第28話 潜入
「…………遅いっ!」
僕は一人そんな言葉をもらしながらイライラと足を踏みならしていた。
朝目覚めてみるとベジもセレナもヘンゼルもグレーテルもクマの人形さえもおらず、自分一人が地面に雑魚寝していた。
いきなり消えてしまったみんなを探しに行こうかとも思ったが、林は奥が深そうで下手に動けばすれ違いになって会えなくなるかもしれないと思いやめた。
そしてそこらに生えていた食べられる野草を使って簡単に料理を作ってみたりした。
一応五人分(クマは食べるか分からないから少なめに)用意して、近くの岩に座って、ずーっと五人を待っている。
しかし一向に人の気配がしてこない。
こうも一人でいると、僕はもしかしておいていかれたのだろうか。
なんて悲しい考えが時節脳裏をよぎってくる。
いやいや、あのセレナならともかくベジはそんなことしないだろう。
そう思っているのにやはり胸の中は不安でいっぱいでひどくイライラしてくる。
「やっぱり探しに行こう」
そんな気配はないが、この林の奥に魔物が潜んでいるのかもしれない。
そしてもしかしたらベジ達はその魔物に捕まっているのやもしれない。
そう考えるといてもたってもいられず途端スクッと立ち上がる僕。
しかし、そんな矢先。
「タグ〜〜〜〜〜〜っ!!」
そんな聞きなれた声がしてきて、振り返ろうとする。
しかし振り返る間も無く僕に襲いかかってくる衝撃。
「うぐっ……」
「うわあっ。ごめん、タグ」
僕は後ろからベジに抱きつかれた……というか首をしめられたまま、前のめりに倒れこみ、危うくせっかく作った朝食を台無しにしてしまいそうになる。
「朝からおあついこと」
なんていって意地悪く笑うセレナと苦笑いを浮かべたグレーテルがベジの背後から現れる。
「ごめんね、タグ」
少し申し訳なさそうにこちらに手を差し伸べるベジ。
そんなベジに「別に大丈夫だよ」と答えその手を取り立ち上がる。
「で、君たちはどこに行ってたのさ。あと、あの女の子……ヘンゼルは?いないみたいだけど」
「ちょっとお散歩に、ね」
なんてどこか誤魔化したように笑うベジに自然と自分でもわかるくらいに表情が険しくなる。
するとそれを見かねたようにグレーテルが一歩前にでる。
「別にいって大丈夫ですよ。実は色々あって……」
なんて申し訳なさそうにきりだすグレーテルに僕は
「じゃあ、朝食でも食べなからその話を聞かせてよ」
という。
その言葉に ベジとグレーテルは嬉しそうに返事をする。
けど……。
「あ〜あ。ま〜た、タグのおぼっちゃま特性草オンリープレートなわけ」
悪魔さんだけは心底うんざりした顔をする。
「文句言うなら食べるなよ」
「はいはいわかったわよ」
なんて僕とセレナで少し軽口をたたくとみんな席について(といっても岩なんだけど)僕たちは朝食を食べ始めたーー。
「あと少しでつくわ。気合いいれなさいよ〜」
そんなセレナのどこか間の抜けた声に三人それぞれ返事をする。
そんな僕らは朝食を終え、グレーテルの事情を聞き終えて、さっそく当初の目的エルフの都ベルサノンへ向かっているところ。
話を聞いてみて、グレーテルは自分と似ているなとまず思った。
自分の心が弱くて自分の今いる状況を打破できずに逃げたく仕方なくて、でも逃げ場なんかなくて、追い詰められてしまった人。
そしてそんなグレーテルにとっての光であるヘンゼルは、僕にとってのベジのようなそんな人なのだろうと思った。
そしてもしベジが詳しい事情も言わずに「君とは一緒にいられない」といって自分のもとを去ったら僕はとても耐えられないだろうと思った。
きっと悲しみに暮れて塞ぎ込んでしまう。
けれどグレーテルは笑ってる。
無理してでも笑みは絶やさない。
似てるけど、違う。
そんな彼を僕はどこか面白いとも感じていた。
「そうだ。ベルサノンは警備が厳重でね、その象徴ともいえるのが検問なんだ」
僕は思い出したように言葉を紡ぐ。
「10人以上の検問兵に囲まれていわば尋問のようなことをされるみたいだよ。実際に経験したことはないからよくは知らないけど。」
「そうなんですね……。でも尋問って具体的にどんなことをされるんでしょう……」
なんていって考えこむような仕草をするグレーテルに
「まあそんな個人的なことは聞いてこないだろうし、大体種族とか年齢とかその他諸々……じゃない?」
そう言い終えた時ハッとする。
セレナは?僕と血が繋がっているというエルフの王族が根絶やしにした悪魔の一族唯一の生き残り。
セレナの魔力ならいくらでも変装に変装を重ねられるだろうしバレることもまずないだろうけど、あのエルフの都だ。何が起こるかーー。
「じゃあ、僕は人間の十二歳です。と答えればいいんですね!」
なんていってこちらを見やるグレーテルはなんだか弟みたいで微笑ましい気分になる。
「うん、そうだね」
「じゃあ、私は人間の十八歳、かあ。ちゃんと言えるかなあ」
なんてはにかむベジ。
可愛いなあ……。ってなにこんなことポツリと思ってるんだよ。
心内でそんな一人ツッコミをしてるうちにエルフの都を取り囲む高い高い城壁の目の前にやってくる。
見上げても見上げても先が見えないくらい高い壁に囲まれたそこは一瞬軍事基地?と思ってしまわなくもない。
防弾防魔製のそれは煉瓦造りのようなかわいらしいものではなく、ゴツゴツしていて厳つい、いかにも戦争向きなものだった。
こんな城壁であの条例であの検問だものね。
ほんと、セレナの言う通り人が来ないわけだよ。
なんて思いながら少し先を歩くセレナを見る。
それにしてもセレナは検問をどう切り抜けるんだろう。多分大丈夫だろうけど、もしもの時は……。
そんな矢先。クルリとこちらを振り返るセレナ。
「さ、ついたわよ。ベルサノンに」
「うん!」
「ですね」
「…………いや、これ……」
まさか見間違いかと目の前に広がる城壁をメガネをはずしたりかけたりして何度も確認してみる。
けどやっぱり……。
「裏側じゃないか!!」
僕はその疑心が確信に変わると思わず素っ頓狂な声で叫んでしまう。
どうりで人は通らないわ、検問までの道に王族の自己主張の塊みたいなオブジェ等がないはずだったんだ。
幼い頃何度か来たことはあれど魔法のじゅうたんでの入国だったので、歩きの道など知らなかったし気づかなかった。
「ご名答よ。」
「だけど、裏側に回るなんて禁じられてるだろ。だいたい一般人は検問を通らなきゃダメだし」
「あーこれだから真面目なガキはやあね。規則なんて破るためにあるのよ。それにエルフの奴らの目を眩まして裏側にくることも、裏側から入国することも簡単なのよ」
「はあ?君は一体何を考えてるんだ!いいわけがないだろう!第一どうやって入国するつもりだ!壁でも壊す気か!」
「壁を壊して欲しけりゃそうするけどね、でも今回は違うわ。あんたの力を借りる。」
「……はあっ?!」
セレナは有無を言わさぬように僕の左手首を掴み、そのままズンズンと城壁に向かって進んでいく。
戸惑いながらもそれに続くベジとグレーテル。
「おい、離せよ!」
「すぐに終わるっての」
そういってからポツリと「……が変わってもあそこは変わってないわよね……」などともらすセレナ。
最初の方はよく聞き取れなかったけど、なんて言ってたんだろ。
まあいいや。
はあ……。もうなされるがままだ。
抵抗しても無駄なようだしね。諦めるしか道がない。
「ここね」
セレナが手をかざした部分の城壁が青白く光る。そこにはバツ印がみえる。
「それはなんなんだ?」
「前言ったでしょ。エルフの姫も仲間だったって」
「ああ。言ってたな」
「そいつがよく使ってた抜け道の印。城壁が分厚くなってもちゃんとあるってのが……」
「嬉しい?」
「………」
「違ったか?」
「うっさい。いいからあんたはとっととここに手をかざして」
「え、手をかざすだけでいいのか?」
「ええ。必要なのは王族の血だから」
その言葉を聞いて改めてエルフって王族に固執してるよなということとそのことに対する恥ずかしさみたいなものを感じる。
「……じゃあ」
そういって僕がそこに手をかざすと……。
「…………なにも……起こらないみたいなんだが」
「……みたいね。仕方ないわ。やっぱ銀と金は違うみたいね」
そういうと途端にニヤリと笑むセレナ。
嫌な予感……。
「強行突破、いくわよ」
「え?……おいおいおい!何する気だよ!!」
その日、エルフの都ベルサノンに四人の謎の者が潜入……もとい襲撃したことは風の噂となってたちまち世界中の者が知るところとなるのだった……。
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