43
いよいよ竜騎士団と聖騎士団とのタッグで吸血鬼を追い込む日がやってきた。
あの日軽装ですぐさまリタイアしたアシュレイは今日は少しは甲冑を着込んでいた。
「お、おまえ七五三みたいだな!」
などとニナーフォレストに言われて腹にパンチを入れているとまあまあと言って白い騎士が宥めにやってくる。
「ではレノン村に向かいましょう!」
ファルス隊長の号令で聖騎士団六人と竜騎士団の15人が軍馬を走らせる。レノン村はここから約15キロほど離れた人里離れた村である、入った途端異臭がして、やはりここもやれられているようであった。
ゾンビにされた村人が襲い掛かってくる、それぞれが持っている銀の剣で一網打尽にすると、さらさらと灰になり、床に零れ落ちていく。村の散策途中白騎士が家を荒らしているとスネークから金目のものなんかないぞと注意された白騎士である。あのおっさんは相変わらずのようである。
「血の匂い……」
カナーベルがアシュレイを連れて奥の教会へと急いだ。そこには高貴に微笑む貴公子がいて、真っ青な肌色、豪華な金髪、そして立派な牙を持っていた。
「おや聖騎士団の皆さんではありませんか、随分久しぶりですねもうここの村人は誰一人として生きちゃいませんよ」
ケラケラ笑って吸血鬼はマントを翻した、その瞬間蝙蝠に化けて襲い掛かってくる。
「この野郎!」
アシュレイが剣で蝙蝠の群れに突撃すると雲散霧消し、また遠くの空中で元のすがたを現す吸血鬼である。
「カナーベル!」
援軍が押し寄せる、狭い教会はあっという間に人だかりになった。
「私を倒そうなどとは笑止千万!」
吸血鬼は再び蝙蝠に化け、次々と騎士たちを襲う。アシュレイの目にひときわ大きな蝙蝠のすがたが映っていた、
「そこだ!」
そこに銀の剣で縦に斬りこみを入れると叫び声を一声上げて再びもとの姿を現す吸血鬼である。
「いきますよお前たち!」
号令が発せられ、騎士たちの攻撃が吸血鬼に次々とくわえられていく、エーゼンが畳みかけるように剣で殴り、フェリクスが斬りこみを入れる、ニナーフォレストが縦に切って他の騎士たちも後に続いた。
「ぬおおお……」
吸血鬼はぐったりとした様子で変化した。
「くそ!また逃げるのか!そうはさせんぞ!」
カナーベルが弱った蝙蝠を掴んで捕らえ、てこずらせたなとそれだけを言い、蝙蝠の首をはねた。首はごろりと床に沈み、生首となった吸血鬼の姿を一瞬表すと、さらさらと砂になって土に帰っていった。
「やれやれ一件落着ですね皆さんご協力ありがとうございました」
ファルス隊長が汗を拭い笑いかけると、こんなことでよかったらいつでも呼んでくださいとだけ言って竜騎士団はその場で解散した。
「隊長、吸血鬼は今のところこの一体だけですか」
エーゼンが聞くと、そうだねとすこし考えていた。
「吸血鬼は仲間を作るからね、まだいるかもしれない」
砂になった場所をアシュレイがじっと観察していると、カナーベルがそばに寄ってきて一緒に眺めていた。先生はあんなことを言っていたがアシュレイの目にはカナーベルの剣が迷っているようにはとても見えなかった。きっとなんらかの気のせいだ。その時はそう思っていた。
しかしファルス隊長はカナーベルを呼び止め、何か迷っているの?と聞いていた。
「私の剣に何か?」
「いやいつもと少し違う気がしてね」
「彼女と一緒だったからかもしれないけど、迷いは命取りだよ、これからもずっとこれより強い敵が出る」
複雑な表情を一瞬してカナーベルはじっと灰になった床を眺めていた。こぶしを握り締め、肩を震わせていた。心当たりがあるのかもしれない。
「さてと残った村のゾンビたちでも掃除にいきますか!」
軽快に笑ってファルス隊長たちが教会から出て掃除へと急いだ。
おそらくこの村にもファティナ達が来て除霊にやってくるのであろう。
「こんだけ強い師匠が負けるはずなんかないっす、俺はあんたの強さを見込んでついてきたんだ、あっさり負けてもらっては困るっす」
「そうですねアシュレイ……」
震える肩は相変わらずであった。剣の腕に覚えのある者たちが迷っていると指摘しているカナーベルの剣は今のアシュレイの目には別段変わったところがあるようには見えなかった。
「アンサズ……!」
独り言をつぶやいたのが聞こえた。耳のよいアシュレイにやっと届くかどうかわからないか細い声であった。
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