シーザへ
「準備はできましたかアシュレイ」
「ああ、俺はいつだって準備は万端だ!」
新調したての鎧と昔ニナーフォレストからもらった剣を腰に差し、鏡の前でポーズを取ったアシュレイである、なかなか決まってる。
そう思っていたが後ろから映り込んだカナーベルとの違いに愕然としたアシュレイである、
「俺だってもっと背が伸びれば見劣りなんかしないんだからな!」
「は?何を怒っているのです、さあルースが待っていますよ」
王宮の外には馬を2頭用意したルースが待っている、見送りにリトルコールティンが来ていた。
「アシュレイ、元気でね」
そういってにっこりと微笑むリトルコールティンの表情はいつもと変わらなかった。
「俺は約束は守るぞ、だから今度こそ忘れるなよ」
それだけ言ってルースの前にちょこんと座り、エルキナの王都を後にする三人である、
「やっぱり何か忘れているのかな、私は記憶力悪いほうじゃないんだけど」
「あのさ、リトル」
そばにいたミラルカが切り出した。
「アシュレイのことさ、ルヴァたちが絶対に見たことがある気がするって言うんだよね、何をやってたやつなのか知らない?」
「ううん、アシュレイのことは私何も知らなくて」
「そっかリトルも何も知らないのね、私ちょっと調べてみる」
「いいよミラルカ」
そう言い返す前にミラルカは行ってしまった、遠くになるアシュレイたちの背中を遠くから目で追いつつリトルは手を振り続けていた。
いよいよエルキナから脱出する時がやってきた、エルキナとシーザは国交を結んだ間柄である、ビザなど必要ない。簡単に潜り抜け、いよいよシーザの大地を踏みしめた。
「おお!シーザの大地よ!私は帰ってきた!」
「初めて来た癖に何いってる」
ルースの馬からちょこんと飛び降り、大地を踏みしめるアシュレイである、
「ああ、巡りめく冒険の日々が俺を待っている!」
「バカなことを言ってないでさっさと行きますよ」
「行くってどこへ?」
「私の家です」
カナーベルがそこまでいって天を見上げるとワイバーンが飛んでいる。
「ワイバーンか、襲ってくる様子はないようですね捨ておきましょうか」
ルースの様子をちらと見るとルースは訝し気にその様子をまぶしく観察していた、
「どうやら害をなす様子ではないですね、それにしてもいつもより慌ただしいような何かあったのかもしれませんね」
そういって何かわけのわからないことを言っているアシュレイを膝に乗せ、ルースたちはカナーベルの屋敷へと道を急いだ。
壮大な大理石でできた門をくぐり抜け、ルースがささやいた。
「すでにここからカナーベル様の自宅の庭です、ここからまだまだ庭が続きます」
「はあ?」
想像を絶する金持ちだ、やっぱりついてきてよかった!アシュレイは思わずガッツポーズをした。
エルキナの王宮ほどではないが贅沢な装飾のあしらわれた柱のそばに大勢の使用人たちが並んで待っている。カナーベルの姿を見つけ恭しく頭をさげた。
「まあカナーベルすっかり大人びて!」
奥から出てきた奥女中がカナーベルの頭をこねくりまわすとよしてくれと言って笑った。いつも穏やかな師匠だったがいつにもまして今日は穏かである。
「まあルース様あなたも一緒だったのですね、あなたがいれば安心ですわ」
「あの、お館様はどちらに?」
「今日は晩餐会か何かにおでかけでいらっしゃいませんわ、カナーベル様いつでもあなたのことを気にかけている私どものこと忘れないでくださいませ、いつだって生還するのをまっているのですから」
「ありがとう」
カナーベルはふっと糸が切れたように表情を崩した。そのまま倒れこんだのである。
「カナーベル様!」
周囲がわらわらと駆け込んでくる中、アシュレイはその様子に気づかずにこの屋敷の豪華さに圧倒されていた。倒れこんだカナーベルを抱きかかえルースが寝室に運んで行った。
アシュレイは質素なエルキナの王室とはずいぶん違うこの国の豊かさに驚いていた。
真っ白な床材、大理石の壁、細やかな装飾の豪華さは、その飾りが金でできているせいである。以前いたレアデスの宮殿も豪華だと思ったが、ここはそれ以上だ。おいてある装飾品や芸術品も品がよく、この館の持ち主の趣味の良さを感じさせる。かけてある絵画は流行の絵師によるものだろう、それから美しい女性の油絵がかけてあるのを確認していた。
下がった眉毛、憂いを帯びた黒い大きな瞳、たおやかな黒髪。
「師匠……?」
「それはカナーベル様の亡きお母さまの肖像ですわ」
後ろからすかさず奥女中がアシュレイに話しかける。亡きお母さま……
師匠には母親はいなかったのか、屋敷を見学して回っていたアシュレイは過去の宮殿暮らしのことを懐かしく思い出していた。
「
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