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吸血鬼の姿が見えなくなって随分と時間が経った、大丈夫ですとはいったもののエーゼンの戦線離脱は間違いなかった、隊員が止血しミラルカが血を止めてはみるものの首には太い動脈が通っている、あふれ出す血潮はとめどなく床を濡らし、意識が朦朧とする中で必死でエーゼンは耐えていた。
「くっ私はここまでか……」
エーゼンが悔しさで吐き出した言葉を聞き、隊長が駆け寄ってここでじっとしていなさないと声をかけた。うなだれた様子ではいとエーゼンが言って、吸血鬼のいた場所へと目を落とし、歯をむき出しにして怒りをあらわにしていた。エーゼンの涼んでい場所までファティナ姫とミラルカがたどり着いていた。大きな木の木陰には花が咲いている、ファティナはつぶさないでと一言念を押して、木の幹に寄り掛かった。
ファティナの大きな瞳が美しいこの国の天使のような騎士の姿を捕らえる。ただ、血まみれだったが。
「怪我をなさったのですね、少し休憩したら治癒魔法をかけます」
そうファティナが声をかけるとエーゼンは血の出ている方向に目を一瞬配り、問題ないと一言言ってそっぽを向いた。
アシュレイたちは吸血鬼の姿を追っていた、さっきから姿をくらまし、声だけが不気味に空間に広がっているのだった、フェリクスがアシュレイと言って袖を引っ張る。なんだよと後ろを振り返ると吸血鬼の姿がその後ろの影からひょいと現れていたのだった。
「この野郎!」
アシュレイが斬りかかるとたくさんの蝙蝠の姿に変化し高らかな笑い声とともに姿を消してしまう。
「私は悪魔の使い、ゴブラー様の配下の一人」
「レアデスゴブラーだって!?」
エルキナの人間ならその名を知らない者はいない、何百年と生きる大魔法使いの名だ。だれそれ有名な人なのとフェリクスが聞くと無視してアシュレイは吸血鬼の声に耳を傾けるのであった。同行にミラルカも加わっていた、レアデスゴブラーの名を聞いて戦慄していた。
「一人で何万人という兵士の力を凌ぐと言われている大魔法使いよ」
そう言ってミラルカは吸血鬼の消えた方向に目を配り手を大きく広げマジックサーチを試みる。詠唱は少しだった、魔法が始まるねと隊長が言って、その様子をかたくなに隊員たちは見ていた。ミラルカはしばらくしてあっちよと言って隊員たちがあとに続く、吸血鬼は祭壇に佇んでいた。緋色のマントを翻し、醜い牙を晒す。
「ファティナ姫はどこにいったのだ?」
「てめーの知る由もねーよ!」
アシュレイの切り込みに見切ったかのようにかわし、吸血鬼は超音波を出した。
「やべえ!」
耳のよい騎士団たちの連中である、超音波を感じ取った連中は耳を抑えて悶えていた。ミラルカはケロリとして魔法をいくつか打ち込んでいた。
「甘い!そのような魔法が私に太刀打ちできるとでも!」
そう言って吸血鬼はミラルカの傍まで寄って首元に噛みついた。
「固い……?」
「硬化の魔法を打っておいたのよみんなにもよ!お前は死ぬわ、レアデスゴブラーと一緒にね!」
「私の肉体は滅んでもレアデスゴブラー様の肉体は滅びぬ」
牙をやられた吸血鬼はよろめきながら崩れていく、今ですよアシュレイ!と遠くからカナーベルの声がした。
「俺のシルバーソードをくらえ!ここまでだ!」
吸血鬼の胸に銀の光が撃ち込まれると声にならない断末魔が一瞬聞こえ、そのまま吸血鬼はさらさらと粉のように灰になって散っていった。
「私が滅んでもレアデスゴブラー様は滅びぬ……」
灰になりながら吸血鬼は再度そう言った。粉になって風になって舞い散る吸血鬼の姿を追いながらアシュレイは終わったのかと言ってペタリと床に座り込んだ。
「お見事でした」
ファルス隊長がそう言うと、アシュレイは茫然としておお。と言って宮殿の中を見回していた。
「ファティナ……!」
アシュレイはファティナの姿を探して神殿の中を出た。私もと言ってミラルカも続く。ファティナはエーゼンの首の治療をしていた。すっかり血の止まったエーゼンそっぽを向きながら礼を軽く言った。
「ファティナだめじゃない無理しちゃ!」
ミラルカがそう言って叱責すると、吸血鬼はどうなりました?と尋ねた。
「アシュレイが倒したよ、よかったねファティナ」
「そう……ですか……」
ふっと力が抜けて倒れこむファティナをミラルカが支えた。
はっとしたエーゼンが近寄ろうとすると男の人は近寄らないでと言ってミラルカが怒った。景色は雲一つない晴天である、まがまがしい空気が一変し、そこはもとの空中庭園らしい風景を取り戻しつつあった。
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