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「おはようございますアシュレイ様」


恭しく頭を下げたメイドが朝早くアシュレイを起こす、ここの屋敷のメイドは結構怖い、そそくさと頭の髪の毛をとかし、顔を洗い歯磨きをする、そして運ばれてきた朝食に手を付け、また歯磨きをして一息ついていた。一人で過ごすには広すぎるそのゲストルームには天井からモスキートネットがかかっていて、大きなダブルベッド、一松模様の白黒のベッドカバーそれからベランダの近くには大きな漆黒のベロアのソファとテカテカのコーヒーテーブル、真っ赤な絨毯の敷いてあるフロアには金庫や本棚といったものがあり、金庫に入れるような大金を所持していないアシュレイはただいたずらにダイヤルを回したり、あまり読む気もない難しい本などをたまに読んでみるのだった。


「アシュレイ様ハーブティーでございます」


ノックもせずに入ってきたメイドがコーヒーテーブルの上に茶を注ぐとそそくさと行ってしまった。それをがぶがぶと飲み、茶菓子などに手を付けると大きな備え付けの柱時計が11時の鐘を鳴らした。ベランダに出ると誰も訓練場に来ていない、その時初めて雨なのを知った。小降りだがしっかりと降っている、


「ああ、それで中止なのか……」


やがて昼飯時になり、ダイニングに呼ばれると、ルースがいない。


「あの、ルース兄さんは?」


「あいつは聖騎士団の仕事で出かけています、夕方には帰ってくるでしょう」


野菜ジュースを飲みながら広いダイニングに二人きりの昼食、人のことを言えた義理ではないがあの元気な兄さんがいないと少し寂しい。食欲がないと言いながら三人前はペロリと食べきったアシュレイは師匠の真似をしてハーブを飲んでいた。


「これカモミールっすか?」


「ペパーミントも少し入ってますがカモミールですよ」


どっちにしろハーブが不味いのは変わりない、強引に胃に流し込んでふうとため息をついて、今日は休みですかなどとカナーベルに聞いていた。


「ぬかるみができてこんな日は出陣すべきできではないでしょう、あいつは雨だろうが夜だろうが気にしないらしいですけどね」


ハーブティーを啜りながらカナーベルがアシュレイに視線を合わせる


「暇ですね、屋敷の訓練場で一戦交えませんか」


「してもいいけど殺さないでくださいよ」


「保障はできかねますね」


カナーベルがにやりと笑った、最初に出会った頃のような凍てついた表情をしているとアシュレイは思った。長い長い回廊の先にある古ぼけた訓練場は屋敷の隅にある、

そこで木刀に持ち替え、カナーベルと打ち込みを開始していた。


「ぜえぜえ……師匠はほとんど食べないのにどこにそんなパワーがあるんですか」


もう打ち合いが始まって15分は経過している、汗一つかかず、平気な顔をしてアシュレイを見下げているカナーベルは木刀を振り回し、答える気もなくさらに切りかかってくる、相変わらず戦闘になると目の色の変わる相手だ。防御するだけで精一杯のアシュレイは汗だくだくになって手からも汗が吹き出し木刀がすべる。切り込みが始まって一時間ほどたったころ、アシュレイの手元から木刀が滑り落ちて、ぺたりと座り込む。


「もうおしまいですか?」


カナーベルが慈悲ない声で平然とした様子でアシュレイに投げかける。


「いやまだまだ!」


アシュレイが手元にあった木刀を拾ってさらに打ち合おうとするが、手元からするりと木刀がすべってすっかりうなだれてしまった。


「おしまいですね。お前やっぱりスジがいい」


「師匠はやっぱり化け物なんすね」


「誉め言葉です」


不気味ににやりと微笑んで、木刀をしまうとメイドがタオルや水分を持って待っていて、それで汗をぬぐい、水分を補給してアシュレイの方向を見た。


「もっと強くなることですね」


ふふふと笑ってカナーベルはその場を立ち去った。やっぱりあいつは今まであったどんな剣士よりすごい。強さの秘密はまだ盗めずにいたアシュレイである、やっぱり才能からして違うのだろうか。いや多分そんなことじゃない、何かはあるはずだ、何かは。そんなことを思いながらアシュレイは自室へ帰って汗だくのシャツを着替え夕方の飯と風呂に備えていた。手をじっと見ると豆ができている。最近手の皮が随分厚くなったような気がしていた。夕方になるとルースが戻ってきていて、何やら慌ただしい様子であった。


「隊長からの命令で雑魚モンスターですがゴブリンの巣を一掃することになりそうです」

「ゴブリンか、私たちがわざわざ出向くまでもなさそうですが?」


「理由はわかりません、おそらくチャンピオンがロードが率いているのではないかと」


「ではシャーマンもいますね、備えなくては」


そんな会話がなされている中でモンスターのことはまるでわからないアシュレイはただ飯を喰らっていた。


「そういえば隊長がこれをカナーベル様にと」


何やら書類を渡すルースはケラケラ笑っていたのでむむっとしてカナーベルは書類に目を通した。魅惑のぴっちぴっちボディ15歳の歌姫エリザのビキニと書いてあるグラビアがあった。


「今度はこの女ですか」


「隊長の好みってよくわかりませんよね」


「……いりません、アシュレイお前いりますこれ?」


「うわ!なんすかこれ!つかこの女オペラ歌手じゃないですか脱いだんですか」


「歌手?そうなのですか?」


「こいつ俺と同じ……」


「同じ?」


「あ、いや宮廷で見かけたことあるだけっす!」


慌ててフォローするもカナーベル達がそこまで踏み入ってこないので安心していたアシュレイである。こいつが脱ぐなんて世も末だなと思いながら。

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