捕らわれたアシュレイ4

エルキナ王都へとようやく到着していたカナーベルたちは、さっそく情報収集へと取りかかっていた、ドラゴニアがやったことは間違いないと確信してここまでやってきたがいささか確証はもてないでいる、いきなり突入することも叶わないのである。


「ドラゴニア様?あの人のうわさじゃとんといいい噂を聞かないわ」


酒場のお姉さんが隣に寄り添ってきて教えてくれた。


「何か不穏な噂を聞いていませんか」


「不穏な噂ねえ、そういえばこの前エレメンツの飲み会があってドラゴニア様が何やらよからぬことを企てて誰か牢獄に閉じ込めているようだって言ってたわ」


ルースが立ち上がる


「それだ!」


「ありがとうお姉さん、チップをはずむよ」


そういってルースは金貨を渡した、え?いいの!と目を輝かせて喜んだお姉さんはすかさず胸の谷間にそれを隠した、外で待っていたカナーベルがやっぱりねといって城のある方角を睨みつけた。


「あれから一か月経とうとしています、死んでいたとしても……気を落とさないでくださいね」


「気を、落とす……か」


カナーベルは一瞬複雑な表情をした。ルースはそれ以上何も言わなかった、アシュレイの居所はエルキナの牢獄である、しかし異国の騎士である自分たちが堂々と乗り込める場所ではない。


「エレメンツの飲み会でって言いましたね」


「なるほどエレメンツを頼るわけですか」


「知り合いがいるようですきっと協力してくれるでしょう」


「しかしどうやってエレメンツと接触を?」


「陛下に直接慈悲をいただきましょう」


「陛下に!?」


ルースはなるほどと言って右手を打った、ことは一刻を争う、お目通りが叶うかどうかは運しだいである、あまり忙しくなければいいがとそれだけを言い、カナーベルは遠くを見つめていた。


ぽつん、ぽつん……やはり雨音がする。

外は雨か、それくらいのことしか今のアシュレイにはわからなかった。

すっかり疲弊したアシュレイを笑うためにドラゴニアがいつもやってくるのに今日は姿を見せなかった、代わりに新しい囚人が同室になったのである。

囚人はまだ若い青年でずっとニヤニヤ笑っている。どうやらこいつは頭をやられているらしい、そのくらいのことしかわからなかった。


「なあ、お前なにをしでかしたんだ?」


狂人が話しかけるとアシュレイは答える気もなくそっぽを向いた。


「俺はドラゴニア様の馬車から金を盗んだんだ、なあおかしいと思わねーか、貴族たちは俺たちから骨をしゃぶりつくして俺たちはただ労働する、狂ってやがる、狂ってやがるよ」


狂ってるのはお前の頭もだろと言いかけたがそんな元気も失せていたアシュレイである。


「なあ俺たち殺されるのかな」


答える気のないアシュレイに囚人はずっと話しかけていた。そしていよいよ……である。ドラゴニアが笑いながら姿を見せたのはそれからどれくらい経ったあとのことだっただろうか


「どうだ、住み心地は、お前にピッタリの同居人との暮らしは」


「最悪だな、さっさと殺せよバカ」


「あの黒ガラスの騎士と違って私はお前を楽には殺すつもりはないよ」


また例の精神的拷問が始まった、そう思っているとアシュレイの姿を見下ろしていたドラゴニアはケラケラ笑いだした。


「明日からいよいよ拷問の開始だ、ようやく死ねるな」


いよいよ……か。ファティナのことをしゃべらずにいられるだろうか、すっかり疲弊したアシュレイである、あまり自信がなかった。この長い間、ずっと助けを待っていた、歌を唄ったりもした、素数を数えたりもした。昔のことを思い出したりもした。それでも助けはやってこなかった。そろそろ気が変になってもおかしくない。この囚人のように。


「拷問か、俺にもあるかなあ」


男はへらへら笑いながら空を見つめている、それを横目でちらと見ながら最後かもしれない食事が運ばれてくるのを待っていた。


「陛下がお会いになるそうです」


カナーベル達はほっと胸をなでおろしたところであった。このエルキナを治めているのはまだ60代近い子だくさんの女王陛下である、カナーベルは小さい頃何度かあっている、会うのは久しぶりだ。

豪華な控室で待っていて紅茶などを啜っていると召使がやってきて陛下がお会いになりますとそれだけを告げた。


豪華絢爛な金の装飾の施された王の間にはたくさんの召使が首を垂れてある人は忙しそうにある人はただ、暇そうに眠そうにしている。玉座に座っている女王はにこやかにカナーベル達を見下ろしていた。


「陛下、お久しぶりでございます」


「堅苦しい挨拶は抜きですよカナーベルお前に会えてうれしいわ、本当はアデッソのことで忙しいのだけどシーザからお前がやってきたと聞いてすぐに時間を都合してもらったのですよ」


「ありがとうございます陛下」


恭しく頭を下げ、さて本題へと移ろうかという矢先、女王はヴィンランドスレイについて話し始めていた。


「あの大会私もいたのですよカナーベル、お前が強いのはわかりきっています、でも簡単に人を殺めてはいけないわ」



「はい……」


軽く叱責を食らったカナーベルは、時間がないことを率直に陛下に伝えた。陛下は興味深くその話を聞くに至った。

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