イケメンコンテスト1

アシュレイとカナーベルは賑やかな小さな村を訪れていた。

村中に張り巡らされた万国旗、大きなエルキナの旗が翻る街の店先。

間違いない、この村では祭りがおこなわれている。

出店が並んでいて早速カナーベルがタピオカを購入してそれを飲んでいる。カエルの卵だと聞いたんですが……と店主に言うと笑われたので、飲みながらアシュレイを睨んでいた。今日はルースは来ていない。朝早く起こしに来るやつが来なかったので、今日は3度寝して起きたら朝8時になっていた。


「アシュレイ様ーカナーベル様ー!」


朝早く聞こえなかった大声が遠くから聞こえてくる、あいつはとりあえず顔を見せにやってくるのだ。


「あんた珍しいな寝坊した?」


「牛乳屋がどこも閉まっていて開いてる店が全然なかったんです、はて、建国記念日か何かなのでしょうか」


「エルキナには建国記念日なんかねーよ、多分謝肉祭か何かだと思う」


「謝肉祭!それで……」


どこまで牛乳を飲ませるつもりだ。


「お前今度から果汁にしてくれよ」


「果汁などいけません、虫歯になってしまいます」


そう言ってカナーベルの姿を探しに行ったルースはあっという間に姿が見えなくなった。村では催しものが行われている。今は吟遊詩人がアデッソ王の末路を語っているところである。


「そうしてついにアデッソの邪悪な王はわれらが氷の王子クロードに討たれたのです!」


ベベンとリュートの音色が響く。その話はもう知っている。そうして吟遊詩人がリュートを抱えて退場すると拍手が巻き起こった。次は村の子供たちによる演劇だ、やはりこの演劇の内容もアデッソ王の結末を語るものである。


「どうか、私を許してほしい、西の国の悪い魔術師よ……」


そうして絶命していくさままでがおおまかに舞台になっている。


「よく知ってんな」


その戦争に参加していたがほとんど活躍の機会のなかったアシュレイは褒美をもらうどころのさわぎではなかった、その功績のほとんどをエレメンツや竜騎士たちに奪われたのである。さんざん努力してこの有様だ、アシュレイは思わずくしゃみをした。


「だからやめておけと言っているだろう!」


隣家から怒声が響き渡る、別に聞きたくないが、いやでも耳に飛び込んでくる。


「父ちゃん!俺を止めるな!俺はやると決めたらやる!絶対にだ!」


「私にとっては可愛いお前でもさすがにそれは無理があるわ」


何の話を聞かされているのだ、さっさとカナーベルと合流して立ち去ろうとした瞬間声の主から呼び止められる。


「おい、シーザ人!」


坊主頭の大柄な少年から呼び止められる。


「俺はエルキナ人だぞ、見ろよこの身長!」


そして135センチしかない身長を威張った。外国人に間違われるのは生まれて初めてである。驚きながら少年の体格を見上げていると、少年は続けた。


「明日、この村の余興でイケメンコンテストがあるんだ……」


「は?イケメンコンテスト?」


「お前出場するなよ俺が優勝できなくなるだろ!」


「出るかそんなもん!」


明らかなエルキナ顔のその少年がとても優勝できるとは思えない。


「あんたからも言ってやってくれ、お前には無理だと」


少年の父が助けをこうと、遠くからルースがやってきた。何やら口に含んでいる、タピオカを飲んでいるらしかった。


「あのアシュレイ様……」


「お前、よく考えなさい、そこのお兄さんとちょっと並んでみなさい」


結果は一目瞭然である、エルキナ人がシーザ人と比べられること自体無理がある話である。


「お前出場するなよ!」


「何の話ですか?はあ?イケメンコンテスト……いや、私はいいと思いますよ!典型的なエルキナ顔で!」


巻き込まれたくないらしいルースがタピオカを片手に持ちながら去っていく。


「ちくしょう、どいつもこいつも馬鹿にしやがって!俺は優勝するんだ!」


「アシュレイ、カエルの卵じゃなかったじゃないですか!とんだ恥をかきましたよ!」


怒りながらアシュレイの姿を見つけたカナーベルが一家に取り囲まれているアシュレイを見つけ驚いている。


「お前も!お前もだ!出場するなよ!」


「は?」


事情を聞いたカナーベルが悪趣味ですねえと呟いてタピオカをゆっくり啜っている。


「優勝したら何かいいことでも?」


「俺はこのコンテストで優勝したらクラスで一番の美人のミルクちゃんに告白するんだ!」


「は?普通に告白すればよくね?」


アシュレイが真顔で言うと少年は烈火の如く怒りはじめた。


「箔が欲しいんだ!俺に勇気が欲しいんだ!」


「そんなもんに出場するというだけでメンタル的には全く問題なさそうですよね」


飲み終わったカナーベルが空になったタピオカの瓶を持て余している、その辺に捨てたらルースに叱られるのだ。大会は明日に迫ろうとしていた。


「お前多分無理だわ」


アシュレイがそう言うと、少年の家族は同意したが、少年は引き下がろうとしないのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る