双子の姫のいる城にて3

ファティナが何気なくそう言うと、アシュレイは突然思い出していた。そうだった、あいつはたくさんの人間の首を切り落とした殺人鬼だったということを。


「あの……アシュレイ?」


「またな!ファティナ!じゅんれいとやら頑張れよな!応援してるから!」


「あの、まだ話は終わってな……」


ファティナの言いかけた言葉は虚しく空を切った。姿がアッという間に見えなくなったアシュレイは、ダッシュで館へと引き返していた。


「ファティナの王子さまはつれねえなあ」


バンダナをまいたショートカットの女の子がファティナの肩をぽんとたたく。


「さっきのイケメンのほうが何倍もいいのにファティナったら悪趣味なんだからあ」


金髪の髪の毛の長い女の子が甘えた声でフォローする。


「蓼食う虫もなんとかって言うしね、私たちにはわからないけどね」


亜麻色の髪はあのミラルカだ。


「はあ、すっかりやる気をなくしました、今日は引き返しましょう……」


「え?今日はランダ寺院まで行くはずじゃ?」


「もう、ほっといて下さい」


しょげて引き返す女の子のパーティーは悲哀に満ちていた。アシュレイが館に戻った時ルースの姿は消えていて、館の双子の姫からカナーベルが質問攻めにあっていた。


「シーザではドラゴンが飛んでるって本当ですの?」


「ええ、ですから冒険者がたくさん一攫千金を求めてたむろしていますね」


「エルキナには魔物なんていませんから新鮮なお話ですわ」


色男は本当にもてる。そんなことを思いながらアシュレイは近くの椅子に座った。


カナーベルが目配せして助けを求める。


「助けてくださいアシュレイ、さっきからこの姫たちから質問攻めに遭っていて」


「はあ?」


呆れた様子でアシュレイは慌てふためくカナーベルを一瞬見て、少し考えて言った。


「国に婚約者でもいるとでも言っておけば?」


「そんなこと何度も言いました!でもそんなことじゃ引き下がらないのです!」


必死の形相で助けをこう、カナーベルはまるで普通の少年のようだ、そんなことを思いながらアシュレイはふうとため息をついてしゃしゃり出た。


「姫様、大事なお話があります、師匠はホモです」


姫たちから黄色い悲鳴が上がってカナーベルは静かに違いますと呟いた。


「では朝早く館に来るあの方が恋人なんですの?」


「多分ルースのことだと思いますが、あの二人はできてます、熱々で沸騰しそうです」


「まあ、ここの標高は高くもないというのに、うらやましい限りですわ!」


「あの、違います」


カナーベルが何度も訂正を試みても姫たちの暴走を止められるはずがない、そのうち日が暮れ、朝になるとルースが起こしにやってくる、時間は刻刻と流れていた。


「おはようございます!」


いつものように朝6時にルースがやってくると姫たちが含み笑いをした。


「……あの、何かあったんですか?それとアシュレイ様は?」


「アシュレイは半殺しにしました」


「はあ、殺してないだけマシですね」


「お前こそ用もないのに朝早く起こしに来るのどうにしかしてください」


「あ、今日は違います、今日はちゃんと用があって来たのです」


ルースが皮の鞄から書類をおもむろに取り出し、それを読み上げていく。


「上層部から伝達がありました、エルキナのクレリアフォルセリアから召喚獣が逃げ出したそうです、今全力でエレメンツが行方を追っているのですが、間に合いそうにないそうです、そこでシーザの力を借りたいとのこと」


「なるほど、召喚獣がね、で?逃げ出した怪物は何です?」


「詳しくはわかっていません、でもすぐに噂になるでしょう、エルキナは田舎ですからねえ」


ルースがそこまで言って書類のほうをじっと見つめた。躊躇しているとカナーベルが覗き込んだ。


みずみずしい水着のアイドルミリムちゃんの16歳のボディなどと書いてあるグラビアが手に握られている。


「あの……なんですかこれ」


「隊長が渡した書類の中に紛れ込んでたんですけどどういうことなのでしょうか」


「ファルス隊長!」


カナーベルがそのグラビアをびりびり破るとそこら中に紙が散らばった。


「隊長、このアイドルのファンなんですかね」


ルースが苦笑いをしながら書類を鞄にしまいながらあ!と思いついたように言った。


「アシュレイ様とりあえず生きてはいますよね?」


「ええ、とりあえずはね」


カナーベルが不気味に微笑んで、ルースがおお怖いと一言もらして鞄を肩にかけて慌ただしく去っていった。そろそろ日が昇る、時刻は12時をまわろうとしていた。

この館を出なければならない、カナーベルは荷物をまとめはじめた。

逃げ出した魔物が何にせよ、戦い慣れている自分が負けるはずがない自信があった。


「そうか、行ってしまうのか、息子たちができたようで楽しかったんじゃがなあ」


館の主はそう言って残念がった。姫たちは寂しいですわと言ってカナーベルを取り囲んでいる。


「ところでアシュレイはその顔はどうしたんだね?」


ボコボコにされたアシュレイはきっとカナーベルを睨みつけた。


「隊長によろしく」


館のあるじがそう言うと、カナーベルの顔面はひきつった。

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