伝えたい思い
うーん!アシュレイは思い切り背伸びをした。怪我はほとんど完治している。よット言ってベッドから飛び降りた、その瞬間思い切り脛をベッドにぶつけよがる様子に遭遇したメイドがきゃあと悲鳴をあげた。
「せっかく足が治ったばかりだというのに」
お医者様からたっぷり叱られたアシュレイであるが平然としていた。早く稽古に復帰したいのである。長い長い回廊をくぐり抜けて。アシュレイは庭園と来ていた。薔薇のかぐわしい匂いが漂ってくる庭園に美少女がたたずんている。エリメルだ。
「あら、アシュレイ。怪我の具合はすっかりいいの?」
「どうってことない!へっちゃらだ!」
そう言ってまだ痛む体なのに背伸びしてみせた。
「私あれから考えたんですお前の言ったこと……本当に……なんて馬鹿なことをしたんだって……」
エリメルは薔薇のつぼみに鼻を近づけくんくんと匂いを嗅いだ、それから何か思うように立ち止まり。アシュレイのほうを見つめ返した。
「きっと私も思いを伝えますわ」
そうハッキリといった彼女の表情には憂いを帯びた様子が浮かんでいる。静かな薔薇の庭園にたたずんでいる。
「あんたならきっと大丈夫だよ」
頭をかきながらアシュレイがそう言うと、にっこりと高貴に微笑んでエリメルは薔薇の一つを一つまみした。
「この庭園。亡き父のものですのよ、人の命なんてあっという間ですね。流行り病で間もなくでしたわ、クロードが生まれてすぐでしたから、彼は父の顔すら知らない」
つまんだ薔薇の茎をもっていたハサミでちょきんと切り、エリメルはそれを何か思うようにずっと眺めている。
「お前も、何か伝えたいことがある人がいるなら生きている間に伝えておくといいでしょう、人間の人生、何があって。いつどうなるかわからないのですから」
黙って聞いていたアシュレイだったが、エリメルの言葉は急に胸に沈んだ。
「あんた少し変わったな」
「きっとお前のおかげですわアシュレイ」
薔薇の花をエリメルがそのままアシュレイに渡した。これを持って……
アシュレイは走り出した、リトルコールティンの居る王宮の図書館まで急ぐのだ、
きゅうに走り出したアシュレイを遠くからエリメルは不思議そうに眺めていた、
そうして二つ目の薔薇の花をつまみ、また匂いを嗅ぐ。そうして背中の彼を見ながらひとりごとのようにつぶやいた。
「頑張りなさいアシュレイ」
図書館にいるリトルコールティンのいる宮殿の奥に行くには何回も入り組んだ宮殿を行き来しなければならない。途中道に迷いながらなんとかたどり着いたアシュレイである。途中で青い髪の毛をしたこの国の氷の王子にすれ違った。軽く会釈をし、クロードが父の顔も知らないというエリメルの話を思い出していた。
図書館にはいつも書類の整理と経理をやっているリトルコールティンがいる、
今日は手持無沙汰らしく。みんなでお茶会を開いていた。
「あら。アシュレイすっかりいいの?」
紅茶のソーサーを右手に持ったリトルコールティンがにっこりと微笑む。
隣にミラルカがいて、ミラルカは不思議そうにそれを眺めながらお茶菓子に手をつけていた。
「俺。お前に言いたいことある」
「へえ何?ここでしてもいい話?」
「俺、いつか立派な騎士になって、名誉をもらってそしたら。お前を迎えに来るよ」
ミラルカはきゃっと言ってカップから茶をすこしこぼした。
広い図書館に響きわたる大声は、受付をしていた司書にまで声が届いてた。
「う……ん?よくわかんないけど待ってる」
そう言ってリトルコールティンはおやつのケーキを口に運んだ。
「近いうちにだぞ!俺は約束は守る!絶対にだぞ!」
恋愛対象だとは認知されてないことはわかりきっているアシュレイである。でも必ずそうしてやる、確固たる信念の生まれているアシュレイは迷わなかった。
「今の聞いた!?」
ミラルカがリトルコールティンに話しかけると聞いたけど何が?と言い返すリトルコールティンである。
「あーだめだめこいつはよくわからないから」
先輩のエレメンツがそう言ってお茶らける。それを聞いていたルヴァとベナンはその方向を睨みつけていた。
「そういえばあいつどこかで会った気がするんだよな」
ルヴァが記憶を辿っているとチャイムが鳴り始める、仕事始めの合図だ。
それぞれ書類の棚に移動して。あるものはハンコを押し。あるものは大量に届いた本の在庫をチェックする、リトルコールティンはいつものように帳簿をつけている。
仕事をしながらルヴァはずっと考えていた、後から現れたクロードに。あいつのことを何か覚えていることはないかと聞いたのだったが。わからないと一言言われただけであった。それでも気にかかる様子のルヴァはずっと考えていた。ベナンも俺もあったような気がすると言ったので、何か思い出すことはないかと尋ねるルヴァである。
「あいつ今と随分姿が違うんじゃないっすか?多分それで思い出せない……」
「わからないな」
諦めたルヴァは、また仕事に取り掛かるのであった。
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