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カナーベルが指輪を返すために村を訪れた時、人々は恐怖で泣き叫びある人は狂っていた。魔物に襲われた無力な人々はこうも疲弊してしまうのかと、カナーベルは苦しい思いをした。指輪は返さないほうがいいかもしれない。村に会った古びた教会に行って事情を話したカナーベルである。
神父はわざわざありがとうございますと言い、泣きながら指輪を受け取った。この村で起きた凄惨な事件については想像に難くなかった、教会の外に出るとついてきていたアシュレイが村の子供と遊んでいる。その様子を見ていてカナーベルの胸中はおだやかになるのであった。
「そこでな!俺がえいやっと切り刻むとあっけなく怪物が沈んで……」
「そこまでですよアシュレイ、さ、帰りましょう」
「こっからいいところなのに!」
「お兄ちゃん、もっとお話し聞かせてよ」
村の子供たちが目を輝かせてアシュレイの話に耳を傾けている、
「やれやれ…」
カナーベルも座ってアシュレイの武勇伝を聞くことにした。相変わらず面白い奴である。途中あははとカナーベルは微笑した。話が終わり、アシュレイは村の子供たちから離れて二人でとぼとぼと疲弊した村を後にした。
「師匠俺は怪物が絶対に許せねえっす」
「お前は感受性の強い子ですね」
「師匠の感受性も多分死んでないっす」
「私が?」
「おそらく……だけど」
「なるほどね」
何がなるほどなのかはよくわからない、いつだって冷静でいつだって冷酷に人を殺してきたカナーベルである、人の心などとうに捨ててしまったと自分では思っていた、でもこうして形見を返しに来た、心に何かが芽生えているのである。
「それならきっとお前のおかげですよアシュレイ」
「へ?」
それだけ言って遠くの空を見つめていたカナーベルである。買ったレモネードを師匠に手渡すとそれをぐびぐび飲み、アシュレイもだだっ広いシーザの空を眺めていた。
「空に綺麗なお姉さんでもいたっすか」
「いましたよ、降りてきます」
竜騎士たちが降りてくると兜を外し、やっと女性たちなのがわかった。
「カナーベル様ごきげんよう、こんな辺鄙な村に何の用で?」
「ちょっと野暮用でしてね」
そこまで言ってはっとする。
「メリッサ……」
これは修羅場だと察したアシュレイが逃げ出そうとすると一緒に居てくださいと言ってカナーベルがマントを掴んだ。
「お久しぶりねカナーベル……」
「元気そうで何よりです」
凍てつくような沈黙が流れている、それからメリッサは続けた。
「あれからいい人は見つかった?」
「私にはいい人なんていりませんから」
「女性なんて吐いて捨てるほどいるし、あなたならすぐに次にお相手が見つかるわ」
カナーベルがぎゅっと拳をにぎりしめ悲しみに耐えていると、メリッサはワイバーンの手綱を掴み空へと急いだ。あれが師匠を振ってニナーフォレストなんかに惚れた女なのか、とアシュレイは遠く消えていくワイバーンに乗った騎士を眺めながら思っていた、金髪の白い肌、もちろん凄い美人だった。おまけに強い。
「あれもシーザが所有する騎士団で、魔物を操るテイマーの一部なのです、随分強くて美しいシーザの誇る竜騎士団」
悲しげにしているカナーベルはその恋をずっと引きずっている様子であった。
たしかにあんな奴に負けるなんて癪にさわるだろうななどと思っていた。
そのメリッサとかいう女ただの馬鹿女ではなさそうである。
どおりで師匠が固執するわけだと変に会って納得してしまった。
「しっかし師匠を振るなんてろくな女じゃないっす、俺なら絶対ニナーフォレストより師匠のほうが好きです!」
「こんなところで愛の告白されても……」
「俺は真剣っすよ!」
「エルキナにいい人がいるくせに」
そこまで言ってやっと笑ったカナーベルである。
「ところで次のターゲットって何ですか」
「まだ連絡が来てません、暫く訓練ですねおや……お前のいいひとも現れたようですよでは私は先に帰ります」
女の子たちの集団がやってきていてミラルカ、ファティナもいるようだった。
アシュレイの姿をみつけアシュレイ!と頬を紅潮させて近寄ってくる。
「なんだお前かー、またここでも除霊しに?」
「そうですの、魔物に襲われた村があると聞き及んで人々のために働く身ですから」
にっこりとして錫杖をつくそのシスターは選ばれた聖女という名前がふさわしい。
教会から神父が出てきてファティナに頭をさげる。ファティナは偉い人なのにちっとも偉そうなそぶりを見せない、世の中には尊敬できるような奴がいっぱいいるんだなとファティナを見ていてもルースを見ていてもカナーベルを見ていてもそう思う。
そんなことを思いながら見ているとミラルカが急に話しかけてきた。
「ねえアシュレイ、あなたって本当は何者なの?」
「俺はただのしがない剣士だよ」
何かを言おうとしてミラルカはそのまま言葉をなくした。
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