第11話 火の玉

 その夜、満月の夜。


 23時…初めて僕は家をこっそり抜け出した。

 23時、日付が変わる1時間前…。

 僕はそれだけでドキドキしていた。


 龍神池に着くと、僕はヒロを探した。

 小声でヒロを呼んでみるが、返事が無い。

 月明かりは明るく、興奮が勝っているせいか祠に恐怖も気味悪さも感じない。

 どちらかといえば、神聖さを感じるほどだ。

 本当なら、あの祠こそ幽霊の出没場所だろうと思うのだが。


 しばらく、龍神池の周りを歩く、祠の前を通り過ぎ池の対面に差し掛かると祠に緑色の光がボワッと浮かび揺れている。

「えっ?」

 思わず声がでた。

(火の玉…)

 僕は、小走りに祠に向かって走る。

「へへぇ…驚いたか?」

 思った通り、火の玉の正体はヒロだった。

 ランプに緑色のセロファンを張っていた。


 僕らは祠の前に座って、龍神池を眺めて話す。

 入学式の事、初めて言葉を交わしたこと、遠足…写生大会…たかが6年間だけど、僕らにとっては、人生の半分の時間。


 ポツリ…ポツリと小雨が降ってきた…満月は龍神池にその姿を歪んだ鏡のように映しだしていた。


 ガボンッ……水面が不自然に盛り上がる…僕らはランプを水面に向ける。

 水面のすぐ下を何かが泳いでいる……コバルトブルーの大きな生き物……。

「龍?」

 ヒロが呟いた。

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