休閑話 恋と、マスク

 



 とぷん。


 水しぶきひとつあげずに、穏やかに、


 恋に落ちた。


 桜が舞うより静かに。

 春風より温かく。

 砂糖よりも甘い毒。


 穏やかな始まりが嘘みたいに、そばにあなたがいるだけで、どくんっ、どくんっ、と心臓が飛び出しそうになる。熱くて、弾けとびそうな恋心をなだめるのはとてつもなく、大変。



 嫌いになんてなれません。


 何度も、好きにならないように、嫌いになれるように、努力したけど、あなたが睫毛を揺らすたび、髪をかき分けるたび、ぎゅっと、他のすべての感情を押し退けて、恋心が、胸を占領してしまう。




 「藤乃、大好き!」


 あなたが決めた枠の中をはみださないように。


 どこまでも私と違う。交わらない『好き』。すれ違っていることを知っているのは私だけだから。



 だから、それは、ちょっとした抵抗だった。


 同じ女であることが、双子であることが嫌で。


 あなたが、大切な妹に『好き』と言うたびに否定して、冷たくした。


 恋心をかんじるたびに、感情のスイッチを消して。なにも知らない顔をした。


 あなたの言葉に暴言を、行動に暴力で、いつだって、この恋をなかったことにしたくて、必死なの。 

 

 決して気付かれないように。


 あなたと同じこの顔を隠して。

 あなたに叫ぶ愛の言葉を閉ざして。

 あなたを想って流れる涙を殺して。


 『あなたのことなんて、大嫌い。』


 今日も私は仮面〈マスク〉をつけるの。





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