Episode42「試練」

「…何者だ?」


 レヒトも少女の存在に気付くとすぐさま殺気を放つ。

 レヒトにすら気配を悟らせず背後に現れた少女はフードを深くまで被っているせいで表情は伺えないものの、その姿には何処か見覚えがあった。


「あなたマルスね」


 その名を呼ばれレヒトは一層警戒を強め、ゆっくりと大剣を構える。


「ルシファーの仲間…ではなさそうだな」


 しかしそんなレヒトを前にしても少女は怯む事なく堂々と対峙していた。


「シオン、あなたの接続は閉ざされた」


「僕の接続が…?」


 依然レヒトは警戒を緩めないが、どうにも僕には彼女が敵とは思えなかった。

 寧ろ胸中には不思議な事に懐かしさにも似た感情が湧き上がる。


「君は…誰だ?」


「…こうして話すのは三度目」


 そのフレーズを聞いて僕はある存在を思い出した。


(いや…でもあれは…)


 僕がゴードンに殺された時に見た世界…そこで僕と話すのは二度目と言っていた少女。真理ダアトの扉を開いた時に現れた預言者エリヤの存在を不意に思い出すと、その時に見た彼女の姿が今目の前にいる少女と酷似している事に気が付いた。


「まさか君は…預言者エリヤ…?」


 すると少女はフードを脱ぎ去り、穏やかな表情で僕へ微笑んだ。


「やっと地上で会えたねシオン…ううん、お兄様」


 やっと地上で会えた…その言葉よりも僕は後の単語に我が耳を疑う。


「お兄様…?」


「うん、お兄様」


いや…おかしい…彼女は何か勘違いをしているようだ。


「ま、待ってくれ…僕に妹なんていないよ」


 いくら記憶を辿っても妹がいた事実なんてない。

 しかし否定されたせいかエリヤは急に悲しげな表情を浮かべ、目には薄っすら涙が見えた。


「あぁ…えっとその…」


「…よく分からんが敵ではないみたいだな」


 毒気を抜かれたのかレヒトは呆れたように大剣を鞘に収める。

 それにしても彼女が本当にあの時話したエリヤと同一人物なら敵ではないだろうけど、僕を兄と呼ぶ理由は皆目見当が付かない。


「えっと、エリヤ…君は真理ダアトの扉を開くよう僕に言った…あの預言者エリヤで間違いない?」


「うん、間違いない」


「それで…僕の妹なの…?」


「うん、それも間違いない」


 まるで訳が分からない。思わず頭を抱えてしまうけどエリヤはそんな僕を見て不思議そうな顔を向けていた。

 何か…何か僕と彼女の間に認識がズレている事実があるはずだ。まずはそれをはっきりさせない事には話が進みそうにない。


「君は預言者…なんだよね?」


「うん」


「僕には預言者の妹はいないんだけど…」


 そもそも僕は一人っ子だし、両親から兄弟がいるなんて話も聞いた事がない。


「違う、妹になったのはその後」


「そ、その後…?」


「うん、その後」


(その後ってどの後なんだ…?)


「何だこいつ…イッてんな」


 まったく噛み合っていない会話にレヒトがドン引きするが、訳が分からないのは僕も同じだ。

 そんな様子の僕を不思議そうに眺めていたエリヤは突然何か気付いたように手をポンと打つ。


「あ、私はエリヤだけどサンダルフォンで、今はまたエリヤでサンダルフォンになってメタトロンの妹になってからサンダルフォンからまたエリヤなの」


「お…おぉぉ…?」


 レヒトがぷるぷると震え出すがどうやら笑いを堪えているようで、頭の中では大変失礼な事を考えていそうだ。

 しかし僕はようやく話の内容よりメタトロンという単語からエリヤの言わんとしている言葉の意味を理解した。

 預言者エリヤ、その名は彼女と出会うより以前にも聞いた事がある。あれは確か北C地区でシスターが僕達に教会が祀る天使の説明をしてくれた時…その天使こそサンダルフォンだった。

 エノクと同じくかつて人間であったエリヤという預言者が、生きながらにして神にその所業を認められ天使として昇華した存在、それがサンダルフォン。つまり彼女もまたエノクであった頃の僕と同じくヒトでありながら天使になった存在であり、エノクがメタトロンとなった後に天使になったのなら僕を兄と呼ぶのも納得出来る。

 しかし当然ながら僕にはエノクとしての記憶は疎か、メタトロンとしての記憶さえ存在せずいまいち確証は持てなかった。


「えっとエリヤ…君は過去の僕と同じくヒトから天使になったから妹みたいな存在で…。そして君もルシファー達に倒されたけど、ヒトとして改めて生まれ変わって…だから今も妹である…と?」


「ちょっと違う、私はお兄様のように転生はしていない」


「ん…んんん…?」


 エリヤの話を理解しようとするが頭の中では情報が言葉遊びをしながら交錯していた。思考回路が焼き切れそうで思わず投げ出したくなるが、それを堪えて一つ一つの情報を丁寧に紐解き冷静に整理していく。


「じゃ、じゃあ君はあの空間で出会った時と変わってない…? いやでも幽霊には見えないし…」


「幽霊…その概念は置いておくとして、状態のみで言えば次元の狭間で会話した時とは違う」


 次元の狭間…それは僕がゴードンに殺された後に迷い込んだ世界の事を指しているようだ。

 天上と地上を繋ぐセフィロトツリーは言わば天地の中間に位置する為、次元の狭間という呼び名はしっくりくる。しかし次元の狭間にヒトの魂が自我を保ちながら迷い込むなんて事は本来は有り得ないはずだ。

 いや…もしも次元の狭間に迷い込んでエリヤと出会う事が神に仕組まれた必然だとしたら…?


(だとすれば今此処に彼女がいるのも…)


「あの時の私はただの思念体、魂だけ。でも今は実体を伴っている。この肉体は魔力を練り合わせて作られた魂の牢獄、一時的な器に過ぎない」


「おい電波野郎、お前は自らの意思で現世に留まる事が可能なのか?」


 それまで笑いを堪えていたレヒトがようやく立ち直り、真面目な顔で問い詰める。


「電波野郎…。ううん、それは無理。一度消滅した私は父より賜りし役目を果たす為だけに遣わされた。その為にこの肉体は在る」


 父より賜りし役目…まさか本当にこの子は神が送り込んできたとでもいうのか?


「その役目ってのは何だ?」


「お兄様に資格があるか…試練までの案内」


「資格…試練…?」


「そう、再び天上の存在と成るか否か」


 その言葉に心臓が跳ね上がる。

 天上の存在とはまさか神は僕を再びメタトロンにしようとしているのか?

 しかしその言葉の意味を考える間も無く周囲の風景が突然歪み、空間に亀裂が走るとそこから徐々に世界が闇に似たものに侵食されていく。


「これは…次元の崩壊か?」


 この現象を知っているのかレヒトは驚く事なく亀裂をじっと見詰めていた。


「ど、どういうこと?」


「さぁな、引き起こした本人に聞いてくれ」


 そう言ってレヒトは忌々しげにエリヤを一瞥する。


「エリヤ、これは一体…」


「これは崩壊じゃない、次元の接続」


「次元の…接続…?」


「二人を次元の狭間に案内する」


「おい待て、二人って事は俺もか?」


「マルス…あなたも試される」


 エリヤは表情を変えずに淡々と告げるが、余りの急展開に思考がまったく追い付かない。

 混乱していると世界はあっという間に一面暗闇に包まれ、あの時に見た次元の狭間と同じく上も下もない世界で僕達は浮かんでいた。


「此処が次元の狭間か」


「うん…間違いない」


 無関心そうにレヒトは周囲を見渡すが何処まで行ってもそこには暗闇しか存在せず、床も何もない空間は立っているのか浮いているのかさえ分からない。ただ真理ダアトの扉を開いた僕に分かる事は、この空間では僕達のいた世界の常識は何の役にも立たないという事だけだ。

 此処は全ての交差地点、無意識下に於ける精神世界。様々な呼び名があるけど、次元の狭間と呼ぶのが最も客観的で的を得ているだろう。


「…それでエリヤ、此処で何をするの?」


 僕達と同じく暗闇に浮かぶエリヤは相変わらず無表情のまま何もない空間を指差した。


「父が見たいのはあなた達の選択」


 その言葉の直後、エリヤが指差した先に二つの扉が現れる。


「…入れって事か」


「うん」


「その前に一つ確認させろ。俺達をどう試すのか知らんが、命の保証はあるのか?」


 珍しくレヒトにしては弱気な発言だがそれも仕方ないだろう。

 かつては戦神であったレヒトでさえ神には歯が立たない。そしてこの試練はその神が用意したもの…だとすれば僕達が此処で命を落としても何ら不思議ではないのだ。


「命の危険はない。ただ…」


 今まで無表情に淡々と話を進めていたエリヤだが、続きを言おうとして初めて口籠った。


「その…資格がなければ…壊れる」


「…どういう事だ?」


 しかしその答えを聞く前に突然扉が一人でに開くと、その先には周囲の暗闇よりも一層深い深淵の世界が現れた。


「お兄様…何があっても自分を見失わないで。あなたにはまだ為すべき事がある」


 その直後、僕とレヒトはまるで吸い込まるように抵抗する暇もなく一瞬でそれぞれの扉の中へと飲み込まれ扉は音も無く閉まる。

 扉が閉まる間際に不安げな表情のエリヤが目に入るが、彼女が最後に残した言葉はどういう事なのか。しかしその意味を考える間も無く深淵の闇に呑まれた僕は意識を失った。




 鮮明な夢を見た。

 そこは見渡す限りの荒野。大地震により島は崩れ去り、太陽の炎に灼かれ海は干上がり、星からは生命の息吹が途絶えている。その世界に果ては無く、広がるのは明確な無。

 父なる大地、母なる海が失われ時空さえ歪んだ世界で見知らぬ少年が一人立ち尽くしていた。


 終焉が引き起こされたのは必然であり、始めから定められし運命。

 少年は己の手で世界を焼き尽くした罪悪感などとうに忘れ、虚無の心に残っているのは筆舌し難い絶望。

 虚ろな双眸に戸惑いは見えず、まるで突然もたらされた終焉を予期していたようだ。


 天を見上げれば暗い天蓋が世界を覆い尽くし、そこからは一筋の光さえ見えない。それでも少年は願わずにはいられなかった。


 箱庭を騙る魂の牢獄からの逃避を。


 運命をも捩じ曲げる力を。


 しかし全てを浄化した少年は既に役目を終えてしまった。最早彼だけの為に用意された牢獄から逃れる術は無い。

 いっそ死ぬ事が出来れば楽だっただろうに、生と死の概念を超越してしまった少年の最期の願いは決して叶わない。


 選択が過ちだと気付いた時には遅過ぎた。全てが仕組まれた戯曲と知りつつ、少年は終焉を願い、己の手でそれを引き起こしてしまった。

 故に少年はこいねがう。


『新たな箱庭に希望を詰め込み給わん事を。されば奈落に堕ちし厄災が甦ろうとも、次は世界に光をもたらさん。己の過ちは己に罪を課し償おう。天に住まわし主よーー』


 少年が暗い天蓋へ向けて想いを放つとそこに一筋の光が差し込み、まるでその想いに応えるようにボロボロの体を包み込んだ。

 少年の願いは天に届き、時と次元の壁を越えた新たな箱庭にいくつかの種が蒔かれ、やがて蕾を作る。

 これも所詮は用意された舞台だ。しかし蕾が花を咲かせ世界を変えるのか、はたまた枯れ果てこの世界と同じく腐り落ちるのか、それは創造主にさえ分からない。

 だから、と少年は新たな宿主に希望を託し、全てを委ねると静かに目を閉じた。


 願わくば箱庭がパンドラの箱とならぬよう。光溢れ、希望に満ちた新たな楽園とならん事を。


「僕が僕に課した罪は君を苦しめるだろう。一度滅ぼした厄災が再び君の目の前に現れるだろう。しかしそれでも前に進み、同じ過ちを繰り返してはいけない。己を知り、愛を育み、己の為すべき未来を見失う事の無いよう、汝の行く末に幸あれ」


 最後に少年は僕へ向けて穏やかな笑みを浮かべると、天より差し込んだ光に溶かされるように、肉体が淡く発光しながら影を薄めていく。やがて少年に宿っていた魂は導かれるように新たな宿主の待つ世界へと飛び立ち、直後少年を照らしていた一筋の光が弾ける。

 その瞬間世界中が眩い光に包まれ、少年と全てを失った世界は今度こそ真の無へ飲み込まれた。そうして生まれた世界は新たな宿主の為に造られた新たな箱庭。

 僕は選ばれたのだ。新たな宿主、メタトロンの魂を継ぐ者として。




 長い夢から覚めると目の前には見覚えのない白い天井が広がっていた。

 何か大事な夢を見たような気がするけど内容はまるで思い出せない。それより妙に体が気怠い。

 いつの間にか僕はベッドで眠っていたらしく、朦朧とした意識でゆっくりと上半身を起こすが周囲を見渡すと違和感を覚えた。

 そこは真っ白な病室。ミニテーブルの上には見舞いの品として贈られたカラフルなフルーツバスケット。そして腕に刺さったままの点滴針。

 おかしい、此処は僕が知っている世界と何かが違う。そう思っていると病室の扉が開かれ、見慣れない真っ白な服に身を包んだ若い女性が現れた。


「おはよう志音しおん君、気分はどう?」


 シオン…この女性は確かに僕をそう呼んだ。でも何故だろうか、目覚めてから感じていた違和感がより強くなる。

 僕は彼女の事を知らないのに、彼女は僕の事を随分と知っているようだ。でも違和感の正体はそれだけではない。彼女が口にした『シオン』という名は何かが違う。しかしそれが違和感の正体かと言われるとそれも違う気がする。


(何か…何かが根本からおかしい)


 返事もせずに思考を巡らせていると女性が不思議そうな表情を浮かべていた。


「あ…えっと…元気です…」


「ふふ、まだ寝惚けているのかな?」


 そう言う女性はとてもじゃないが敵には見えない。でも…そもそも敵とは何だっけ?


「あの…レヒトは?」


 手際良く点滴袋を取り替えていた女性は一瞬考える素振りを見せると笑顔で答えた。


「レヒト? あ、もしかして昨日読んでた本の登場人物?」


 本の登場人物…?

 まるでレヒトが架空の存在であるかのような物言いに背筋がぞっとした。


「違う…さっきまで一緒だったんだ…。レヒトとエリヤと…次元の狭間にいて…!」


 まるで僕の存在そのものが世界から否定されているような恐怖を覚え、思わず語気が荒くなる。しかし女性はそんな僕を見て怪訝そうな、困ったような表情を見せた。


「う、嘘じゃないんだ! 本当に僕は…!」


 説明しようとすればするほど女性の表情が険しくなる。


「落ち着いて志音しおん君、大丈夫よ」


「違う! 僕はシオンだ!」


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 この世界は僕を丸め込もうとしている。この違和感の中に閉じ込めようとしている。それが堪らなく恐ろしかった。

 すぐに逃げなければと点滴針を抜き取りベッドから飛び降りる。


「先生すぐ来て下さい! 志音しおん君が発作を起こしました!」


 振り返ると女性は備え付けられていた内線電話で助けを求めていた。

 まずい、先生が来る前に急いで逃げ出さないと。

 静止の声を無視して病室から飛び出すが、出てすぐに僕の足は止まった。


「何なんだ…此処は…」


 真っ白い病室の外は一面赤黒い不気味な色に塗りたくられ、歪んだ廊下が何処までも伸びている。

 僕がおかしいのか、世界がおかしいのかは分からない。とにかく逃げなければ僕はまた隔離されてしまう。それだけは確かだ。

 ありもしない記憶を辿り、出口の方向を確かめると震える足で我武者羅に走り出した。

 しかし曲がり角を曲がった直後目の前に見知らぬ男が現れ、思わず立ち止まると男はこちらに気が付きゆっくりと振り返った。そして正面から男の姿を捉えた瞬間、僕は恐怖で体が硬直し言葉を失う。


「おはよう志音しおん君、朝から元気だね」


「あ…あ…おはよう…ござい…ます…」


「どうしたんだい、まるで化け物でも見たように口をパクパクさせて。悪い夢でも見たのかな?」


 化け物なら今目の前にいる。悪夢なら今まさに見ている最中だ。

 振り返った男の顔面の皮膚は全て剥がれ落ち、剥き出しの血濡れた筋肉が曝け出されている。更に白い病衣から覗く胸元にはドクンドクンと規則正しく鼓動する真っ赤な臓器。間違いない、心臓だ。男の心臓は何故か体外に付いていた。


「ははは、さてはまた遅くまで本を読んでいたな」


「あの…質問しても…?」


「おうとも! 何でも聞いてくれ!」


 そう言って笑顔で自分の胸を勢い良く叩く男。しかし勢い余って自らの心臓を叩き潰してしまい、まるで風船が割れたように血が飛散し僕の体に降り掛かる。


「………」


 男は死んでしまった。


(何なんだこの世界は、狂っている)


 いや、案外世界とはこんなものだ。


(違う、僕のいた世界はこんな世界じゃない)


 僕の知る、見ている世界が嘘偽り無い真であると誰が証明出来るのか。


(それ…は…)


 此処もまた確かに存在する世界。

 現に僕は生きて今此処にいるじゃないか。


(そうだ…僕はまだ…生きている…)


 受け容れろ、これもまた真理であり、僕が今やるべきことは唯一つだ。


「…逃げなきゃ」


 血の海に沈む男を無視して僕は再び走り出すが、程無くして警備員に見付かってしまう。


志音しおん君、鬼ごっこは終わりだよ。病室に戻ろう」


 そう言う警備員の手には銃が握られ、銃口は僕に向けられていた。


「嫌だ」


 警備員がトリガーを引こうとした瞬間、天上の炎で両手を爆散する。


「うわ、やられたなぁ」


 周囲に飛び散る五指を見て警備員は困った様子だ。と言っても警備員の頭は鼻から上が存在せず、表情は口元だけでしか判断出来ない。


「…死んじゃえ」


 気持ち悪いからこんな奴は死んだ方が良いに決まってる。どうせこの世界で命の価値など塵屑程もないのだ。

 今度は胴体を爆散させると四肢が周囲に飛び散った。


 あぁ、何て便利な力なのだろう。これはこの狂った世界で僕が唯一縋れる神の力だ。それがある限り僕はこの世界に染まる事はない。


 例えばそこで自らの両足を齧っている女。食人種のようだけど此処では他に餌がない為、自らの体を食べるしかない。なんて可哀想なんだろうか、僕が安らかに眠らせてあげよう。

 天上の炎を頭部に灯してあげると女は嬉しそうな叫び声を上げながら塵も残さず消滅した。


「…あれ、そういえば僕の足は何処だろう?」


 病室に忘れてしまったのかな?

 だとすれば今付いてるこの足は誰の物?

 病衣を捲ると左右それぞれ色の違う足が僕にくっ付いていた。何だか歩き辛いと思ったら左右で長さも違う。


(何だか気に食わないな、燃やしてしまえ)


 この世界では僕の命とて平等に塵屑以下だ。

 両足を焼く炎は徐々に広がり、やがて全身を覆い尽くすと僕は自らの炎に包まれ消滅した。

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