クロニクル・オンライン

九鬼

プロローグ

 クロニクル・オンライン

 それは、世界的に有名なVRMMOのひとつだが、プレイ人口はそれほど多くない。

 その理由は、難易度が他のオンラインゲームと段違いで難しい為だ。

 それなのに有名な理由は、クロニクル・オンライン(以下クロニクル)は公式で実際にやっているプレイヤーの様子を、ネットで配信している為である。

 流麗な音楽や、この世のどこにでもない美しい景色などが人気で、世界観も他のゲームとは一線を画す。それにあるイベントがその知名度を一躍あげている。


 戦闘システムは魔法、科学、様々な武術や戦術を上手い形で混ぜ合わせ、フィールドもひとつの世界ではなく、多種多様な世界が無限に広がっている。

 異世界が何個もあると想像してもらえれば早いかもしれない。


 つまり、異世界物でありがちな中世ヨーロッパ風、剣と魔法の世界もあれば最先端の近未来風世界など、異なる様々な世界が多数存在する。


 プレイヤーは、自分の拠点世界をランダムで決められ、その世界のルールで戦う。敵はその世界の魔物であったり、他種族であったりもするが、最大の敵は他世界のプレイヤーだ。

 クロニクルの目玉イベントは、他世界プレイヤー同士の大戦争だ。

 仮にA世界とB世界が大戦争し、A世界が勝ったとする。

 負けたB世界はA世界のになってしまうが、プレイヤー自体が隷属されるわけではない。

 B世界のプレイヤーはA世界のプレイヤーとなるか、また違う世界に行くか選択できるのだ。

 負けてもリスクがあまりないと思うかもしれないが負けたペナルティはそれだけではない。

 レベルが半分に落ち、所持品も全て奪われ、紙幣に価値はなくなる。

 これだけでも大ダメージに思うかもしれないが、もちろんそれだけではない。

 VRMMOはゲームの世界を現実と変わらず体験するのが売りだ。

 その為、ゲーム世界が現実と同じように感じてしまう。

 たとえそれがゲームだと分かっていてもその世界には住人(NPC)が生活している。

 住人はNPCなのだが、会話や行動はプログラムされておらず、人工知能。

 受け答えも普通の人と相違ない。

 その世界の住人が戦争によって陵辱されるのを見て、これはゲームだと割り切る人はそういなかった。


 クロニクル・オンラインは、ただのゲームだと侮るなかれ。


 これは、プレイヤーの常識だ。



 _______


 佐渡島明日香もクロニクル・オンラインのプレイヤーであるが、その事は親兄弟含め誰も知らない。


 理由は彼女の容姿に問題があるからだ。問題といっても、特別、不細工だとかは一切ない。

 むしろその逆で、彼女はこの世のものとは思えないほど、酷く、残酷なまでに美しかった。

 肌は透き通るほど白く思わず触れてしまうほどで、切れ長の瞳もしっかりとした隆鼻もその綺麗な輪郭にバランス良く収まっていて、まさに完璧と言わざるおえない美しさだ。


 その容姿の所為で、彼女は昔から苦労した。

 両親はいたって平凡な顔つきだった為、彼女が生まれてすぐ母親は不貞を疑われた。

 疑ったのは父ではなく、父方の祖父母であったが離婚の危機だった。

 2歳の時に親戚の家にて貞操の危機、4歳の時に幼稚園で貞操の危機、6歳の時小学校で貞操の危機など頻繁に起こる出来事に、彼女は自分の身を守る為に良い子でいる必要があった。


 2・4・6歳の時の危機は彼女のほんの些細なイタズラのお仕置きという名目で行われかけた為だ。


 良い子でいればこんなに怖い事は起こらないと彼女は考えた。

 それからの彼女は勉強を頑張り、スポーツも頑張り、人に嫌われないように努力したがうまくはいかなかった。


 勉強も運動も性格も良く見える美少女に反感を抱く人は少なからずいる。


 彼女に友人と呼べるものが今まで出来た事がないのがその証拠だ。

 絶望的に美しい彼女に男は憧れを抱き、それを見て女は嫉妬する。

 彼女は恋愛ごとで憎まれる事が多かった。


 おそらく、彼女がいなければうまくいく恋愛も多かっただろう。

 彼女の所為で目の肥えた男は、を作ろうとしなかった。


「あんたの所為で工藤くんは…」


「彼氏があんたが好きだから別れようって…」


「死ね、あんたがいなければ…」


 浴びせられた暴言は数知れず、これほど嫌われているのだから良い子でいなければもっと嫌われ、何されるかわからない。


 だから、彼女は必要なまでに良い子でいる事を欲したのだ。


 _____


 クロニクルは有名だが一般受けしない。

 やっている事がバレたら今まで築き上げた良い子象が崩れる。しかし、クロニクルは彼女にとってストレス発散方法なのでやめるつもりは一切なかった。


 だから隠した。

 彼女が本当の自分をさらけ出せる唯一無二の場所、それがクロニクル。

 正直、現実より大切な場所だった。


 彼女のプレイしてるキャラの見た目は実際の彼女とはかけ離れている。

 クロニクルでは、自分で自分のキャラをカスタマイズしたり、実際の自分と同じ姿にも出来たりもするが、それとは違いランダムで運営から配布されたりもする。


 クロニクルでは、カスタマイズ派は一般、実際の自分の姿派は、出会い厨。

 ランダム派はガチ勢と言われている。


 運営からのランダム配布キャラは、カスタマイズなどと比べると強さが全然違うだけでなく、ごく稀に物凄く強いキャラに当たる時がある。

 それはあたりキャラと言われ凄く貴重だ。

 運営からの配布はアカウントごとに1回。

 ガチ勢の中にはあたりキャラの為に何度もアカウントを買い直したりする輩もいるらしい。

 その代わり容姿、性別は選べない。

 彼女は始めた当初そんなことは一切知らず面倒だからランダムで決めらあたりキャラだった。

 見た目は一言で表すなら鬼だ。


 3Mはある背丈、体格もがっしりとして筋肉質、声も野太く低い、顔は鬼と悪魔を足しで二で割ったらそんな感じだ。

 性別は男、種族は鬼神。


 そんなあたりキャラで始めたものだからハマりにハマった。


 拠点も平和とはかけ離れている世界だったが、あたりキャラのため無双。

 頼りにされ気づいたら有名なプレイヤーに上り詰めた。


 現実世界にいる時よりも充実していた。

 家にいる時も風呂、トイレ、睡眠以外はログインしていた。食事は朝昼以外は食べない。朝は学校でパン昼は食堂。勉強は要領がいいため授業だけで事足りるる、家族とのご飯は小学生以来していない。

 母とは不貞疑惑の為生まれた時からギクシャク。父はあまり家にいない。1歳上の兄と1歳下の妹がいるが、兄は時々気持ち悪い視線でジロジロ見て来るため必要最低限にしか接しない、妹は彼女を嫌っている。

 兄と妹の容姿が両親と似て平凡、それで周りからいろいろ言われるらしい。

 仲を悪くしたいわけではないので、嫌われるような事はしていないのだが、それはそれとして嫌いなものは嫌いらしい。


 学校では良い生徒の振り、友人もいないので、学校が終わればすぐに帰ってクロニクルそんな生活をだらだら続けていた時にそれが起こった。


 彼女がいつものようにクロニクルにログインするとお知らせ画面が表示された。


 "今回のイベントは今までにないイベントです。参加するのもしないのも自由です。

 その代わり参加による弊害などは一切負いかねますのでご容赦ください。

 参加しますか?"


 彼女は迷わず参加するを選択した。


 途端、目の前が暗転し上も下もわからない空間に投げ出される。


 __ザーッ__


 ノイズが聞こえたかと思うと、男でも女でも年寄りでも子供でもない声が聞こえ始めた。


「今回のイベント場所は地球です。参加者は参加するを選択した全プレイヤーになります。皆さんで地球を奪い合ってください。なお、大変申し訳ないことですが、能力、所持道具、種族等は反映されますが、見た目は現実のままです。こればっかりは変えられませんでした。あと死んでも生き返りません。そういった能力があれば別ですが…では皆さんで殺しあってください。奪い合ってください。楽しまれることを心より祈っています」


 __プッツン__


 と音がすると目が覚めた。


 私は再度ログインしようとしたが、機械がうんともすんともいわない。


「壊れてる…」


 私は、泣きそうになりながら立ち上がった。その時に異変に気付いた。

 目の端にアイコンがあった。それに手を伸ばすとアイテム欄、スキル欄、HP、MP表示された。


「何これクロニクルと同じ?」


 自分のプロフィール欄に行くとそこに自分がいた。性別は女、名前はクロニクルの名前ではなく本名で表示されていたが、ステータスやスキルはクロニクルと同じで種族は鬼神と表記されていた。


 プロフィールの自分をタッチすると姿が変わった。自分の容姿に角が生え、髪の色も銀色に変わっていた。背中にはエネルギーの塊みたいな黒い羽があった。


 私はすぐに表示をオフにし、鏡の前に立った。見た目は普通の人間だった。

 が先ほどのプロフィールの自分の姿を想像すると鏡の中の自分は姿を変え、プロフィールのと同じ鬼神の姿になった。


「うわ〜、どうしよう」


 声に出してはみたものの解決するはずがない。とりあえず姿を元にもどし考える。


(今日は休日だから誰もいない。というかこの事を知るものは誰もいない)

 心の中で呟く。


「よし、なかった事にすればいいか」


 口に出したら楽になった。機械が壊れて何もする事がなくなったこともあり、もしかしたら夢かもと期待して寝ることにした。

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