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「お父様どこへ行くの」
ちいさな真っ黒な髪の毛の少年が父の軍馬に乗せられ不安を口にした。
「カナーベル、おとなしくしているんだよ」
「いやだ怖い……」
恐怖におののく少年である目の前で死闘が繰り広げられているここは戦場であった。
血なまぐさい異臭が漂い目の前で人の首がはねられていく。
「お父様!」
突然父の姿はなくなり大男が血塗られたなたを持ってカナーベルの前に現れた。
「俺はたくさんの人を殺してきたがお前のことは愛してるよカナーベル……」
大男はそう言ってカナーベルを強く抱きしめた。
「アンサズ……!」
そう叫んで汗ぐっしょりになったカナーベルが自室のベッドで目を覚ましたのは早朝であった。メイドが顔を覗いている。
「悪夢でも見ておられたのですか?」
「いや夢です、幸せな夢」
汗を拭い顔を洗い、メイドがその間にシーツを取り換える。朝食を運んできたメイドもいて二人で簡単に掃除をして去っていく。ずっと胃が悪いカナーベルの朝食は雑炊とハーブティーだけである。ハーブの香りを嗜んだ後、胃薬と一緒にごくりと飲み込む。
「アンサズの夢をみるなんて久しぶりだ……」
もうとっくに死んでしまったが未だにカナーベルの心をつかんで離さない昔の大悪党がいた。
「負ける奴が常に悪いのだ、カナーベル、弱さとは悲しいものだ、さっさと引導を渡してやるのが俺の信条だ」
アンサズは常日頃そう語っていた。捕らえられたまだ年端もいかない少年だったカナーベルにとってアンサズは絶対的な神だった。
「私は……間違ってなどいない……お前ならそういって笑ってくれるでしょうアンサズ」
アンサズは夢の中で微笑んでいた。悪魔のようなアンサズ、そして神のようなアンサズ。
今朝のことを急に思い出していたカナーベルであった。
目の前にいたエーゼンがどうしたぼうっとしてと尋ねると何でもありませんと言って汗を拭った。いよいよオークの巣の討伐である、オークなど醜くて私の視界に入れることさえ汚らわしい等と言ってエーゼンは嫌悪感をあらわにした。
「オークって何?」
アシュレイがフェリクスに聞くと、豚みたいな顔の鬼畜だよとそれだけいって絞ったシャツを着こんでいるアシュレイを観察していた。
「なにもこんな日でなくても」
「オークは飢えているらしい、いつ人里を襲うかわからんのです」
嵐はすさまじく隊員たちの体を横殴りの雨が打っていた。
「ひええ風邪ひくわこれ」
「大丈夫大丈夫」
そう言ってにっこりと微笑むとフェリクスはオークの住処のほうへと目を向けていた。
「オーク程度の雑魚でしたらエーゼンとカナーベルくらいの二人程度でもよかったのでは?」
「いや念のためにね」
ファルス隊長はそう言って吹き飛ばされそうな風の中で号令をかける、軍馬たちはオークの根城のすぐそばまできて見張りのオークとすぐに戦闘になった。
「はっ!」
エーゼンが縦に剣を振り下ろし、オークの体を一刀両断するとぶひいと一言鳴いてオークは床に崩れ落ちた。
自慢の白銀の剣がオークの血で染まったことが気に入らないのかエーゼンは必至で汚い血を拭っている。
「ちっ、なんて不潔な」
アシュレイが死体を観察していると確かに靴を夜中に編んでくれる妖精ではないようだった。
「こいつらは雑魚だけど気を抜かないように」
ファルス隊長がそう言うと隊員たちは黙って頷いた。騒ぎを聞きつけたオークたちの援軍がやってくる、かるく10体はいたが聖騎士団の前には無力である。
ファルス隊長も剣を振るっていた、アシュレイも一体ほど倒した。
「手ごたえのない敵ですねえ」
カナーベルがそう言ってため息をつくと油断は禁物だよとそれだけ言って隊員たちは迷宮の奥深くへと足を運んだ。
「お前アンサズのことを考えていただろう」
突然エーゼンがそう言ったのでカナーベルはぎょっとして後ろを振り返った。
「アンサズはもう死んだ、忘れろ」
それだけ言ってオークの群れに突進していくエーゼンであった。忘れたくても忘れられやしない。あとに続いてカナーベルも突進していく、剣を振るっていれば忘れられることがあった。でもアンサズとのおもいでは強烈にカナーベルの胸の中に残り、オークと戦っている間中アンサズとの懐かしい思い出を思い出していたカナーベルであった。
「お前を愛しているよカナーベル」
父の言葉よりなにより、あの殺人鬼のささやいた愛の言葉はカナーベルの心をとらえて離さなかった。無我夢中で殺しまわっているうちに、洞窟中のオークの群れを一掃してしまったらしいカナーベルである。アシュレイも10匹ほど退治することに成功していて嬉しがっているとあの程度の雑魚を倒したくらいでいきがるななどとエーゼンに言われて殴り合いになっていた。
「こらこら仲間割れは厳禁だよ」
ファルス隊長はにこやかにそう言って二人を止めた。口から血が出ているアシュレイにルースが近寄りハンカチを手渡すといらねーよと投げ返す。
「雑魚ばかりですねリーダー的な存在が見当たらなかったようなのですが」
「うん、ここは根城ではなかったようだね、まだ他にあるのかもしれないね、もう他に残っていないか探してきてね」
はいと言って隊員たちが探し回ると遠くからフェリクスの悲鳴が聞こえた。
オークの群れの一室から人の死体がたくさん発見されたのである、
「やつら飢えて人間を食べていたのか……」
その様子は悲惨で見るのはつらかった。しかしカナーベルは平然と死体の群れを眺めていた。
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