第9話 (暴力)

「はいはーい、勝負ありましたねー☆」

という吉川 恵。

突風で瓦礫が散った際に突き出た岩に手を伸ばして落下を防いでいた小鳥遊 光が目撃されたためどちらが勝者でどちらが敗者か一目瞭然である。

しかし、

「…模擬戦なんていう限られたスペースだから負けただけで実践なら俺の方が強い!

ここからは模擬戦じゃなく実践だ!」

と岩山 輝人が言い放った瞬間学園を中心に地面が大きく揺れた。

これには吉川 恵も対応しようとするが

「くっ、私のパワー―魔法力―が押し負ける!?

まさかとは思ってた…けど…ドラッグでも服用してた…みたいね…!」

と苦しそうに言った。

それを見た若月 夏が重力で岩山 輝人を抑えようとするが

「まるで硬質の金属の塊に重力でもかけているかのごとく効き目が悪い!」

とこちらも苦戦しているようだった。

「体内に金属粉を忍ばせておいたからな。

これで邪魔者もなくじっくり雑魚を処理できるわ。」

と言い放つと、まずは

「雑魚は雑魚らしくおとなしくしてればいいんだよ、とりあえず痛い目に会っとけ!」

と小鳥遊 光に魔法による襲撃をしかける。


吉川 恵が魔法の相殺に力を使っていてなお、地異が起こってるも同然で地面は揺れ、起伏を陥没繰り返し、殆どの人がその状態でまともに動けず、若月 夏は他の生徒を守る方に方向転換していて対応できるはずもなく…

ところが、

「こうちゃん!」

と岩山 輝人の砲撃を打消しつつ出てきたのは小日向 雛。

そして、岩山 輝人の方に向き直ると…

「こうちゃんに何をするつもり?そんなの許さないよ?」

と明らかにやばい感じの魔法力を放っていた。

その結果か彼女の周囲は魔法の効果の無効化―魔法力を吸っている―が起こっている。

とは言え大地の魔法は物理的な要素を多分に含むため揺れを完全に防いでるわけではないが。

このままでは死人が出る―急激に大量の魔法力を奪われると肉体のバランスが崩壊して体が物理的に崩れ落ちる―と感じた小鳥遊 光は

「…雛、俺が決着を付ける。」

と言うと

「…んー、うーん…」

と唸ったあと後、小鳥遊 光の方に向きを変えたかと思うと唐突に口にキスをしてきた。

ちなみに彼女にキスをされたのはこれで2度目である。1回目の時は戯れの中でやっただけの軽いものだったが、今回は結構しっかりと。

口を離した彼女は一言小さく言った後、

「うん、じゃあ後は任せるね。」

と言って後方に回った。

キスをした理由などはおいおい聞くとして、今は岩山 輝人の対処に向かう。

「はっ、お姫様のキスでパワーアップってか。そんなの幻想だろ。」

と岩山 輝人は嘲笑してきた。

小鳥遊 光はその言葉を受け流しつつ盾の有効範囲に入れる為に駆け出す。

「近づかせねえ、絶対にだ!」

と小鳥遊 光の周囲ごと足場もろとも崩そうとするが

「なぜだ、なぜすぐに崩れない!?」

と発する。

「どうも俺の魔法の特性は"無効化"みたいでな。」

と言いつつ足に魔力を溜めつつ小鳥遊 光は走る。

ならばとその先の道を魔法で底の見えない穴を作って接近を拒否しようとするがそこを跳躍の魔法で飛び越える。

「な…!」

と驚きの声を上げた後

「貴様、盾の強度のために魔法力を全て注ぎ込んでたはずだろ。どうして魔法力が上がってやがる!」

と言う岩山 輝人に対して

「今さっき魔法力を借してもらったからな。」

と答える。

「そんなバカな話が…とりあえず落ちろ!」

と巨大な岩の砲撃が襲ってくるも…

それを叩き割らずに軽く盾を持ってない方の手で触ってそのまま反動で一旦上に着地、そのまま再跳躍をする。

「そんな…そんなバカなあ…!」

と岩山 輝人が発すると同士に大きな岩石の弾丸が雨のように飛んできた。

しかし、小鳥遊 光が盾で触れるだけでその岩石の砲弾が次々と下へと落ちていく。

「どうしてだ!?どうして力も使わずに落とせる!」

と言う岩山 輝人に対して

「俺の魔法特性を聞き損ねたのか?」

と返した。

「無効化… まさか…まさか、盾に触れたものの威力を全部消してるのかよ畜生。」

と苦し紛れに言った。

―ちなみに具現武装化にあたって魔法の特性自体は反映されることが確認されており、燃え上がる剣だったり、振り下ろすと雷が奔る(はしる)斧だったり、触れたものを凍らせる短刀だったりと様々な効果が確認されている。

小鳥遊 光の場合は魔法力の総値が上昇したことで特性が出現したが。

谷の上を跳躍で飛んでいるため地面の干渉が及ばず砲撃は無効化されるとあっては詰んでいるに近い状況である。

「だが…」

と岩山 輝人が立ち退いた場所は小鳥遊 光の着地予定地点である。

そして、その着地予定地点の地面がなくなる。

「これでさらばだ、奈落の底まで落ちろ!」

と起死回生の一手を使ってきた。はずだったが…

「なぜだ!なぜ落下しない。」

「空気抵抗を無効化させてもらった。ゆえに距離が延びる。」

岩山 輝人が小鳥遊 光を見なおしてみると盾だけー足を畳んで体全体が盾の範囲に収まっている―が目に映った。

盾の方向にだけ空気抵抗が無いために浮力も働いてなかなか落ちないのである。

距離はもう間近で岩山 輝人には対応するための魔法を行使する力を溜めるには距離が足りない。

「くそ、くそがあああああ。」

小鳥遊 光はそのまま跳躍の勢いによるシールドのチャージ攻撃を叩き込む。

無効化により文字通りの鉄壁の防御が意味をなさず―そのため通常の盾の攻撃と化してはいるが―岩山 輝人に強いダメージが入り、そして倒れる。

小鳥遊 光は勢いあまって岩山 輝人の居た後方まで吹き飛んだが。

と同時に地異も収まった。

すると荒れた大地がみるみる整地されていく。吉川 恵の魔法が正常に機能しはじめたのだろう。

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