は無いかなと、周りを見渡してみたら、10mぐらい離れた場所の雪の中が光っている。


 何?

 雪崩で流されてきた部分のようだ、私の起こした雪崩で何かやらかしたのか?

 また何かのファンタジー要素なの?


 どうやら先程の雪崩で何かが起きたみたいだ。


 そうだ、黒のナイフでワイバーンの足を刺した時も光ったし、ワイバーンと一緒に落ちた時にも光ってたかな。あれも良くわからない。

 大事なときには全然役に立たなかったけど、ワイバーンの身体の胸の辺りから不思議な光りが浮かんで、私の右手に吸い込まれたんだ。

 あの光は何だったんだろう? この光も同じ物なんだろうかな?


 ちょっと物は試しにやってみようか?


 左手で右の手首を握りながら、手のひらを光に向けてみる。


「はあああああああ」


……

 結果は、力入れて手首を握ったので、手首が赤く、痛くなっただけでした。


「ふう、さてと」


 雪の中から光っているようなので、あそこまで行って掘り返してみましょうか。



「よいしょ、よいしょ」

 ……雪をかき分けるのは大変だけど、意外と柔らかくて進むな、力持ちになった気がする。


 雪をかき分けて光の場所まで進むと、雪の中から光っているのが良く分かる。

 この下に何かが埋まっているのだろう、手袋をしたままの手でザクザクと掘ってみる。

 最初に出てきたのは、白い獣の尻尾だ。


 このしっぽ、今の私の身長より大きい。


 尻尾を触ってみた感じでは、生きてるような反応がない。どうやら雪崩に巻き込まれて死んだ動物のようだ。


「何の動物だろう? やだなあ、怖い動物だったらどうしよう」


 死んでるって確信はあるけど、怖いものは怖い。

 それならば、掘らなければ良いのに。だけど純粋に好奇心もある。それに光の正体を突き止めておかないといけない気がして、掘り続ける。


 獣かな?


 掘り進めると尻尾の次に後ろ足が出て、おなか周りも見える。全身が白い毛皮に包まれた狼か犬のような動物だ。

 胸元まで掘ると、白い毛皮の中から突き出るように半透明の石が出ていた。光の元はこの石だった。

 毛をかき分けて石の周りをよく見ると、周りの肉がえぐれるように陥没して穴が空き、そこから石が生えている。

 石は、私の小さな手のひらぐらいの大きがあり、少し青色がかった水晶みたいな結晶。


 この世界では、動物から宝石が採れるようだ。


「うわー綺麗。宝石みたい」


 ……って多分違う。これってファンタジーにある魔石ってやつかな?

 魔法の結晶のような物か、魔法を使うのに利用できたりするのだろうか? 使い方がよく解らない。

 試してみようか……いや、さすがの私も学習能力はある。1人で試してみても無駄だし……怖い事が起きる予感がする。

 下手にいじって暴発させたくない。

 お家帰ってお父さんかお母さんに聞いてみよ、そうしよう。


 頭から逆さまに埋まってるこの動物は、どうも犬か狼。体格はかなりの大型犬サイズで、もしこんなのに襲われたら私なんてイチコロですよ。大自然怖い。


 この下にはどんな動物の顔があるのか興味はあるが、怖いのでそのままにしておく。

 魔石を一つ採取してみたが、周りがまだ光っている。ほぼ、固まった場所にこの犬と同じ動物が埋まっていたようだ。


 全部掘ってみたら、残り4頭の動物の死骸が埋まっていて、全部で5個の魔石がみつかった。後で役に立つだろうと、コートのポケットにしまい込む。



 魔石をポケットに仕舞いながら一つ思いついた事がある。

 チュートリアルは、まだ使えるのかな?  魔石についての情報が何かあれば聞いてみたい。


 試してみよう。


「いでよチュートリアル、イデアの奥底よりロゴスの泉を沸き立たさん。チュートリアル!」


 創作呪文の最初ぐらいでとっくにチュートリアルは表示されていたが、呪文斉唱がどうにも止まらなかった。


 最初の画面に地図が表示されている。


 そうだ、地図の続きがあったな、少し覗いてみるか。

 最初の地図から拡大はできるようだけれど、拡大できる大きさもかなり大雑把な大きさだね。


 これでは、常時表示させての位置確認はできない。

 少し触ると拡大された地形図も出てきた。かなり細かく地形が分かる。

 次に出てきたのは、国境の地図。うちはエウレカ公国だから右の端っこで孤立している。


「はあ、他の国に比べてすっごい端っこ。これって辺境ってやつね……華やかなくらしは遠そう」


 少しがっかりもするが、そうでもない事に気がつく。


 これは、かなり使える地図だ、情報はチート級、やった! って思っていたら、注釈に『この地図は、世界の至る所にある遺跡の門に掲げられた地図に、現在の国境を書き加えられた物です。多くの人々が知っています』と書いてあった。


 あんまり甘くないね。

 後で確認できるならもういいか、魔石の事を調べよう。


「えーっと、魔石について教えて」


魔石について

……

……表示ができません。チュートリアルサービスが停止しました。

 すーっと画面が消えていく。


「えっ、あれ、チョちょっと待って待って待って。あーあ消えちゃった」


 やっぱり転生神の嫌がらせは、まだ続いているのかな……

 あいつにもう一度会ったら、絶対に一発殴らないといけない。



 チュートリアルはもう諦めて、カボチャパンツを洗うことにしよう。



 憎っくきあの転生神バカをどう成敗してやろうかとか、これからの私の身の振り方をどうしようとか考えながら、雪でゴシゴシとカボチャパンツを洗う5歳児。


 派手な魔法でバンババンと異世界ライフを満喫するのは、どうやらダメそうだし、これからどうしよう? 私の成長計画も考えて行かなければいけないのかな?

 ティアの記憶では、貴族だけれど華やかなくらしとは程遠い。ヒューパ男爵家は、試され続けてる大地の開拓民貴族だ。

 やっぱり現代知識を持ち込んで領地経営するのが王道かな? 帰ったら考えなきゃ。

 それにここからどうやって帰ろうか、怖い魔獣が出たらやだなー。


「うー」


 お口がとんがるティア5歳。


 でもさっきは、大きなワイバーンを私でもやっつける事ができたんだし、なんとかなるよね? 多分なんとかなる。

 あの良く切れる黒のナイフを使って、テイッ! テイッ! とやれば勝てるはずだ。


……

 って、黒のナイフは、ワイバーンのお尻の中じゃん。あーやってしまった。こっちのマリアお母さんがお守りだって言ってたのに、いきなり無くしちゃったよ。うわー。


 しょうがないな、何か武器になる物……森に落ちてるカシの木の棒でも装備して冒険を始めるか。

 敵がこう来たら、こう。ああ来たら、こう。てい、たー、とう。

 うん、いけるいける。

 イメージトレーニングは大事だね。



 冒険の始まりだ。

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