別れの朝に
屋敷に人が来て騒ぎになったのはまもなくのことだった。瀕死の戦士がなにか言い残し、カナーベルの前で亡くなったのである。アルバートカルバナールから何か巨大な怪物が送り込まれてきて町を襲っているとのことであった。カナーベルはヴィンランドスレイを腰に携え馬をとメイドに言った。その日アシュレイは眠れなかった。嫌な予感がした。
「師匠行かないでください」
「なぜ?」
「だって…」
「必ず生きて帰りますよ」
カナーベルは氷のような表情をしていた、だからアシュレイにはわかったのかもしれなかった。
「私がお守りします」
「ルース行くな…」
パジャマのままのアシュレイは泣いていた。二度と会えなくなる予感がしていた。
頬が露に濡れ、そのまま裸足で駆け出した。馬を追いかけたのである。見えなくなるまで。
「風邪をひきますよ旦那」
そう使用人に言われ、アシュレイはハンカチで鼻を抑えながら屋敷に引き返した。たぶんその勘は当たっていて、リトルコールティンとはまた会えるだろうけど、もう二度とカナーベルたちには会えないのだという予感がしていた。自分もついていくべきだった。やがて屋敷にフェリクスが立ち寄り、あれ、行ってないの?と聞くと自分も連れて行ってくれとアシュレイは頼み込んだ。
「別にいいけどカナーベルが死ぬわけないと思うよ」
「そうじゃないんだ…」
かつてアシュレイの頭の片隅に牢獄に捕らわれていたかつての英雄の姿が言葉がよぎっていた。あいつは今迷っている死のうとしていると。そんなことは断じて許さない、そう怒りに震えていたのだ。まだ何も教わっていない。フェリクスの馬の後ろに乗り、その怪物とやらが襲っている町中へと到着していた。そしてアシュレイの姿を見つけたルースが激怒した。
「なぜ来たのです!」
「俺を置いていくな!」
「師匠も俺を置いていくな!」
「お前は役に立たない!今度の敵はドラゴンで…」
カナーベルが仲間と一緒に精一杯そのドラゴンと戦っている。かきんと言ってヴィンランドスレイがドラゴンの皮膚を貫かず、カナーベルは剣をまじまじと見つめた。
「剣の女神に祝福されたこの剣が役に立たないとは?」
「カナーベルお前は下がって!」
ファルスがそう言ったがカナーベルは剣を握り締めてドラゴンの懐に入った。腹ならば剣が通ると思ったのだ。しかしドラゴンの巨体がカナーベルの体を踏みつぶしてしまった。
「カナーベル!」
「師匠!」
踏みつぶされたカナーベルはそのあとドラゴンのしっぽに弾き飛ばされ、全身を壁に打ち付けた。やがて召喚された竜騎士団が到着しドラゴン退治にあたる。
駆け寄ったアシュレイはもう息も絶え絶えになったカナーベルのそばでひたすら手を握っていた。ルースも駆け寄り、メリッサも来ていた。
「油断したものです……私ともあろうものが」
「師匠、あんたらしくない俺はまだ何も教わってない、あんたの強さの秘密この長い旅の間何も教えてくれなかった」
「私が切ってきた愚か者たちと孤高のアンサズのところへ…行くのですねこのヴィンランドスレイ…アシュレイお前が受け取ってください。私が認めたただ一人の弟子。きっとドラゴニアをエルキナに帰って討つのですよ、そしてこの国で騎士になりリトルコールティンを迎えに行くのです」
「あっけない死に際すぎるわカナーベル…この国を脅かしたほどの死神が」
近寄ったメリッサが頭を膝にのせてその時を待った。
「メリッサ美しい人、あなたの心変わりを責める気はなくても…」
カナーベルは光をみていた。真っ暗闇から自分を救い出すアシュレイという光を。死神と恐れられ戦とはいえ何百人という人間を殺してきた自分を慕ってついてくる子供の姿をみていた。
「アシュレイお前に会えて最後は幸せでした」
「お前は生きて、私以外の光になるのですよ」
「師匠!」
やがて息のねがとまり、アシュレイはヴィンランドスレイを両手に持っていた。そうして涙を拭わずドラゴンのもとへと駆け出していく。
「う…う…」
「ルース時間がないわ私たちもドラゴンのもとへ民草が犠牲になるわ」
「行きましょう、メリッサ嬢」
ヴィンランドスレイから光が放たれていた。アシュレイは剣の女神から認められたのである。アシュレイは光が放つドラゴンの弱点である眼球をつぶして炎をひらりとかわして剣で頭をついた。頭はわれ骨が見えている。
「ヴィンランドスレイが…!?」
やがて聖騎士団と竜騎士団がとどめにはいる。ドラゴンとの戦闘は三時間にも及び、カナーベル一人だけの犠牲でどうにか仕留めることに成功した。
その日の空気は乾いていた、空は真っ赤な夕焼けで血のように赤く染まっていた。やがて宵闇が近づきしカナーベルを抱えてルースとアシュレイは屋敷へと帰還した。
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