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竜騎士団を見送りに行った日、アシュレイはニナーフォレストの腹を相変わらず殴っていた。観衆は笑っている。カナーベルは複雑な表情をしてその様子を見守っていた。スネークが一言笑いながら言った。
「その人は将来とても偉くなるかもしれない、逆らわないほうがいいぞ」
「は?」
意味が呑み込めずぽかんとしたアシュレイを観衆はまだ笑っていた。ニナーフォレストも笑っている。
「どういうことだかわからないけどお前は絶対に殺すからな!」
はいはいと言って華麗にあしらわれているアシュレイである。それから竜騎士団が去っていく、カナーベルは近くによって、ずいぶん仲がよいのですねと寂しげに聞いた。
「仲がいいわけないっすあいつは俺の永遠の敵です」
そう力説すると力なく笑ってカナーベルは遠ざかる竜騎士団の方角を射抜くような目でじっと見ていた。
「?」
「師匠はまだあいつのこと気になるっすか」
「いいえ、もういいんです……」
そう言いながらも拳をぎゅっと握りしめ、たたずむその様子からして遺恨が残っていることは間違いなかった。
「帰りましょーか師匠俺の家じゃねーけど!」
そうですねとやっと笑顔を見せて帰路につく三人である。出迎えた奥女中は労ってお風呂の準備もお食事の用意もできておりますと一言言ってあたまを下げた。
奥女中は今日は黒のドレスを着ている。似合いますねと一言ルースがいうとまっといっておばさんは表情一つ変えなかった。
「てめーもニナーフォレストとそう変わんねーな」
そうアシュレイが嫌味っぽくいうとルースは一緒しないでくださいと言ってすこし静かになった。それから自室に帰ったアシュレイはまた手紙を辞書を片手に読んでいた。
親愛なるアシュレイへ
有名な騎士様の弟子になったとか、今後の活躍を遠くから期待しています。
またエルキナにも寄ってね。
すっかり文字が読めるようになったのね、頑張り屋さんのアシュレイのことだからきっと騎士になれるわ。
リトルコールティンより。
あの手紙はリトルコールティンがよこしたものであった。達筆すぎて読むのに一苦労したが、さすがリトルコールティンだと感心さえした。俺も頑張らないとな。それだけ言って手紙を机の引き出しにしまって趣味のいいモノクロのベッドカバーのついたベッドに横たわり辞書を片手に勉強し始めるアシュレイである。
「アシュレイ様お風呂ですよ」
いつの間にか眠っていたらしいアシュレイが呼ばれたのは8時を過ぎてからだった。
それから風呂にし、食卓を囲むとカナーベルがまたサラダだけしかたべずにハーブを飲んでいる。ルースとアシュレイは競うように食卓に並べられたご馳走を平らげている。
「お前たちどこに入るんですあの食糧」
「私の胃袋は宇宙とつながっているのです」
「俺はいくら食ってもすぐ出るから!」
などと呆れたことを言いながら山盛りの肉とワインを胃に流し込む二人である。
アシュレイはノンアルコールビールであった。飲めるのになと残念がったがここの使用人たちは厳しい。
「ちょっと待て、ルースも未成年だろ」
「私は特別なのです」
ひいきだ差別だなどとわめくと静かになさいとメイドに怒られる。
その様子を見て急にカナーベルが笑い出した。
「どうしたっすか急に気でも触れたっすか」
「いいえ、なんだかおかしくて……」
出た涙をナプキンで拭うカナーベルである。なにがそんなにおかしかったですかねえなどととぼけたことをいってルースがまたパンを口に運んでいる。
「そうだ、ファルス隊長から伝言があったのです、明日からまた討伐が始まるそうです、今度はオークの群れ、雑魚ですがくれぐれもとの話です」
「オークねえ、人里を襲っているというわけではない?」
「詳しくは聞いていません」
「オークって夜中靴とか縫ってくれる妖精?」
「それ別の奴ですよ」
三人はそれぞれ自室に帰り、オークって妖精じゃなかったかなあ等と言ってるアシュレイはそのモンスターがどんなに凶悪で醜悪なのかを知らなかった。
寝て起きたらまた討伐が始まる、アシュレイは王に片膝をついて騎士になる夢を見ながら、ごうごうと唸るような風の音を子守唄に眠りについた。
嵐がやってくる、7人がそろった時外は嵐で打つような雨の中で目を開けられない状態であった。
「隊長別の日にしますか」
「いや。いつ人里を襲うかわからないんだ」
びっしょり濡れたアシュレイの服はぴったりと肌に張り付いている。脱いで絞っているとフェリクスが近づいてきた。
「ふーん、傷一つついてないね」
「俺がそんじょそこらのやつにやられるもんか」
あははと笑ってフェリクスはその場をあとにした。聖騎士団と合流するのはこれで何度目だろう、エーゼンが足手まといになるなよと嫌味を言ってカナーベルと談笑している、
「では行きましょう!」
隊長の号令で軍馬たちはオークの巣へと向かっていった。
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