モンスター襲撃2
「おはようございます!」
「またかよ」
相変わらずルースの朝は早い、どこから情報を手に入れてくるのか、どこにいても朝6時には起こしに来る。
「お前……どうやってここにいることを掴んできたのです」
すっかり慣れたとはいえ、さすがに不機嫌になるカナーベルを気にせずルースは続けた。
「黒づくめの不気味な美少年がその辺歩いてなかったですか?って聞いたらだいたい町の女の子が居所を知ってます」
「……」
「師匠、衣装チェンジしますか」
「いや、もういいでしょう、こいつのことはすっかり諦めましたから」
そう言って元気が一番!とフルーツ牛乳を手渡す。
それを飲んで元気になってくださいと軽快に笑うのだったがこいつの脳内はどうなっているのか。疑問を感じても仕方がない、あきらめて飲むしかないのだ。そうして眠い目を擦りつつフルーツ牛乳の瓶に口をつける。飲まないと怒りだすのだから仕方がないのであった。
「何か情報は掴めましたか」
カナーベルがなんとか飲み切って、瓶を机に置くと、ルースが散らかるじゃないですかとさらに怒ってゴミ箱に捨てに行った。
「全力でエレメンツが捜索にあたっているとのことですが……」
そこまで言いかけたルースがあれっと言って耳をすました。
雑踏が悲鳴に変わったのに気づくのにそれほど時間はかからなかった、黄色い悲鳴とかそういった類のものではない、恐怖から来る悲鳴だ。ルースが窓をバンと開ける、そうしてしばらくの間空を眺めていた。
「出たようですね、あの姿はドラゴンかそれと類似した何かか……」
「ドラゴン!」
アシュレイは絵本の中でしかそのモンスターを見たことはない、ルースを押しのけて窓に向かうと大きな影が町中を通り過ぎるさまを目撃していた。
「ではさっそくエルキナに報告に行ってまいります、間もなくエレメンツも到着するでしょう」
早足でルースが颯爽と去っていくと、遅れてカナーベルが窓から空を見上げていた。
「ドラゴン……ではなさそうですね、ワイバーンか、フェアリーか……」
しばし考えた様子で何かをつぶやきながら部屋をうろつくと、カナーベルは言った。
「我々の出番はないかもしれませんよアシュレイ、やつは雑魚です」
「え?ドラゴンじゃねーの!」
「おそらく飛竜か妖精の類です、あっという間にエレメンツが仕留めるでしょう」
「なんだ、でも俺怪物を見るの生まれて初めてだ」
興奮冷めやらぬ様子でアシュレイがいつまでも空を見上げていると、続々と魔法使いたちが姿を現した。三角のつののついた長い帽子、真っ白なローブ、あれがエルキナの国宝と呼ばれるエレメンツと呼ばれる魔術師たちだ。
「クロード?」
青い髪の毛をした少年が混じっている、ミラルカもいる、そしてリトルコールティンが居た。
「リトル!」
アシュレイは窓から叫んだ。声は届くはずもない、駆け足で1階へと降りて、リトルの姿を追った、部屋に残されたカナーベルはクロード?と言葉を繰り返していた。
「エルキナの王子のおでましですか」
カナーベルも挨拶にいかねばならない、準備を整えてゆっくりと一階へと降りた。エルキナの王子がわざわざ出てくる騒ぎになっていたとは知らなかった。
「やれやれ、平和ボケしているエルキナの民にはよい刺激になったでしょうね」
そんなことをつぶやいてクロードの姿を探した。すぐに姿が見つかり、カナーベルだと知るとクロードの表情は一瞬暗くなった。
「シーザの力を借りるまでもなさそうだな、すぐに見つかって大事にならずに済んだ、これも協力のおかげだ、感謝する」
そうして軽くお辞儀をした。氷の王子も随分丸くなったものだ、氷のように冷たい心を持っているから他国からそう呼ばれているこの国の王子は戦争を体験して少し穏やかになっていた。カナーベルとは知人の間柄である。最後に会ったのはいつだったかカナーベルは思い出せなかったが、この青い瞳と青い髪の毛は印象深かった。そして他愛もない会話を少しして、アシュレイの姿を探した。女の子と一緒である。
もしかして、彼女が例の……
しかしエレメンツが相手では少し、荷が重すぎやしませんかアシュレイ。
そんなことを思いながらカナーベルは宿屋へと引き返した。
「アシュレイ!久しぶりね!元気だった?」
リトルコールティンは背が高めだ、首の痛みを感じながらアシュレイは見上げた。
「もちろん元気ピンピンだよ、お前こそすっかり立派ないでたちになっちゃって」
「これもエレメンツのお仕事だからね、クレリアフォルセリアから魔物が逃げ出すなんて滅多にないんだけど、ちょっと初心者の子がやらかしてね、それでこんな騒ぎになったの、こんなことハイランドにでも情報が入ったら国交断絶しかねない、だから全力で火消しに来たの、アシュレイは今何をしてるの?」
「俺は有名な騎士の弟子になったよ」
「アシュレイが?」
少女は目が飛び出るばかりに驚いた。
「あれだけ自分勝手な剣ふるってたアシュレイが先生を慕うなんて不思議なこともあるものね、きっとニナーに言ったら驚くよ」
少女はそう言って聡明な瞳でアシュレイを見下げた。
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