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アシュレイが竜騎士団について知っていることはそんなに多くはなかった、リーダーのスネーク、活発で発言力があり、時に少年のような子供っぽさを見せる青年である、みんなからお姉さまと呼ばれているリアゼハロールは年齢不詳の美人である。そしてニナーフォレスト、こいつは大変な女好きの変態である。それから白い鎧に身を包む名前がわからない守銭奴のおじさん。残りのメンバーは顔と名前が一致せずよくわからなかった。聖騎士団のほうも半分程度しか顔を見ておらず、仲良くしてくれたフェリクス、感じの悪いエーゼン、いつも元気いっぱいのルース、暗くて怖いカナーベルを知っている程度である、覚えきれる気がしなかった。


「ルース兄さんはいつどこで情報を仕入れてくるんすか」


情報網が発達しているこの騎士の仕入れ先がずっと気になっていたアシュレイである。そういえばカナーベルの居場所を知るには町娘に居所を聞くのが一番だと言っていた。


「おや気になりますか、では一緒に行ってみましょうか」


あっさりとルースがそう言って軍馬に乗せてアシュレイを繁華街のほうへと足を延ばすルースである。


「大体情報というのは夜の街や裏道に集まってくるものなのです」


そう言って平然と裏通りに入っていくルースである、客引きのお姉さんたちがいっぱいいる路地裏にはアシュレイは滅多に近づかなかった。


「どうだい坊や一晩」


急にお姉さんから声をかけられたアシュレイはブス!だの言って逃げ出してしまった。その様子を見ていたルースが笑い転げている。


「あんたこんないかがわしいところで情報仕入れてたのかよ!」


「裏通りの住人は、思いもよらない情報を持っているものなのです」


さっそく裸同然の格好をした娼婦にルースが腰を引き寄せ声をかける。


「おやお兄さんが相手かい?」


「残念ながら私は情報が欲しいだけです、金貨ははずむので知っている情報を教えてほしいのですが?」


「あたしが昨日相手した兵士が最近物騒な噂を聞いたって言ってたけど」


「物騒な噂?」


「レノン地方のほうで次々と少女が行方不明になっているそうだよ、おそらく聖騎士団が取り逃がした吸血鬼の仕業だろうって話さ」


「なるほどありがとう、お礼の金貨ですよ」


そう言ってルースが取り出した金貨は日本円で言うと大体一万五千円くらいの価値のあるコインである。


「こんなに……あんたいい人だね」


「まさか」


ルースが含んだ笑顔を見せてその路地裏を立ち去る。お姉さんはいつまでも手を振っていた。


「レノン地方か、意外と遠い」


「ひええ、あんたこんなところでよく平気だなあ俺は身震いがするわ」


「情報収集するくらいしか取り柄ないですからね」


十分強いのに不思議なことをいうものだとアシュレイはその時はそう思った。


「我が国もあんなスラム街があちこちにあって貧しくなったものです、エルキナにはあまりないでしょう」


「ああ、うちの国は女王陛下が治めてるからああいった乱れた奴らは一網打尽にしてしまったよ」


「素晴らしい主君ですね」


「どうなのかな、食えなくなった奴もいっぱいいたとか聞いた」


たしかにエルキナの女王陛下は素晴らしい人である。複雑な表情を一瞬してルースは遠くの空を見上げていた。では情報も集まったことですし帰りますかと笑顔を見せた。帰るのはカナーベルの屋敷である、帰還した騎士たちを待っていたのは奥女中である。


「まあまあご無事でなにより」


労いの言葉をかけるとありがとうといってタオルを受け取って汗を拭うルースである。


「香水の香りがしますわね」


スラム街にいる娼婦たちは皆どぎつい香水を耳の裏と手首に振っている、風呂に入りますとそれだけ言ってルースはカナーベルのすがたを探した。

カナーベルはリビングで新聞を読んでいた。


「どうです情報は集まりましたか」


「ばっちりです、どうやらレノン地方のほうで騒ぎがある模様、間違いないでしょう」


「レノン地方?随分遠い……」


「吸血鬼の飛行能力です、そこまで遠くてもまず間違いないでしょう」


「お前女の香りがしますね」


勘の鋭いカナーベルにすぐさま見抜かれルースは風呂にダッシュで向かった。


「師匠俺は?」


「おまえはいつものおひさまの香りがしますよ」


よかったと一言言ってアシュレイもすぐさま風呂に向かおうとする、ここではディナーの前に風呂をすませておくのだ。


「アシュレイそういえばハイランドのファティナ姫とは懇意にしてましたよね」


「そうだけどあいつがなにか?」


「今度巡礼に来るそうです、それでアシュレイがいると噂を聞いてうちにも立ち寄ることになるとか」


「へえそうなんだ、ファティナ達随分あってないけど元気にしてるかなあ」


「きっと元気にしてますよ」


そういってアシュレイに手紙を渡すカナーベルである。アシュレイはリトルコールティンに字を習うまで文字が読めなかった、その手紙をポケットにくしゃくしゃにしてアシュレイは風呂に向かった。

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