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竜騎士団との合流が始まったのはカナーベルが王都に召喚されて間もなくのことだった、カナーベルは陛下からくれぐれもと頼まれただけで大した用事ではなかったと言っていたが表情は曇っていた。ニナーフォレストにまた出会うことが陰鬱な気持ちにさせていたのである。聖騎士団はまだ全員揃っていない、その中でエルキナの竜騎士団達と合流した。


「あ!お前アシュレイじゃないか!なんでシーザに?」


アシュレイのすがたを見つけたニナーフォレストが相変わらずの美貌を顔面に貼り付けて寄ってくる。


「てめえ性懲りもなく生きてやがったのか戦争で死ねばよかったのに」


その言葉を聞いてニナーフォレストはケラケラ笑い出した。


「俺は聖騎士団のカナーベルの弟子になったんだよ、それでシーザまで来た」


「お前が弟子?あんだけ誰かに何かを習うのを嫌ってたお前が?」


「昔の話だ、お前は絶対殺す」


恋のライバルのニナーフォレストを許すはずがないアシュレイである。


「つーか!お前女だったんだな!師匠から聞いたぞ!」


「そうだよ、でも限りなく女性たちに愛を注ぐ男でも女でもない存在……」


恍惚としてまた何かおかしなことを語りだすニナーフォレストである。苦々しい表情をしてカナーベルはニナーフォレストの方向を睨みつけていた。それから馬車からスネークが降りてきてファルス隊長と話し合いに臨んでいた。


「ファルス隊長久しぶりだな」


「いやいやエルキナ竜騎士団を動かしてもらうなんて情けないことだよまったく、こちらだけでは歯が立たなくてね、犠牲が出る前にさっさと一緒に退治してもらいたいのだけど」


「まあ一旦アデッソの治安のほうは落ち着いた感じだな、もともとが治安が悪いうえに無政府状態が続いて大変だった、吸血鬼とは戦い慣れてないが大丈夫かどうか……」


「これで鬼に金棒だよ、魔物との戦い方は武器が違うくらい、いつも魔法使いと戦っている君らなら大丈夫」


にこやかにファルス隊長がそう語るとスネークは腕を組んで何か考えていたらしかった。


「残念だったな男ばかりで」


厭味ったらしくアシュレイがそう言うとニナーフォレストは周りを見回しため息をひとつついた。


「むさ苦しいったらありゃしない、ヴォルナーチスの女王騎士団と一緒だったらどんなに良かったか」


「相変わらずだなお前」


「お前もな」


それだけ言って軽快に笑って付近を散歩にいったニナーフォレストである。

カナーベルは何か思うようにニナーフォレストの方向を見つめていた。


「あいつは心底病気だな」


「ずいぶん仲がいいんですね」


カナーベルは悲しげな表情をしてアシュレイの傍に寄った。


「はあ?全然仲なんかよくねーよあいつは俺の敵だ」


一瞬寂しげな表情をして始終悲しげにしていたカナーベルである、おそらくニナーフォレストにとってはメリッサなんて女は星の数ほどいる多くの女の中の一人にすぎないのだろう、アシュレイはスキップしながら散歩に行ったニナーフォレストの方向を睨みつけ、あいつに恨みがある同志、初めてカナーベルとリンクした気がしていた。


「メリッサはろくな女じゃねーわ」


聖騎士団の誰かがカナーベルにそう言うとそうですねと一言返事をしてまた寂しげな表情をしていた、カナーベルは始終暗かった。もともと暗くて不気味な雰囲気を持つカナーベルはよりいっそう漆黒に包まれていた。


「俺もメリッサがどんないい女か知らないけど師匠よりあいつのほうがいいなんて絶対おかしいと思うっす!」


そう言いながらやっぱりリトルコールティンも自分よりあいつのほうがよかったのを思い出すアシュレイである。軟派者で顔がよく少々身長があるだけのあいつの何がいいんだ。そう思って始終憤っていたアシュレイである。


それを聞いて少し笑ったカナーベルである、少しは雰囲気が明るくなった。


「で、その吸血鬼とやらは今どこに潜伏しているんだ?」


竜騎士団の隊長であるスネークが短髪をかきあげ聞くと、実は困ったことにまだ行方がしれないということをファルス隊長が伝えた。


「なるほど俺らはまずそいつの行方を追わなければならないのだな」


「そういうことなんだ」


悔し紛れにファルス隊長は遠くの空を見上げた。


「そっか、まだ行方がわかってないのか」


「ルースも随分調査に行ったようなのですがあいつがわからないとなるともう取り逃がしたか、それともどこか山奥に潜伏しているかそれくらいしか考えられません」


カナーベルが少し笑顔を取り戻した顔で、アシュレイに話しかけるとアシュレイはほっとしてその様子を観察していた。それからすぐにスキップしながらニナーフォレストが戻ってきてアシュレイは修羅場を予感していた。

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