第二章 体育祭編
2-1 ペア
文化祭実行委員会があった日から、僕と
「じゃあ机を後ろに寄せてー!」
そして、一年で一番嫌いなイベントが、もうすぐやってこようとしている。
それは――体育祭だ。
僕の学校は、体育祭が六月の上旬にある。体育祭といっても、中学までのそれとは大分異なっていて、競技にはまったく力をいれていない。競技の練習をするのは、体育祭の前日くらいだ。
では、何に力を入れているのか。
――それは、応援合戦という名のダンス発表だ。
この学校の体育祭は、団形式で行われる。一学年九クラスあるので、九つの団ができることになる。それを縦割りで一つの団として三年生の生徒がまとめるのだ。ちなみに僕たちのクラスは黄団だった。
体育祭二週間前ほどから、昼休みや放課後の体育祭練習時間に、団の先輩たちによるダンス指導が始まる。しかもそのダンスは所謂創作ダンス。学生が出来る範囲の振り付けだ。
まあ、ダンスの振付が悪いからダサく見えるのではなく、僕の運動神経とダンスセンスのせいなんだけれど。
とにかく、その応援合戦も、応援合戦を練習するための時間も、僕にとって死ぬほど苦痛な時間だ。
まず、このダンスでは男女がペアになるのが基本だった。つまり普通の男女にとっては気になる異性に接近できるチャンスというわけだ。ま、大抵背の順で決まるから、意中の人とペアを組める確率は果てしなく低いわけだが。
そして健全な男子高校生にとっては公的に女の子の手を取って一緒に踊れるというなんとも素晴らしいイベントだ。普通だったら盛り上がるだろう。
……でも、もしペアが根暗でクラスでも空気のようになっている男子だったら。そう、たいていの女の子はがっかりとした表情で僕の隣に並ぶのだ。
僕だって、できればこんなことやりたくないしできることなら逃げてしまいたい。会話はしないから、毎回心地悪い沈黙が流れるのだ。
一年生の時は当日も休んでしまいたいと何度思ったことか。……でも、そうしたらペアの女の子は当日一人で踊ることになってしまう。
さすがの僕でも、当日になってドタキャンされ、一人でカップルダンスを踊るなんてそんな仕打ちを受けたら傷つくからできないけれど。
他人のことはどうでもいい。僕の悪口を言っているヤツは嫌いだ。でも、中立な立場の至って普通なクラスメイトを故意に無下に扱う勇気を僕は持ち合わせていない。
こんな変なところで臆病な僕が、僕は嫌いだ――。
加えて、僕はスポーツが得意ではないし、友達と盛り上がるような性格でもないから、体育祭当日も何をしていればいいかわからなくて、一年の時は自分の出る種目と応援合戦以外の時は、誰もいない机だけの教室で本を読みながらさぼっていた。
外から楽しそうに生徒が応援している声と、耳につく応援のための放送が聞こえてきて、まるで僕が独りでいることを嘲笑われているようだった。その時、いつもは感じない孤独を身近に感じた。そのいたくつまらない時間も好きではなかった。
僕らのクラスにダンス指導のためにやって来た団の先輩たちは、身長がすらっと高くてうちのクラスの女子たちがかっこいいと騒いでいた、いかにもクラスの中心です!って感じの男の先輩が二人。そしていかにもキラキラチア部です!って感じの女の先輩が二人。
つまりは僕の苦手な部類の人だ。まあ、僕をとりまく人の九割は苦手だから誰が来ても苦手という枠組みにカテゴライズされることは間違いない。
そして、その先輩たちの言う通りに机を下げて、教室にダンスの練習が出来るようにスペースを作った。
「じゃあ背の順に並んでくださーい」
その掛け声で、ぞろぞろと人が動き出す。
僕の身長は、四捨五入すると170センチ。男子にしてはミニサイズ。背の順も前から三番目だ。母さんの腹の中で心に身長の分の栄養素は全部吸われたと思っている。
それでも全員で踊るには狭すぎるからと、身長が低いほうから三分の一の生徒が廊下へ出された。もちろん、残念ながらその中に僕も含まれている。
なんでわざわざ醜態を廊下で晒さなければいけないんだと思ったけれど、他のクラスの日陰組と思われる人たちも廊下へ出てきたから変な安心感はあった。
「じゃあ背の順に並んでもらっていい? こっちから小さい子で」
先輩の言う通りに男女で別れて廊下に並んだ。
「で、今隣にいる人がダンスのペアでーす!」
――なんで。
「よろしくね、
――なんで
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