西の国の美少年

アシュレイが期待に胸を躍らせながら宿から飛び出してくると、

その外に貼り付けてあった挑戦者を求むと書かれたチラシを堂々と破って

走って逃げ出した。


朝だから誰も見ていない。


鶏の鳴く時間だ、アシュレイが次の町、次の町と移動する間、

その破ってきたチラシを何度も眺めていた。


チラシはすでにボロボロになっていた、何度も眺めているうちに手垢がついたり、

飲み物をこぼしたりしてしまったので、一部はインクが滲んで読めなくなっていた。

アシュレイはこのチラシに何が書かれてあるのか、隅々までは読んでいなかったから、闘技場に来るまで詳細を知らずに来てしまっていた。


本当は何がそこに書かれていたのか。


アシュレイは細かいことは気にしなかった。ただ名をあげて王に方膝をつく機会が欲しかったのである。この大会は褒美のことが一番大事であった。


アシュレイは大勢の毛むくじゃらや、腕っ節の強そうなマッチョを押しのけて、

その闘技場のエントリーをすませた。

受付はすこし驚いていたようだったが、気にならない。


アシュレイはふと、物憂げな美少年とすれ違った。

すれ違ったとき、西の国の香りがして、ただならぬオーラを放っていたのである。


「あんな奴が出場するのか」


年のころは15~6歳だろうか、アシュレイよりひとつかふたつ年上である。






「あの、男の子を追ってきたんです、知りませんか、小さくても強くて」


シスターは、アシュレイの居所を探して、ちょうど同じ空間にいた。

「アシュレイカルティエ?」


亜麻色の髪の少女が、目を輝かせてファティナの側に寄った。


「会ったよ、多分ここにいるよ」


「本当ですか!それだったら是非聞いて欲しいことがあるんです!」


「聞いて欲しいこと?」


亜麻色の髪の少女は思わず言葉を繰り返した。やがて小さくて目立つアシュレイはようやくファティナと合流し、アシュレイはチラシに書いてあるこまかい字を読んでいなかったことを知ることになった。


「始めましてアシュレイ、私巡礼中のシスターでファティナ」

「へえ?」

「是非あなたに聞いてもらいたいことがあって」


小柄で黒目がちなシスターはファティナと名乗った。そうしてアシュレイが何も知らずにこの闘技場にエントリーしたことを知った。


「村一番の剣士だって聞いたものですから、是非お願いしたいことがあったのです、

あなたはこの大会で優勝して、エリメルにプロポーズする機会を与えられるのですが、それを断って欲しいんです」


「プ、プロポーズだって!?」


アシュレイは初耳でひっくり返るほど驚いた。


「エリメルは好きな殿方がいるのに無理やり結婚させられるだけなんです、

そこで優勝した方が断ればこの話はなかったことになるでしょう」


「知らなかったんだ」


亜麻色の髪の少女がすっかり打ち解けたファティナの横にいて会話に参加した。


「オレはまだ15歳だし、結婚なんて早すぎるよ、だいたい顔も知らない相手と結婚なんかしねーよ」


「よかった!」


ファティナが顔を紅潮させアシュレイに飛びついた。


「アレを見ても?」


亜麻色の髪の少女が、アシュレイの袖をひっぱり、闘技場の観覧席にいるエリメルの姿を見せた。飛び上がるほどの美少女である。


「んーかわいいけど俺はあんまりタイプじゃないわ」


さらっと受け流したので少女は大笑いした。


「きっと優勝するよ、アシュレイは。誰か凄く強い人が出るって噂聞かないもの」


少女の顔をじいっとアシュレイはしばらく眺めてしまった。


「自己紹介遅れたね、私エレメンツのミラルカ。多分私はすこし年上だよよろしくね!」


そうして右手を差し出したので、アシュレイはちょっと照れてすこし握り返した。


「さっき、すんごい不気味な男を見かけたけど」


「異国の騎士が出場しているみたいですね、ぱっと華やぐような美しい方なのにとても暗くて」


「魔法で干渉しようか、アシュレイ」


ミラルカがそういうと、烈火のごとく怒った。


「手を出したら怒るからな!」


それだけを言って、アシュレイは控え室に移動した。

さっきの男と同じグループではない。

ニナーフォレストからもらった剣が鋭く光った。

アシュレイが歓声を浴びながらそのグループを勝ち抜けたときには

もう昼下がりになっていた。



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