52

その荒廃した村にレアデスゴブラーはいた。捕らえられたファティナ姫の様子を見に来たのである。


「ゴブラー様、こんなところに何の用で」


吸血鬼がそう言うと、何、ちょっと顔を見に来たのでなグフフと不気味に笑う一つ目の怪人である。怪人はファティナの顔を見て、随分小柄な少女じゃのうなどと言って笑っていた。


「なんとまがまがしい姿、お前は伝説のレアデスゴブラーですね」


「わしを知っているとはさすがハイランドの皇女……」


「一人で何万人もの兵士の力を持つ大魔道の名はハイランドにも知れ渡っています、お前はこのような雑魚となれ合うような怪物ではないでしょう」


グフフと笑って去っていくゴブラーであった、もうお帰りで?と吸血鬼が聞くと返事もせず去っていく。そして転移魔法で姿を消した怪物である。


「相変わらずのじいさんだ」


吸血鬼はリクライニングチェアに座り、手足を拘束されたファティナ姫の様子をニヤニヤしながら見つめていた。


「殺すなら殺しなさい!」


「強気な姫様だ、私はお前を殺しはしないよ」


「ごめんさないアシュレイ……ごめんなさいみんな……」


空を見つめて悲しく謝った、不思議と涙はでなかった。


それにしてもこの宮殿はどこだろうか、瑠璃や瑪瑙の埋め込まれた壁、乳白色の壁、天井には豪華で優美な壁画が所せましと描かれ、もはや神聖な雰囲気さえ漂うこの空間はなんなのだろう。


「ここは空中の神殿だよファティナ姫」


吸血鬼が唐突に口を開いた。


カナーベルの屋敷ではカードゲームが暇つぶしに行われていた。賭けているのは靴下やハンカチといったしょうもない代物だったがゲームは白熱していた。


「ほう百鬼夜行ゲームですか」


カナーベルがのぞきにくると、あ師匠もやりませんかと言って手札を見せるアシュレイだった。百鬼夜行ゲームとはこの世界に存在する実在する多くの騎士たちをモデルに作らているカードゲームである。


「カナーベル様やルース様あとニナーフォレストなども顔があるわよ」


「私のステータスってどうなってるんです」


「師匠は最強カードです、アルティメットドラゴンクラス」


「ニナーフォレストのカードは強いけど相手が女だったら必ず負けるとか面白い」


「そんな細かい設定あるんですか」


メリッサのカードを見つけその数字になったステータスを何か思うように見つめていたカナーベルである。


「俺もこのカードに登場するような知名度がほしいわ」


そうやってアシュレイがうなだれると間もなくじゃないとミラルカがカードを出す。


「竜騎士団のスネークか、俺のカード単なる魔法カードだった」


「このスネークね、私のお兄ちゃんなの」


勝ったミラルカが少しも笑顔を見せず虚ろな目をしてそう言ったものだからアシュレイはびっくりした。


「まじで?本物の英雄じゃねーかいいなあ」


「……私、兄と折り合いが悪くて猛勉強してクレリアフォルセリアに入ったの、顔を見るのも嫌」


「ええ、兄ちゃんが英雄って自慢じゃね?」


「ううん……」


景品の靴下を受け取ってミラルカは始終悲しそうな顔をしていた。屋敷に訪れたルースがおや百鬼夜行ゲームですか!と笑っていた。


「ルースのステータスあんまり強くねーぞ」


「おもちゃ会社に訴えるレベルでむかつきますね」


「カードに名を連ねるってだけで名誉だわ、あらこのお兄さんもイケメンねミラルカ」


フェルマがそう甘えた声で言うとミラルカはちょっと見てそうねと力なく返事をした。


「ところでルース何か情報は掴めましたか」


「繁華街やスラムなど当たっていたのですがおそらくですけどあまり人の知られていない場所に監禁されているのではないかと思います、まったく我々の知る由もないような場所に」


「となると城の宮廷魔術師などを頼って場所を特定するしかないようですね」


「そのようです、できればクレリアフォルセリアの力が借りたいところですね」


「私ダウジングはできないよ」


ミラルカが靴下をはいて少し機嫌がよくなった。


「シーザの宮廷魔術師団のほうへヘルプをお願いしてもいいですか」


「いいけどろくなことできないよ」


「エレメンツなら大丈夫です」







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