54
聖騎士団が到着して間もなく神殿はただそびえたっていたが、そのうち神殿ごと空中へと舞い上がっていた。
「バカな!」
ファルス隊長が慌てて追おうとするとミラルカが空中くらいこの人数ならいけると言って高く高く移動していく神殿を見上げいてた。
輪になった聖騎士団がミラルカが静かに集中してと言って飛び上がると、神殿のすぐそばまでワープした。腰を打ったアシュレイがさすっていると、大丈夫?とミラルカが杖を突いて近くにまで寄ってくる。
「なんでもねーよそれよりファティナだ!」
「待ちなさいアシュレイ!」
カナーベルが止めるのも聞かず、アシュレイは神殿へと乗り込んでいた。
神殿の中はがらんとして中央に捕らわれの身になったファティナがいる。
「ファティナ!」
急いで駆け寄ろうとすると来ちゃダメ……と言ってその姿は粉々に砕けた。
「硝子……!?」
「やあ可愛い客人だ、よくここまでこれたものだな」
奥から緋色のマントを羽織った端正な美貌をもつ吸血鬼が現れ、その醜い牙を晒した。アシュレイのセンサーは敏感だった。こいつはやばいと一瞬で分かった。
「ここはもう何百年も使われていない空中庭園だ、さては魔術師がいるな」
「エルキナの誇るエレメンツが一緒だ、お前は死ぬ!」
高らかに笑って吸血鬼は姿を消した。神殿をくなまく探すもファティナのすがたはどこにも見えなかった。遅れて聖騎士団が到着し、神殿内を探していたが、吸血鬼のすがたもファティナ姫の姿も見えなかった。
すかさずミラルカが杖を掲げてサーチしたが魔力の反応がないと言ってしょげて帰ってきた。
「魔力の反応がない?ではここにはもういないということですか」
カナーベルが尋ねると、ミラルカは首を振った。
「私より強力な力でバリアでも張っているのかもしれないわ、でもきっとここにはいる、探しましょう」
聖騎士団がくまなく探している間、アシュレイは大広間の鏡が気になっていた。
この鏡は何かが変だ、何が変なのかはわからなかった。
左右反転していないのに気づくのに多少時間がかかった、そこだ!とばかりに鏡をたたき割ると奥からブラックホールのような異次元の空間が出現し、見つけたぞ!とアシュレイがみんなを呼ぶ。
「鏡は魔力を反射するの、だからサーチにひっかからなかったのね」
「さあ飛び込みましょう、あまり時間がないようです」
聖騎士団六人と魔術師一人が飛び込む。アシュレイの姿もそこにあった。
鎖に繋がれたファティナが疲労困憊でその空間にいたのをすぐに目撃してファティナ無事か!と叫んだアシュレイである、返事はなかった。
「私ほど強力な吸血鬼が相手となると、さすがの聖女もこんなものなのですよ」
奥から現れた吸血蝙蝠の群れから現れた吸血鬼が佇んでいた。
すかさずカナーベルがその凄まじい剣先で斬りこみを入れると高らかに笑って吸血鬼は雲のように散っていってた。そして神殿の奥からカナーベルに向かって炎の塊が投げつけられる。ヴィンランドスレイには魔力を跳ね返す力がある、炎はそこで消えて、おのれ!といってカナーベルが深追いする。
「ファティナこんなに痩せて……」
涙ぐむミラルカの声に反応してファティナはようやく意識を取り戻した。
「ミラルカ、無事だったのですね、よくここまで来れましたね。もうダメかと思いました……」
「しゃべらないでファティナ今お水を飲ませてあげる」
「ありがと」
肩にかけていたバッグから水筒を取り出し、ミラルカはファティナの口元に近づけてそれをゆっくりと飲ませた。
「ファティナの大好きなアールグレイ、冷やして持ってきたから」
紅茶を飲んでアシュレイの姿を確認し、安心しきってファティナはまた眠りについた。生きててよかった……ミラルカは目頭を押さえて涙を止めるのだった。
「おまえをひどい目に遭わせたあの吸血鬼は絶対に俺たちが殺してやる、今は眠れよ!」
ファティナは目を閉じながらゆっくりと頷いた。
「くそっ!どこへ行った」
「私はここですよ」
そうしてエーゼンに牙をむく吸血鬼である。首元をかまれた。力なく膝をついて、血の出る方向へと目をやると、ありえない量の血がどくどくと傷口から噴き出している。ミラルカがすぐに寄って行ってファティナほどじゃないけどといって治癒を試みていた。
「エーゼンお前はもう下がって」
ファルス隊長がそういうと立ち上がり大丈夫ですといってエーゼンは首を抑えながら剣をかまえた。
「霧の魔法を使うのね」
ミラルカがそういうとあはははという笑い声がしてそれが空間中に響いた。
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