双子の姫のいる城にて1
アシュレイがカナーベルの弟子になってから、数日経とうとしていた。
相変わらずカナーベルはアシュレイのことをいないもののように扱う。
「師匠、どこへ行くんですか?」
こたえる気もなく、カナーべルはアシュレイのほうを一瞬ちらと見て、
「懇意の貴婦人の館へ向かいます」それだけちらと言い、さっさと歩いていってしまった。
あれからファティナたちとは合流できていなかった。試合の舞台でであったきりであった。
「ここです」
カナーベルが姿を見せると館にいた双子の姫がきゃあきゃあと騒ぎ出した。
「あなたがカナーベル様ですのね!」
いいながら頬を染める。カナーベルの姿は誰が見ても美しい。
「おお、シーザの騎士よ久しぶりだな、ところでその子供は?」
「ストーカーです」
「違う!俺は弟子だ!」
館の主は軽快に笑って背もたれのある椅子に座った。
「弟子か、弟子なら一緒にゆっくりしていきなさい」
懐ぶかい館の主は、一瞬微笑んだが、あとからカナーベルに目配せして、何者かを尋ねていた
「アシュレイが何者か、わたしはとんと知らないのです」
カナーベルも椅子に座り、肘をテーブルにつけた。
「何者かわからぬ者を従者にしておるのか」
「彼はただのストーカーだと」
「お前さんの正体を知ったら逃げていくに違いない、一瞬の辛抱だな」
館の主は軽快に笑い、キセルを吸い煙が蔓延した。
カナーベルは煙を振り払い、部屋へと向かった。
アシュレイもゲストとして丁重に扱われ、カナーベルの近くの部屋があてがわれていた。
朝になり、起きだすと、さっそく双子の姫が現れ、カナーベルの姿を見つけて黄色い悲鳴を上げる。やれやれといった様子でカナーベルがあしらうと、館の主に風呂があるかどうか尋ねていた。
「かまわんがうちは使用人と一緒でな」
「かまいません、汗だくなのです誰かのせいで……」
すかさずアシュレイが発言した。
「師匠!俺が背中を流します!」
カナーベルは一瞬何か思うような表情をし、青ざめた。
「無防備になったところを襲うつもりですね?ルース、拘束してください」
すまきにされ吊るされたアシュレイは大声で叫んだ。
「なんでだよ!」
軽快に笑ってルースがその様子を眺めている。
「今のところ殺すつもりはねーよ!強さの秘密を盗んでからだ!」
「バカ正直な奴、カナーベル様が何者か知っても同じ口が聞けるとは思いませんが……」
「は?あいつまだ何かあるの?」
「教えるつもりはありません、そのうち知ることになると思いますがね」
頭に血がのぼってクラクラと眩暈がする、しばし何かを考えた様子でアシュレイは会話をはじめた。
「なあルース、お前ってイケメンだよな」
腕を組んでその様子を笑いながら観察していたルースは一瞬真顔になった。
「ほめても何も出ませんよ」
「俺なんか身長135センチしかないんだぜ」
「それはそれは大変ですね」
ひとつおおきな欠伸をしてルースが目線を頭上にあげてアシュレイの目線まで腰を落とした。
「たしかエルキナ人って成長遅くなかったですか?私はシーザの人間なので16歳でもこんなものでなのですが」
「は?お前1歳しか違わねーの!」
「働いていますのでね、若干老けて見えるかもしれません…さてとそろそろカナーベル様が風呂が上がったころですね、それでは」
風呂のカギを手でくるくる回しながら笑いながらルースは去っていった。
「こらあああ!俺を開放しろ!!!!」
虚しくアシュレイの悲鳴が狭い部屋にこだました。
ルースが清潔なタオルを渡すとカナーベルがすかさず受け取り髪の毛を乾かす。
「そうだアシュレイをそろそろ開放してください、死なれると困るのでね」
カナーベルがそう言うと意外だとばかりにルースが目を丸くした。
「ほう、めずらしいあなたが?」
「そういえば…そうですね?」
「女子供関係なく躊躇なく殺すものだと思っていました不思議なこともあるものです」
タオルで水気を飛ばしながらカナーベルは俯いた。
「私も耄碌したものです、あんな奴に情けをかけるなんて……」
「国の父上にもよい報告ができそうです」
にこやかに笑ってルースがそう言うと、カナーベルの表情は一転した。
「余計なことを言うとお前も剣の錆にしてやりますよ」
「おお、恐ろしい、それでこそ死神。では私はこれでおいとまします、ではまた明日!」
「おいとまって……」
カナーベルが何気なく時計を見つめるともう9時を回っている。
「あいつ、馬なのにどうやってアジトまで帰るつもりなんでしょうか……」
げんなりとした様子でカナーベルはすまきにされたアシュレイの部屋まで来ていた。
丁寧に縄をほどきズトンと音がしてアシュレイは床に転げ落ちた。
「はあ、頭に血がのぼってよりバカになるところだった」
「それでもルースよりましです、寝る準備を始めますので変な気を起こしたらまた拘束します」
「だから殺意はねえって!」
「お休み、アシュレイ」
「は……おやすみなさい」
もしかしてカナーベルは初めてまともに口を聞いてくれた?アシュレイは小躍りしそうな歓喜で一杯になった。自宅よりずいぶんと広い部屋にベッドが置かれていてそこにふかふかの布団が敷かれていた。アシュレイはそこを右手でフカフカすると、早速パジャマに着替え、寝床についた。
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