第9話 ばあちゃんのお使い

 ランプが出来た僕は、宿題のほとんどを終わらせたような気分になっていた。

 実は、ドリルの大半は真っ白のままなんだけど。


 その日は、ばあちゃんが野菜と一緒に花を摘んできた。

 そして、僕にキュウリとナスを神社に持って行くように言った。

 ばあちゃんは神主さんに、この花も渡すようにと僕に花も持たせた。


 正直、花を持って外を歩くのは、かっこ悪い。

 クラスの奴らに見られたら、からかわれそうだ、僕は急いで自転車のペダルを漕いだ。


 神主さんに野菜を渡して、花を渡した。

 誰にも見られなかったことに、ほっとして汗を拭う。


「あぁ…毎年ありがとうと伝えておくれ」

 神主さんは花を受け取るとそう言った。

 少し神主さんと話をする。

 いくつになった?来年は中学生か、とか…たわいもない話。

 帰ろうとした僕を、神主さんは遠慮がちに呼び止めた。

「少し、…あぁ…うん、付き合ってくれないか?」

「うん…いいけど、どこに?」


 神主さんは黙って、僕を墓地へ連れて行った。

「神社の家はお墓って言わないんだよ、奥津城おくつきと言ってね…私の息子もココに埋葬されてるんだ……今日は命日なんじゃ…」

 そう言って、花をそっと置いた。

 僕は思わず手を合わせてしまって、すぐに手を離した。

 その様子を見ていた神主さんは笑って

「いいんじゃよ…気持ちがあれば…ありがとう」

 僕の頬を両の手でそっと押さえて

「ありがとう」

 ともう一度言った。

 少し涙ぐんでいるように見えた。


 夕食の時に、その話をした。

 神社ではお墓じゃなくて…奥津城おくつきと呼ぶことを話すと、ばあちゃんが泣いていた。

 じいちゃんは黙って新聞を読んでいて、母さんは台所で洗い物をしていた。

 母さんの後姿は泣いているように思えた。


 僕は、してはいけない話をしてしまったような気まずさを感じていた。

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