イケメンコンテスト2
アシュレイが、明日大会はどうなるんだろうなあとカナーベルに聞くと、知ったことではありませんといって取り合ってくれなかった。
カナーベルはほとんど関心がないようで、背中を向いて寝ていた。そういえば気になることがある、なんでカナーベルはニナーフォレストの話を持ち出したら不機嫌になったんだ。それを聞こうとする前に静かな吐息が聞こえてきた、もう寝ている。
田舎の村の宿屋だ、簡素なものであり、ベッドが軋む。カナーベルは確か貴族だ、よくこんなところで寝られるな、と思いつつアシュレイも枕を整えてそこに頭を乗せて眠り始めた。今朝もルースは現れなかったので2度寝して起きたら9時を過ぎていた。計算すると10時間は寝ている、なので少々頭痛がするので顔を洗って歯を磨き、顔をぱちぱちと叩いた。寝すぎでぼうっとする頭をどうにか起こそうとするととっくに準備を済ませていたらしいカナーベルがよく寝ますねと一言いって呆れていた。昨日聞こうと思っていたことをとっくに忘れてしまったアシュレイは、祭りの催しもののことを思い出していた。昨日来ていた吟遊詩人が今度は歴史を語らずただリュートの演奏をしていた。流行歌は評判がいい、それが30分ほど続くと拍手が巻き起こる、そして最後に定番のクラシックを演奏して終了した、何度聴いても名曲だなと思いながらアシュレイは少年の姿を探した。
「お前本当に出るつもりなのかよ!八つ裂きにされるのがオチだって!」
「出ると言ったら出る!そして優勝したら……」
少年の友人らしき少年が止めに入っている、意思は固いらしかった、何を言っても無駄だなと思いながらアシュレイは祭りの催しものの行方を見守ることにしたのだった、祭りの予定表をもらって、次は異国のダンスが行われるらしかった。
でもダンスを踊っているのはみんなおばちゃんで、あまり目に優しいとは言えなかった。腰が悪くなるんじゃないかと何となく心配したもののダンスの完成度は高かった。やはり割れるような拍手が巻き起こっている、この音楽かなり西のほうの奴だなと思いながら、次のプログラムを確認した。次は漫才である。
「そこで僕は思ったんですよ!エルキナ顔のうえに禿げている僕がもてるわけないって!」
「それでどうしたんや」
「鬘を作ったんですけどね、冷蔵庫にあるもので」
「お前ん家の冷蔵庫、髪の毛保存してあんの?」
そこそこの漫才が繰り広げられている、これならニナーフォレストが犯す数々の天然エピソードのほうがおもしろいなとアシュレイは思った。
そういえばあいつ元気にしてるんだろうか、竜騎士団はたしかアデッソの治安の維持にかりだされていると聞いたが、アデッソは今や無法地帯である。同行しているときから仲がよくなかったニナーフォレストだ、心配してもしょうがない。
いよいよ次がイケメンコンテストだ、審査員が続々登場してくる。審査員はキャピキャピした若い女子ばかりでああ、これは無理だなとすぐにわかった。
「いよいよ出場者の入場です!」
続々とイケメンたちが現れる……が、どいつもこいつも地味顔のおじさんばかりでイケメンは出場していないようであった。
「いけるかもしれねーなコレ」
どう考えても明日の仕事の最中のネタとして出場してきたような男たちばかりの中で少年は笑顔であった。しかし、選ばれたのはどちらかといえば顔が薄めのすこしエルキナ顔ではあるけど、若干アデッソ寄りの顔つきをした紳士のおじさんであった。
そしてエルキナ牛3キロを受け取っておじさんが手を振る。少年は悲しげな顔ひとつせず、むしろ満足気であった。
「だから無理だって」
「いいんだ、出ることに意義があったんだ!それでも俺はミルクちゃんに告白するんだから!」
「残念だったなお前、いけると思ったんだけどな」
アシュレイがそう言うと、少年はカツをいれてくれ!と頼んだ。
「頑張れよ」
「ありがとう!惨敗しても何も言ってくれるなよ」
そういって少年がミルクの姿を探しに行こうとするとミルクはそばに来ていた。
「残念だったね、一番若いのにね」
可愛いミルクが労いの言葉をかけると、少年の頬は真っ赤にそまった。
「あの、ミルク、この大会が終わったら俺、お前に言いたいことがあったんだ」
「なに?」
小首をかしげ、不思議そうに少年を見つめつつ、ミルクはもじもじした。
「俺、お前のことが好きだ!」
遂に言った。アシュレイは少年の勇気に驚いていた。
「ありがとう……」
そういってミルクが少し考えた様子で少年の瞳をじっと見つめた。
「お友達からでもいい?」
「本当に!?」
少年は踊り狂いそうな勢いで歓喜に包まれ、ミルクは照れてまたもじもじしていた、成功するとは思っていなかった。そしてアシュレイが拍手をすると、よせやいと言って少年はアシュレイを殴った。そういえば自分はどうなんだ。
アシュレイはリトルコールティンに思いをまだ伝えていない。それからルースが遅れてやってきて、カナーベルの居所を聞いた、まだ宿屋にいるんじゃないかというと一目散に向かっていく、日は沈む、すっかり肌寒くなったアシュレイは複雑な思いを抱いて宿屋に逃げるように引き返すのであった。
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