後日談1

 憂鬱だった屋敷にようやく活気が戻り戦場から戻った将軍が息子の死を讃えた。カナーベルがいなくなった部屋にアシュレイはいて部屋にあったグランドピアノの鍵盤をポンポン叩いて見せる。譜面台にはあまり聞きなれない作曲者の楽譜が置いてありたくさんの書きこみがある。カナーベルはこっそり練習していたのか、ピアノの音色が屋敷に響くことには気づかなかった。そっと蓋を閉じて部屋にあった観葉植物などを眺めアシュレイは部屋をあとにした。今日はドラゴニアが呼ばれているとルースから聞いていた。パーティーがあるのである。エリメルも一緒だ。あれから騎士になったアシュレイは特別待遇で迎えられることになった。屋敷をあてがわれ使用人を用意されていた領地はもらえなかった。とはいっても以前破産した男爵の屋敷がそのまま売りに出されていて縁故だった関係者が買い取り住人を探していたってだけの話だった。広い屋敷に執事が一人とメイドが一人牧童が一人庭師が一人の四人だけである。屋敷が広すぎて掃除が行き届かないのでアシュレイは使うところだけでいいからと言っておいた。男爵は使用人の給料を未払いだったので新しい使用人を雇うわけにもいかず老人の執事が毎日お金の計算をしてくれ多分料理人を雇うのは一年先くらいになるだろうとか言っていた。自分が人を雇うとは。アシュレイはここシーザで立派な騎士になったのだ。男爵の屋敷とカナーベルの屋敷は遠くない。時々訪れてあの人を懐かしむのだった。そうしてルースに会って聞いたのである。それを帰ってから執事に話すとそれはいけませんとぴしゃっといった。


 広い光沢のあるリビングのソファに執事は座っていて、アシュレイは向かい合って座っていた。


「いいですか?あなたはもう一人の体ではないのです従業員を支えている騎士なのです、ドラゴニアがどんな悪人しかは知りませんが今後我々の仕事を奪うような真似をしないでください、男爵様のような真似をしないでください」


 メイドがやってきて紅茶をカップに注ぐ。ケーキもいっしょだ。


「あ、これ作ったの?」


「牧童のミーシャと一緒に作りました坊ちゃん」


 メイドが笑い厨房に引っ込む。


「なんで給料もらってなかったのに逃げなかったんだよ他の奴らは逃げたんだろ」


「私たちは…帰る場所はここしかなかったんですよ」


 執事が悲しくそう言うとアシュレイはばつが悪い顔をしてカップにてをかけた。


「今のところ手が空いた者が厨房に立ってますけど」


「助かる」


「爵位をもらって今後も出世してもらわねばだから復讐などしてはいけないのですよ」


穏やかな紳士的な執事はそう言ったがアシュレイは何かしてやる気でまんまんだった。あいつを殺すのはカナーベルのとの約束の一つである。出会いがあれば別れがある。アシュレイはここで新しい生活を使用人のみんなと始めたのだ。

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