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フェリクスと名乗った少年と仲良くなり、昼食の時も隣に座った。食べている時もエーゼンはアシュレイを睨みつけている。イライラしたアシュレイが椅子をガンっと蹴ると、エーゼンは不敵な笑みを浮かべ、ずっと冷笑的だった。


「兄は悪い人じゃないんだけど君に文句があるみたいだね、きっとカナーベルと仲良しだからだよ」


「は?あれお前の兄ちゃんなの」


「そうなんだ兄弟で聖騎士団、大分性格が違うから反りがあわないんだけどね」


フェリクスがニコニコしながらそう言うと、兄弟でも大分違ってるなと感想を漏らし、フェリクスが軽快に笑う。


「君ってヴィンランドスレイで優勝したんだろ、どれくらい強い?」


「ここのお館様はエルキナ一の剣豪だって言ってくれたけど」


「僕もシーザじゃ名が売れた騎士だ、あとで手合わせしてもらってもいい?」


「もちろん」


やったと喜ぶフェリクスは金髪の髪の毛を束ね、剣を鞘から引き抜いてそれを眺めている。他の聖騎士団の連中は外にある訓練場にぞろぞろと行き、鍛錬をしている。

フェリクスとアシュレイは屋内にある訓練場でメイドを引き連れやってきていた。


「殺さないでね」


フェリクスが冗談めいてそんなことを言うと俺は師匠とは違うよと一言いって和やかな空気が一瞬流れた。しかし急にフェリクスが真剣で斬りかかってくる。うわっと言ってアシュレイが剣ではじき返すと、後ろに下がり、なかなかやるねと一言フェリクスが発した。フェリクスの剣先は鋭く、はらはらしながらメイドがその様子を見守っている、こいつは師匠かそれ以上かもしれねえ。そんな感想を手合わせで抱いたアシュレイである、あっという間に後ろに回り込まれ、首元にまで剣先が伸びて、手合わせを始めて5分足らずで、負けたアシュレイである。


「おまえそんな女の子みたいななりでつええな」


「僕に女の子みたいっていうのは禁止」


それでもフェリクスは怒ってはいなかった、やはり師匠と同じように汗一つかいていない、聖騎士団に入るにはよほどの腕前がないと無理なんだとそれだけ言ってメイドから乾いたタオルを受け取って、汗はかいていないが脇などを拭いている。


「僕らはいつも魔物と戦ってるからね、エルキナには魔物なんか出ないんだろ」


「クレリアフォルセリアからはしょっちゅう魔物が逃げてるみたいだけどなあ」


「大丈夫なのクレリアフォルセリアって」


「わかんね、なんといってもクロード王子のやることだしなあ」


クロードの名を聞いた途端一瞬表情がこわばったフェリクスである、それからすぐに笑顔をとりもどしていた。


「今度の敵は吸血鬼だよアシュレイ、きっと一緒に行くことになると思う、結構やばい敵だから」


フェリクスはそう言って剣を鞘に納めた。にんにくでも持っていくのなどと聞くと笑ってみんなと合流しようといって立ち去って行ったフェリクスだった。


訓練場にいた全員がアシュレイの登場に目をやる、エーゼンは相変わらず睨みつけている。隊長が近寄っていってやあアシュレイと声をかけた。


「次の敵って吸血鬼なんでしょ、俺も是非参加したいっす」


「君、魔物の怖さをあまり知らないね?カナーベルと同じくらい強い6人が集まって勝てるか勝てないかくらいのこわーいモンスターだよ、でも社会勉強にはなるかもね、シーザにはこんな敵がわんさかいるんだよ」


隊長は遠くの空を見上げ、それからアシュレイの方向を見下ろした。シルバーの剣を持ってきてアシュレイに渡した。


「吸血鬼には銀しか効果がない、今のうちに慣れておくといいですね」


重たい銀の剣を持たされて、果たしてこれで戦えるのか疑問が残った。


「アシュレイ様、私と手合わせしましょう」


一緒に居たルースがヘルプを出してくれる。銀の剣の手ごたえを感じながらルースと戦闘を始める、銀の剣の重さをものともしない身軽さで、アシュレイに斬りかかってくるルースもかなりの手練れだ、手加減をしているようであまり真剣には斬りかかってこなかった。30分ほど斬りあいがあってそれから剣を鞘に納めルースが後ろに下がる。


「お疲れさまでした」


「お前!手加減するなよ!」


「明日のこともありますので負傷者など出すわけにはいきません、我々は明日には出発します、準備を整えてくださいね」


それだけ言って他のメンバーと一緒に藁の人形相手に斬りこみを開始したルースである、あいつも早起きで元気で迷惑なだけではない、少し見直したアシュレイである。

それからしばらく次々とメンバーたちがアシュレイに剣のてほどきを教えに来てくれる、あのエーゼンとかいう奴以外は親切なやつらである。エーゼンはそっぽを向いて、それからしばらくの間、一言も口を聞かなかった。


「まあまあ仲良くね」


隊長が注意を向けるとエーゼンは頷きもせず、さっさと館のほうへと行ってしまった、やれやれと隊長がため息をつき、訓練が終わるころには烏が鳴いていた。



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