賞金首

村から出たアシュレイたちが、別の町へと移動する間、カナーベルはすました顔をして剣を腰に携えていた。相変わらずただならぬオーラを放っている、そんなことを思いながらアシュレイは後ろからちょこちょことついっていった、強さの秘密は盗めそうにない、何故ならカナーベルは目にもとまらぬ速度で敵を一網打尽にしてしまうからなのだ。でも絶対に有名になってゆくゆくは王の右腕になってどこかの騎士団からスカウトされて……アシュレイはそう信じて疑っていなかった。


しかし今朝の様子は変であった。ルースが血相を変えて怒鳴り込んできたのである。


「カナーベル様!これはどういうことです!」


「何かあったんですか?」


「とぼけないでください!」


そう言ってルースがどこからか破いてきたチラシを投げつけるとやれやれとカナーベルが拾い上げる、そうしてその情報を目にしたカナーベルはそっと目を閉じた。


「あなた何かやらかしたんですか!」


「いえ?ちょっとおいたをね」


アシュレイがそのチラシを拾ってじっくり見ると、驚くべき内容が記されていた。

黒ガラスの騎士カナーベルの首に懸賞金がかけられていたのである。


「できる限り剥いできましたが、時間の問題です!即刻エルキナを出なければ命の保証はできかねます」


「私がそんじょそこらの首狩りにやられるとでも?」


カナーベルは確かに強い、しかし寝首をかかれる可能性もあるのだ、ルースからたっぷり叱られたカナーベルは平然としていた、まるでこうなることはわかっていたかのように。


「やれやれ、面倒なことになりましたね、山道を通りますか」


あれだけ大量の人間を殺したカナーベルだ、ただですむはずがないとは思っていた、しかし一体誰が命を狙うというのであろうか、数々の恨みをかっている人物であることには間違いない、アシュレイにはやばい奴についていっているという自覚はまるでなかった。そして急にカナーベルが振り返る。何か思うように。


「アシュレイ、私といると命の危険があります、帰るなら今ですよ」


「誰がそんなことで怯えたりするもんか、あんたについていくって決めたんだ」


「死んでも知りませんよ」


「俺は死んだりしない!」


言葉をなくしてカナーベルは山道を急いだ、山道も危険だ、また山賊が出るかもしれない。そうしてしばらく歩いている間、アシュレイの姿は消えていた。その間に追手が現れて、カナーベルを前に獲物を振り回しながら言うのであった。


「見つけたぞ兄者のかたき!」


なるほどヴィンランドスレイで殺された人間の親族か、そんなことを思いながらカナーベルは剣の鞘に右手を当ててそれをゆっくり引き抜く。グレートソードを振り回しながら近づいてきた大男は大きな動きでグレートソードをカナーベルめがけて振り下ろしてきた、しかしその隙には懐に入られ、カナーベルの剣先が喉元めがけて突き刺さった。


「ぐおっ!」


男の喉元から血が噴出しだすと男はそれを拭いながら再び剣でカナーベルめがけてやってくる。


「隙だらけですよ」


そう言って大きな大男の背中を取り、ヴィンランドスレイが男の背中を切り刻むと、兄者すまねえと一言言って、男はゆっくりと床に崩れ落ちた。そうしてカナーベルは懐から布を取り出し平然と剣を拭いている、トイレから戻ったアシュレイがその光景を目にしてうわっと言って驚いた。


「師匠、また殺したっすか」


「今度ばかりは正当防衛ですよ」


殺すなと言っているのに。アシュレイは疑問を感じていた、なぜカナーベルは平然と人を殺すのだろうかと。


「師匠が人を平気で殺すのってなんでなんですか」


蔦の生い茂る山道を歩きながら何気なく聞いてみたアシュレイである、返事はなかった、考えているのかもしれなかった。


「私は物心つく前から戦場にいましたので数々の地獄を見てきました、しいていえばそれくらいですね」


「小さい頃から?」


「そうです、実家は国を守る家柄ですので家督を継ぐために…下手に死ねず苦しむよりはマシでしょう、そう考えるようになったとも言えますね、他にもいろいろなことがあった気がしますが忘れましたね」


意外な話を聞いた気がしていた、カナーベルはただのサイコパスではないのだなとアシュレイは変に納得していた。たしかシーザはどことも戦争などしていない。同盟しているエルキナの戦場にも滅多に姿を現さない。


「シーザは治安があまりよいとは言えない国です、内紛がしょっちゅう起きる物騒な国です、怪物も淘汰されてはいませんエルキナのように平和ではないのです」


それだけ言ってカナーベルは先を急いだ、日が暮れる、おそらく野宿になるのだろう、それでどこでも寝られるのか。新しい追手が姿を見せる様子がないことを確認するとカナーベルは泉の沸く山のふもとに腰を下ろした。そして簡易な食糧を口にすると寝袋を使い、そこですやすやと眠り始めた。そうしてアシュレイもそばによって何等かの食糧を口にすると眠り始めた、エルキナの夜は寒い。アシュレイは思い切りくしゃみをした。

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