第20話 持ち歌
酒が入ると必ず歌を唄う治三郎には、十八番とも呼べる持ち歌があった。「上海の花売り娘」や「支那の夜」や「曾長の娘」がそれである。そんな彼には、会話をしたことのない宿敵がいた。ウィリアム・ハルゼー米海軍大将である。「キルジャップス!キルモアジャップス!」をスローガンにしていた闘志剥き出しの、米海軍の闘牛とは彼の事であろう。ハルゼーは、海軍士官の息子であるが、成績が悪すぎて、当初の試験でアナポリス海軍兵学校に入学出来なかった。そこで、母親が夏のある日、パラソルをさしてホワイトハウスに出かけ、守衛ともめたりしながら、当時の合衆国大統領マッキンレーに直接会って、息子を海軍兵学校に入れてくれと直訴した。「うちの息子は、成績こそ振るわないが、将来有用な人間になるから、是非とも大統領閣下のご推薦を頂戴したい。」と、迫ってとうとう縁故でハルゼーを海軍兵学校に入れてしまう。敵とみたら真っ直ぐに突進していくハルゼーは、猪突猛進型の破天荒な司令官であった。後に南太平洋で日本海軍相手に大暴れする事になるわけだが、ガッツあふれる彼の勇猛果敢な指揮が、日本海軍の連敗に繋がったのは、言うまでもない事実である。
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