双子の姫のいる城にて2

チュンチュン…朝の目覚ましを小鳥のさえずりが行う。アシュレイはまだ夢の中だった、そして急に大声で目が覚めることになったのである、不機嫌な様子でどうにか起きると目覚まし時計は6時を指している、騒音なんてものではない。


「おはようございます!アシュレイ様!カナーベル様!」


大声の主はルースであった、寝ぼけながらカナーベルが目をこすりつつ起きてくるとつぶやいた。


「こいつは朝が早い奴なのです、老人のようにね」


「早寝早起きは元気の秘訣です!はい!これも!」


そしてルースから牛乳の瓶を手渡された。それを飲んでいたらますます眠くなってくる、死屍累々となる中、ルースは続けた。


「カナーベル様、陛下が大変喜んでおりますよ」


「陛下が?」


眠い目をこすりながらカナーベルがなんとか返事をした、不機嫌になってないだけ慣れてしまっているのかもしれない。カナーベルの右手に握られている牛乳の瓶はほとんど口をつけない、すかさずルースが激怒した。


「陛下からは以上です、カナーベル様は聖騎士団の規則に則って鍛錬に励むようにとのことです」


「師匠はこれ以上強くなってどうするんすか」


「さて、何をしますかねえ」


しばらく考えた後、何か思いついたように手をたたいた。


「エリメルとの茶番も終わったことですし何もすることがないので国に帰るまでの間、魔物退治でもすることにしますか」


「しかしこのエルキナでは魔物はほとんど姿を消しているようですが、シーザのようにはいかないのでは?」


「シーザならドラゴンが日常茶飯事に飛んでいるのですがねえ」


「ドラゴン?あんたらそんな奴と戦ってんの?」


どおりで強いわけだ、するとこの目の前にいるルースとかいう早起き兄さんもかなり強いということなのである。


「ところでアシュレイ様、あなたハイランドのファティナ様とは懇意にしているのですか?」


「ファティナ?ああ、あのちっちゃい女の子か、友人ってほどでもないけど……」


「さっき女の子の集団と遭遇してあなたを探していましたよ」


「ファティナが?」


「ファティナ姫はたしか巡礼中と聞いてますね」


カナーベルが牛乳を飲みながら呟く。


「姫……?」


アシュレイが姫と聞いて即座に反応する、知らなかったのですかとルースが言った。


「偉い人の子だったのか」


「偉いなんてものではありませんよ、ファティナ様はハイランドの第三皇女なのです」


巡礼……巡礼ってなんだっけ、食えるんだっけ……いろいろな思いがアシュレイの脳裏をかすめる。どおりでエリメルと親しいはずだ。


「それで?」


「居所を聞かれたので知りませんと申し上げました」


「おい」


「アシュレイ様あなたはもうカナーベル様の従者なのです、エルキナにおいてはシーザに仕える身、政敵であるハイランドの皇女などと親しくしてもらっては困ります」


「そんなこと関係あるか!探してくる!」


怒り心頭でアシュレイが部屋を飛び出すと、カナーベルがルースに苦言を言った。


「言い過ぎなのでは」


「政情を知ってもらわねば困ります」


あっけらかんとした様子で淡々としゃべるルースを横目で見ながら残った牛乳をカナーベルはなんとかたいらげた。その様子を見ながら満足げにルースがうなづく。


走り出したアシュレイは館から出るとすぐさま女の子の群れに遭遇していた、このあたりをうろついてたのである、アシュレイの姿を見つけ、ファティナが喜びながら走り出してくる。


「よかった……アシュレイ、会うことができて……」


「さっきルースが嘘をついたって言ってたから慌てたよ」


「ルース?さっきの騎士様のことでしたら何も言わず立ち去っただけですが?」


「……」


「あの方聖騎士団の方ですよね、シーザの。確か何度か会ってるんです、どこの式典の時だったか……」


ファティナが記憶を辿っていると、そんなことどうでもいいやと独り言を言ってアシュレイは怒りを抑えた。


「そういえばあんたじゅんれいとかやってるんだったな」


「ええ、各地の寺院をまわっているところです、この悪魔の住まうエルキナにも立派な宗教施設がたくさんありますね、ハイランドの人間としてうれしい限りです」


「悪魔の住まう……エルキナか……」


ファティナの言ってることは間違ってはいない。


「そういえばあんた第三皇女ってまじ?」


「ええ、でも身分を隠しているのでみんな知りません、どうか他言しないようにお願いします、ルース様から聞いたのですね、私の顔を知っているから……」


「そっか、そんな偉い人の子供なのに威張らずにあんたって偉いんだな」


「まさかそんなことは……ただ特別扱いされることがいやなだけなのです、エリメルを助けてもらって、あれから行方がわからなくなってしまってお礼も言わないままになってしまったのが心苦しくて探していたのです」


「もともと俺はそんなこととは知らなかったから礼なんていらないよ」


「てっきりあの黒いカラスの騎士に殺されてしまったのかと思いました」


「……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る