アルバートカルナバール
「うう、食いすぎた……」
昨日調子に乗って食べすぎたアシュレイは珍しく腹を壊していた、シーツを替えにやってきたメイドにどうせおなかを出して寝ていたのでしょうと叱責されてアシュレイは腹と神経がまいってしまっていた。カナーベルが呆れてハーブをくれたがそれを今日はおとなしく飲んで寝ていた。
「普段うるさい奴がおとなしいと何か違和感を感じますね」
ルースが笑い転げながら寝ているアシュレイの顔を覗き込んだ。眠りこけながら覚えていろと言うとそのまますやすや寝始めた。
「腹の具合はどうかね」
「お館様!」
突然の来訪者である、今日は休みだったらしいこの国の将軍がアシュレイの様子を見に来ていた。
「聖騎士団以外で初めてカナーベルが連れてきた友人だ、心配になってね」
「あいつは元気いっぱいです父上、おとなしいのは腹を壊したときくらいです」
そうきっぱりとカナーベルが言うとはははと笑って将軍はそばにあった芙蓉の花をひとつまみし、アシュレイの病室へと持っていった。芙蓉の花から香る匂いが部屋中に立ち込めると、部屋は一転して雰囲気を変え雨の上がった庭のような爽やかさを放っていた。
「ん、なんだろこの匂い……」
アシュレイがゆっくり目を覚まし、起きた頃には誰もいなくなっていて、ベランダに出ると将軍とルースとカナーベルでやはり素振りの稽古をしているのが見えた。
「俺も……!」
そう言いかけたが腹がぐるぐると鳴っている。すごすごと部屋へ引き返しダブルベッドの上でうーんと背伸びをしてみるのだった。
「あの子は何者だねカナーベル」
素振りをしていた手を一旦止めて、将軍が息子に語りかける。
「さあ、あいつのことはよく知りません、ただ昔宮廷で兵士をやっていたとしか」
「兵士として雇われるには若干小柄すぎやしないかね」
「言われてみればたしかに、でもあいつにもいろいろ事情があるのでしょう、私は深入りするつもりはありませんよ」
「でも友人なのだろう」
「友人……友人……か」
厳密にいえば友人とは違う間柄ではあるがあいつとは付き合いが長い、友人と言っても差し支えないかもしれない。少し何と返事しようか迷っていると将軍は何かを察してそれ以上何も言わなかった。
「お前もメリッサ嬢とのことですこしへこんでいると思っていたから元気そうで安心したよ」
「う……」
「お、お館様!日が暮れます!」
慌てて爆弾から遠ざけようとルースがフォローすると、カナーベルの目には暗い影がすでに落ちていた。
「おや昼めしも食べずにすまなかったな、もう烏が鳴いている……小ガラスも親の懐で寝る時間だ、ではここまで」
「はあやっと飯だ」
ルースが疲れ切って剣を落とし。地べたに座り込むと、ふさぎ込んだカナーベルが顔を隠し、体育座りをして肩を震わせていた。やはりメリッサ嬢とのことは地雷だと確信したルースである。
「あ、カナーベル様!虹が!」
快晴の空に架かる虹を発見したルースがせわしない様子でそう言うと、カナーベルはようやく顔を傾けた。
「虹ですね……綺麗……」
「聞いているか二人とも、魔物を統べるアルバートカルバナールに変化があったらしい」
「なんですって……」
「アルバートはとっくにエルキナの支配下にあるはずですが?」
「エルキナの支配下においても影響は計り知れない、奴らは大魔導士だ、このシーザに続々と魔物が押し寄せるだろう、カナーベルやってくれるな」
「もちろん……」
「それでこそ我が息子だ、さあ夕飯にしよう、まずこの汗を流そうではないか」
屈託なく笑って将軍は遠くの虹を見つめていた。やはり魔物の様子がおかしいと感じたのは気のせいではなかったようだ。それから風呂にし、汗を流した後がらんとした様子の食卓に並べられたチキンやサンドイッチや野菜ジュースをルースが口にしていると、また野菜しか食べないカナーベルがシーザードレッシングを大量にかけてそれをしずしずと食べていた。
「カナーベルお前、菜食主義にでもなったのか」
「いえ、最近胃がわるくて……」
そう言って野菜ジュースでまたハーブを胃に流し込む。
「カナーベルいかんぞ肉を食え肉を」
「タンパク質はとらないと、鍛えたあとですし」
ぷいっとそっぽを向いてカナーベルはハーブティーをメイドの一人に入れてもらいそれをひたすら飲んでいる。
「医者にでもかかるか?」
「ご心配なくいつものことです」
「そういえばあの子はどうしているかね?」
「今頃夕飯にケチでもつけているでしょう」
真っ白なテーブルクロスに施された綺麗なレースの細やかな模様に見とれていると運ばれてきた粥にアシュレイは驚いていた。
「なんでこれだけなんだよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます