捕らわれたアシュレイ1
その日のカナーベルは寝坊した。腕時計を見ると9時をまわっている、すこし寝すぎて頭がクラクラとする、ざわざわと森の様子がおかしいことにはすぐに気づいていた。しばらく鳥のさえずりを聴きながら顔を洗い、携帯していた歯ブラシで歯を磨きうがいをすると、もとの寝床までもどってきてやっと異変にきづいていた。
探さないでください
そう書いてある紙きれがアシュレイが寝ていた場所に落ちていた。
「……?」
理解するまでしばし時間がかかったカナーベルである、帰るはずがない。早馬を連れてカナーベルのすぐそばまで来ていたルースが、その紙切れを覗いて不思議そうに眺めていた。
「帰ることにしたんでしょうか」
「バカな」
ルースが何気なく紙の裏をチェックすると血痕が残されいてたことに気づいた。
「何かあったようですね」
「アシュレイ……!」
カナーベルの表情は蒼白していた、寝ている間に何者かに拉致されたのだ。
「最初あれだけ邪魔そうにしていたのに不思議なこともあるものですね、あなたらしくもない」
ルースは一瞬複雑な表情を見せ、こう言った。
「普段のあなたならこんなこと捨ておくはずです」
「探します!」
「どうやって?ここは広大なエルキナ、相手の目的も何もわからない状態で?」
「情報収集はお前にまかせます」
「わかりました、カナーベル様がどうしてもというなら」
カナーベル自身にもなぜアシュレイがいなくなっただけでこんなに胸がざわつくのかよくわかってはいなかった、しかし一体誰が、何の目的で?
しかしカナーベルには長年の勘でわかっていたことがあった、相手は巨大な何か邪悪な敵だ。アシュレイを標的にした理由まではとんとわからなかった、その日のカナーベルはざわつく心を鎮めるためにずっと素振りを繰り返していた。ルースは一体どんな方法で情報を仕入れてい来るのかわからないが、情報収集には長けた奴である。あんな奴だが信頼はおいていた、だからきっと情報を仕入れて戻ってくるに違いないのであった。
夕方になってルースが姿を現すと、安堵した様子のカナーベルは近寄っていった。
「朝方、この森に何らかの侵入者の目撃談がありました、相手はエルキナ人……まっとうな仕事についているようには見えなかったとか」
「他には?」
「どうやら……これは私の推測にしかすぎないのですが、ヴィンランドスレイで恨みを持った……エリメルがらみの犯行ではないかと睨んでいます」
「つまりあのくそ野郎……」
「おそらくそうですねではアシュレイ様は王都に」
「馬をルース、すぐに向かいましょう」
「まだ確証はもてませんが」
「かまいません!」
二人は馬を走らせた、ことは一刻を争うかもしれない。
ぽつんぽつん、何やら水の滴る音が聞こえてアシュレイは目を覚ました。
自分が拘束され、その音が自分の頭から出ている血の音だったと気づくのにそう時間はかからなかった。
「目を覚ましたようだな小僧」
「お前……!」
「えっと誰だっけ」
「忘れるな!お前に恥をかかされたエリメルの婚約者ドラゴニアだ!」
「ふられた腹いせに俺を拘束したってわけか、情けないやつだな」
「二度と生意気な口が聞けないようにしてやる、お前誰に頼まれてやったのだ」
「……」
頼んだのはファティナである、アシュレイはそれを言うつもりはなかった。黙っていると拷問して吐かせてやると脅してきた。
「てめえらなんかには負けねえよ!」
「いつまでその強気な姿勢がもつかな」
暗いじめじめした牢獄の居心地は最悪であった、悪臭がただよい、どこからか悲鳴がしてくる、他にも拷問を受けている奴がいるに違いない。
爪をはがされるのであろうか、指だけはなんとしてでも守りたいアシュレイである。カナーベルがきっと助けに来てくれる、なんだかんだと面倒見のいいあの師匠である、だからきっと大丈夫だ。それにしてもここはどこなんだろうか、気を失っていた間、距離をだいぶ移動した気はしていた、おそらくあいつがいるということはここは王都の牢獄、助けがくるだろうか?それでも不思議と落ち着いていた、王都ならリトルコールティンもいる、きっときづくはずだ。
その中で不思議な人物を目撃していた、頭からフードをかぶり一つ目の怪物のような恰好をした老人である。
老人はアシュレイのそばまできてじっと見ていてずっと考えているようだった。
「おまえと会ったことがあるようなきがするのう」
ぎくりとしたアシュレイである。
「どこでだったか、ヴィンランドスレイではないもっと別の…宮廷だったような気がする、ここまで出かかっているのじゃがはて」
そのまま思い出さないでいてほしい、そう願ってやまなかった。
「まあいいじゃろう、お前も子供なのに災難じゃな、しかし目立つことをしたお前が悪いのじゃぞぐふフフフ」
老人は不気味に笑ってその場をあとにした。アシュレイもあいつとは出会ったことがあるような気がしていた、どこでだったか、宮廷で?それともホールで?考えても答えはでなかった、ただ助けを待つだけなのは窮屈で退屈で気がふれそうなくらいの恐怖に耐えていた。
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