それから

隣で寝ているカナーベルの姿をちらと見ながらそういえばなんでニナーフォレストの話を聞いたら不機嫌になったんだ?と、少し疑問を感じつつ、考えてもしゃーないか!と独り言を言ってそのまま枕に頭を乗せた。早く寝なければまたあのアホが朝早く起こしにくるのだ。時刻は10時をまわっている、うつ伏せになりながら少し反り腰気味になった腰をさすりながらアシュレイは眠りについた。


「おはようございまーす!」


いつもの光景だが、やはり早すぎる。もうすっかり慣れっこになってしまい、カナーベルのほうも夜更かしをすることなどなくなっていた。

ドアをドンドンとけたたましく叩くと、顔も洗っていないカナーベルがカギをそっとはずした。そしてすかさずルースが部屋へと乗り込んでくる、今日は何を持ってきたのか。


「あ、今日は早起きして特別にジュース作ってきました」


「これ以上早起きしてどうする」


そうして三人分の緑色の液体を取り出すとアシュレイが悲鳴をあげた。


「青汁だろそれ!」


「スムージーです」


「いや、青汁だろ!」


「スムージーです!」


強くルースが言うとアシュレイはどう見ても青汁のそのガラスの瓶を眺めている。


「結構いけますねこれ」


カナーベルが問題なく飲み干すのを横目でちらとみてアシュレイも飲むことに決めたのだがすぐに吐き出してしまった。


「なんでこれをスムージーだと言い張る!」


「ちゃんと氷が入ってます、スムージーです、ケールですけどね」


「だから青汁だろ!」


「私は美味しかったですよ、ケール以外にも何が入っているんですか」


「あ、果物が少し入ってますよだから青汁じゃありません」


アシュレイは飲みほさきゃ怒り出すこのお兄さんのためになんとか飲み干したがこのままでは青虫になってしまう、せめて甘いジュースあたりにしてくればいいのに。


「そういえばお前何の用ですか、クレリアフォルセリアの件は終息したばかりですが」


「あ、今のところ特に用事はないそうです、エルキナの観光でもしてきてくださいとのことでした」


「用もないのに朝早く起こしに来るのはやめてください……」


「何をおっしゃいます、私は国の父上からくれぐれもと頼まれているのです!」


ルースのおかげで規則正しい生活ができているのは間違いない、しかしなんとかならないものだろうか、2度寝もできず、アシュレイは瓶をそのままルースに投げつけた。そうしてすかさず殴られたのでもう怒らせるのはやめとこうと、固く決意したところであった。しかしその倍は殴り返した。


「では私はこれで失礼します!明日も起こしに来るので今日も早く寝てくださいね!」


口元から血が滲んだルースがハンカチで押さえながらその場をあとにする。


「ルースはああ見えて強いので逆らうのはあまり得策とはいえませんよ」


「やっぱそうなんだ、早起きなだけじゃないんだな」


しかしエルキナを観光するってうちの国はだだっ広いだけで特にこれといった観光名所もないし、あるとすればタピオカでも飲んで回るくらいしかない、それかキルトでも集めて回る?しかし女子供でもあるまいし、師匠がそんなもの集めてまわるはずがない、特に目ぼしい施設も観光地もないですよとアシュレイが言うと、名物料理か何かないんですかと師匠がすかさず聞いた。


「エルキナ料理はたいして発展してないんっす、なんせ侵略してでかくなったような国なので……」


「エルキナの大半は凍っていますからね、肥沃な大地が欲しくて代々そのような蛮行が続いたと聞いてますね」


永久に溶けない氷で覆われた悪魔の住まう都。たしかファティナもそんなことを言っていた。かつてはこのエルキナも魔術の発展で栄えたが、あまりにも強力なその力は他国を脅かすに至った。そしてついに100年前マジックロウが設定され、ロウの女神がそれを統治するに至ると、あっという間にエルキナの魔術の力は廃れていったのであった。今では国家魔術師にしか魔法を使うことは許されていない。

だから魔法を見たのは先の戦争が初めてである。それが今のエルキナだ、何の力も

観光地もない。


「タピオカ?なんですかそれ」


「カエルの卵の入ったミルクティーです」


「生臭そうですね、記念に飲んで帰りますか」


「カエルの卵ですよ?」


「何事もチャレンジしてみなければ……」


青汁も平気な師匠ならカエルの卵だって平気で飲むに違いない。

ヴィンランドスレイ杯から一か月が経とうとしていた。







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