捕らわれたアシュレイ5
女王陛下は興味深く二人の騎士の話を聞いていた。
「なるほどエレメンツをかして欲しいというわけなのね、でもエレメンツのことはすべてクロードにまかせてあるの、私でも簡単に動かせないのよ、特にドラゴニアは侯爵家の人間だわ、王家にもどうしようもないのよ」
ふうとため息をひとつついて老齢の女王は悲しげな表情を一瞬した、しかし次の瞬間にはきりりとした表情を取り戻していて、長い間玉座に座っているという貫録を見せつけていた。
「クロード様なら書庫にいるようですが」
召使の一人がそう言うと、そのようよと一言いって陛下はうなづいた。
クロードに事情を説明したカナーベルがエレメンツの集まる作業所にたどり着いたのは結構時間が経ってからのことだった。そして例のエレメンツが本を本棚に戻しているところに遭遇していた。
「あなたがリトルコールティンですね」
手を休めてリトルが振り返る。
「そうだけどあなたは?」
「私の名はカナーベル、シーザの騎士団に所属する身です、先刻からアシュレイがどうやら地獄の牢獄へと捕らわれているようなのです、エレメンツでしたら入るのは簡単でしょう、どうか協力を」
「アシュレイが捕らわれている!?」
リトルコールティンはにわかには信じられない様子で暫くの間考えていた。
「確証はあるの、ドラゴニア様が誰かを捕らえているとは聞いてはいたわ、それがアシュレイだとなぜわかるの」
「恨みを持っている人物といえばそれくらいしか考えられません」
「恨み?アシュレイはドラゴニア様に何かしたの……」
「彼がヴィンランドスレイで優勝したことは知っていますね」
「わかったわ、天下の宝刀を切って誘導してあげる、で、それはいつからなの」
「すでに一か月は経過しています、もう死んでいるかもしれませんね」
リトルコールティンの表情は凍りついた、それから持っていた本をバラバラと床に落とした。それをゆっくりと拾い上げ、どうにか正気を保っているようだったが動揺は隠せない様子のリトルコールティンである。茶色いボブの髪の毛が不規則に揺れている、それをローブの中に引っ込めて、リトルコールティンは二人と合流した。
途中でミラルカとすれ違った、
「あれ、リトルどこ行くの?」
答えず牢獄へと急ぐ三人である、不思議そうな顔をしてミラルカはまた職務に戻っていた、そしてアシュレイは遂に牢屋から拷問部屋へと移され、今にも拷問の始まる寸前であった。
「私に恥をかかせたことは万死に値する、ゆっくりと苦しめながら殺してやるのだ」
ドラゴニアは不気味に微笑んで、貼り付けにされたアシュレイを眺めていた、これまでか。アシュレイは覚悟を決めてドラゴニアに何か言ってやろうと思った。
しかし長い間の幽閉生活ですっかり疲弊したアシュレイにはそんな体力は残っておらず、黙ってなすがままになっていた。
「爪からやろう、ささくれでも相当痛いだろう?生爪ならどれほど痛いかな?」
そうして足の小指から爪をゆっくりと剥がしていく。小指の爪はそれほど痛みを感じないようで、それとも長い間の牢獄生活がすこし感覚を麻痺させているのかもしれなかった。
「まだ白状する気にはならんようだな」
ドラゴニアが小指の爪をはがした段階でアシュレイに顔を近づける。
「せいぜい苦しんで死ぬがいい、俺は容赦しない……」
そこまで言いかけて大変です!と兵士がドラゴニアに言いに来た。
「なにがおこった、今いいところなのだぞ」
「エレメンツが突入してきました、仲間も一緒のようです!」
「なんだって……」
剥いだ爪を捨ててドラゴニアは振り返った。エレメンツが来たとなってはこの茶番もお終いである、ちっと舌打ちしてドラゴニアは醜くしわをよせた。
「エレメンツのリトルコールティンです!さあ、捕らえている人間を解放なさい!」
この国でエレメンツに逆らえる人間はクロードしかいない、兵士たちは首を垂れて、道を明け渡すしかなかったのである。
「やあ、エレメンツのリトルコールティン、久しぶりだな、私が誰を捕らえているって?」
カナーベルが不気味に微笑んで剣の鞘からヴィンランドスレイを抜いてドラゴニアの首に剣先を近づけた。
「お前の仕業なのはわかっていますよ、ドラゴニア、お前はエリメルに振られた腹いせに罪もない少年を捕らえ、そして殺そうとしている」
「罪もない人間を殺しているのはお前も同じだ異国の騎士よ」
「口がすぎるとこのまま首をはねますよドラゴニア」
「は、は、は、まだ生きていてよかったな、私は死ぬのはごめんだ」
ルースがアシュレイの姿を見つけ、すぐさま駆け付けた。
「助けがもしかして……来たのかな」
アシュレイがぼうっとしながらそう言うとそうですよと言って涙ぐんでいたルースである。
「爪が……」
生生しくはがされた小指の爪から血が噴き出している。血は飛び散り、床に散乱していた。
「アシュレイ私よ!気づかなくてごめんなさい!」
狭い牢獄に少女の声が響くとアシュレイは思い出していた、こうやって瀕死の間際に彼女と出会ったことを。
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