2-6 三つの面倒
面倒が、二つ……いや、三つに増えた。
まず、僕に宣戦布告してきた彼――先ほど得た情報だと、
「
「なんで僕と戦おうっていうの?」
「俺が勝ったら、
「だから、僕が付きまとってるわけじゃない」
何度も僕は
「戦えー!!!」
爽やかな男子だと思っていたのに、案外ネチっこい性格で、人間やっぱり外見と性格はリンクしないんだなと感じた。
そして、第二の面倒は、もちろん彼女だ。
彼が僕のところに来ると、なぜか彼女も吸い寄せられるように僕のところにやってくる。
もしかして、彼女も彼のことが気になったりしているのだろうか。どうでもいいけれど彼が彼女と僕抜きで二人でよろしくやってくれたらそれが一番だから、今度こっそり聞いてみるか。しょうがない。
だが、一番の問題は彼でも彼女でもなく――
月曜日の休み時間、珍しく体育祭のダンスの練習が休みという日に限って、
何か家で事件でも起こったのかと思わせるような形相で僕の席までやってきて、バンと机に手をついて心は叫んだ。
「ねえ! 愛くんが土曜日にデートしたって聞いたんだけど!? 俺そんなの聞いてないんだけど!? 土曜は一日試合だったし、まったく気づかなかったけど、本当なの!?」
まず、聞かせてほしい。なんで心が知っているのか。
朝一緒に登校した時は知らなかったはずなのに、もう情報を仕入れて昼には僕の教室に来てるって……心は、どういう情報網を持っているのだろう。
「別に情報源なんてどうでもいいんだよ! その顔は行ったって顔だね!」
あっさり考えていることを読まれる。別に心に隠し事が出来るとは思ってもいないので、隠すつもりもない。
「行ったよ。映画見ただけだよ」
「何の!?」
「キースと魔法の旅」
「おもしろかった!?」
「うん」
僕が映画を楽しんだことに関しては、心も嬉しいらしい。実は心は暗いところが嫌いで、映画館には僕と一緒に行きたくても入れないのだ。
「で、誰と? まさかあの菊本ことは、だったりしないよね!?」
「うん、私とだよー!」
彼女は、心の背後からにゅっと顔を出して楽しそうに笑いながらそう言った。
……火に油だ。困った。
「うわ、でた……!」
心が心底嫌そうな表情をする。
「僕の
「振り回してないよねー。 私たち、信頼で成り立ってる関係だもん。なんたって“友達”だから」
「友達!?」
心が僕の方をありえない、という目で見た。
そう、僕が友達をつくるなんてありえない。心はそう思っているし、僕も同意見だ。
「君の友達のレベルと、僕の友達のレベルは違う。一緒にしないでくれ」
「私は友達って思ってるもーん」
彼女は僕の言葉をいつも通り聞いてない。信頼は二方向で成立するのだ。僕の信頼は、彼女には向いていない。
「愛くんに友達なんていらない。愛くんを傷つけうるものなんて、いらないんだ」
心は、そう言ってキッと彼女を睨みつけた。
そこに、第一の厄介の彼が割り込んでくる。
「お前は誰だ」
「愛くんの弟の和田心ですけど。あなたは?」
「
「……自称友達に自称ライバルなんて、愛くんはどうしちゃったわけ」
僕が聞きたい。静かに平穏に学校生活を暮らしたいのに、なぜこんな騒がしい人たちを僕は引き付けてしまっているのだろう。
――僕は、騒ぐ三人の存在を無視して弁当をほおばることに決めた。
***
“君は、彼のことが好きなの?”
夜、彼女にメッセージを送った。自分から送るのは不本意だったけれど、あわよくば、僕にしつこく迫ってくれる彼をどうにかしてくれるのではないかと期待していた。
すると、彼女からは“ふつう”と返って来た。絶え間なく“それに私、あの人にメールで告白されたの。画面越しの告白だよ? そんなので気持ちって伝わると思う?”と次の文字が続いた。
僕の期待は、どうやら外れたようだ。少なくとも、彼女は彼のことを友達としかみなしていないらしい。そして、彼がなりふりかまわず自分の気持ちを大声で言っているのは、彼女にすでに一応告白していたかららしい。不憫だ。
しかも、彼女の答えは友達から始めましょうとのことで、その曖昧な答えのせいで彼は諦めがついていないのだ。哀れだ。
だからといって僕を使って彼女にアピールしようと考えている彼を許すわけにはいかない。そもそも僕が付きまとっているのではなく、彼女の方が何かと僕につっかかってくるのだから、勘違いも甚だしい。
というか、僕を倒しても彼は何の利益も得ない。それを説明したくても彼は僕の話を落ち着いて聞いてくれないし、どうしたらいいのだろうか。
人との付き合いを最低限に制限してきた僕にとって、彼をどう扱えばいいのか見当もつかなかった。
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